第194話 選考試験

 選考試験は、職業訓練校で行われる。

 真理江さんの家から、大体1時間位の距離で有る。

 訓練校に到着して、保育士学科試験の時と同じ様に受付を済ませ、俺は試験会場(教室)に入る……


(……やっぱり、若い世代と言うより中高年が多いな)


 試験会場内に入った、第一印象はそんな感じで有った。

 20代と見られる男性は俺以外には居なくて、殆どが40代以上の人達ばかりの感じで有った。

 試験までの時間に余裕が有るので、この後に俺の様な若い人も来るかも知れない。


(試験に受かっても……、コミュニケーションを取るのは一苦労しそうだな)


 当たり前だが、世代によって話題が全然違う。

 俺の場合はスマホゲームにも嵌まっていないし、流行の先端等も追い掛けてないので、例え同世代でも話は合わない感じはするが……


(その辺の事は、試験に受かってから考えるか…)


 試験対策勉強も特にしようが無いので、俺は試験開始までの間、周囲に話し掛ける事無く静かに待つ。

 やはり、同世代の人達は世代が同じなので、ちらほらと話し掛けていた。


 ……


 試験時間と成り、試験担当から試験の説明が始まる。

 1時間目は作文。2時間目は筆記試験。3時間目以降は面接の流れで有った。


 試験担当からの説明を受けている中、俺は周囲の人数を改めて確認をして見るが、殆どが中高年の男性で有り、最年少は俺の感じがして、30代らしき人が2人から3人居る様な感じで有った。

 受験数も30人以上居て、楽観的なモードでは無かった。


 説明も終わり、いよいよ試験が始まる。

 作文のテーマが同時に発表されて、そのテーマで作文を作成する。

 テーマは『あなたが、農業に進む決意した切っ掛けとは』のタイトルで有った。

 俺にとっては素直に書いたら、不合格にされそうなタイトルで有った。


(流石に『真理江さんに紹介されましたから』とは書けんからな)

(出任せでも良いから、それ相応の文章を考えて書かないと…)


 農業に進む理由が『真理江さんや鈴音さんに嫌われたくは無いから』とは、書けないからだ。

 そんなふざけた作文を書いて出したら、確実に落ちるに決まって居る。

 この辺は……、幼少の頃に興味が有ったで切り出して、鈴音さんの事を間接的に混ぜ込んで文章を作ろうと俺は考えた。


 この試験時間は40分有るので、有る程度纏める時間が有る。

 開始の合図が鳴り、試験が始まる。

 俺は上手に嘘を入れながら作文を作成した……


 ……


 どうにか1時間目の試験を終えて、今は10分休憩で有る。

 次の試験は筆記試験……

 どれだけの量が出るかは判らないが、筆記試験の配分は20分で有った。


 20分で出来る筆記試験なんて、たかが知れている……

 俺はそう思っていたが……


「はい!」

「はじめ!!」


 試験担当から合図で、筆記試験が始まるが……


(嘘だろ…)

(これだけの問題を20分で埋めろと言うのか!?)


 問題が印刷されたA4用紙が2枚と解答用紙で有った。

 1枚目は数学の問題で有って、ご丁寧に『裏面に続く』と記されている。

 もう1枚は漢字の書き取りと読み取りで有るが、びっしりと印刷されているので、20分で全部を埋めるには、かなりの理解力とスピードが求められていた……


(考えて居る間に一問でも解かないと、20分なんてあっという間だ!)


 一番時間が掛りそうな数学から、俺は手を付けるが……


(……解けない事は無いが、1問に掛ける時間が長すぎる!)


 時間が5分経過した所で、解けた問題は数学の中では5分の1で有った。

 この状態ではとてもじゃないが、数学だけで時間切れと成ってしまう!


(数学はこの問題で切り上げて、まだ確実に点が取れる漢字に行こう)


 数学を途中で止めて、漢字に進んだは良いが……


(読みと書きだけかと思ったら、四字熟語まで有るか!)

(おまけに難しい四字熟語ばかり選びやがって!!)


 数学も駄目で漢字も厳しい……


(この試験は記入方式だから、山勘も出来ない)


 俺は時間に追われながら……必死に成って解答を埋めた。


「やめ!」


 解答用紙に全部が埋まらない内に、試験担当から試験終了の合図がされる。


「筆記用具を置いてください!」


 20分の間に俺は、6割位の解答しか埋められ無かった……

 この選考試験で、筆記試験の重要度の位置付けが判らないが、上位に入っていたら非常に厳しいだろう。


「問題用紙と解答用紙を回収します!」


 試験担当がそう言うので、俺は試験問題と解答を纏めていると……


(えっ!?)


 なんと!

 漢字の問題用紙の裏には英語の問題が有った!?

 冷静に考えれば何故、最初に確認をしなかったのだ!?


 試験問題と解答用紙が回収される中、俺は心の中でこう感じていた……


(俺、終わったな……)

(この試験まで落ちたら、俺は鈴音さん達に合わす顔が無い…)

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