第193話 方向転換

 翌日の午後……


 俺はその日のアルバイトを午前中までにして貰って、今は九尾きゅうおのハローワークに居る。

 今から職業訓練の申し込みを行うのだが、俺はハローワークに改めて求職申し込みをしていない。

 確か有効期限が有るので、求職申し込みから始まる


 受付で『職業訓練を受講したい』と言いながら、昨日貰ったパンフレットを受付の人に見せる。

 当然『ハローワーク受付票は持っていますか?』と聞かれるので『持ってない』と答える……


 後は事務的作業の流れで、申込用紙や数枚の用紙が用意されて、簡単な説明を受けてから、それに記入をして行く。

 名前や住所。学歴や職歴。保有資格などを書いていく。

 それが書き終わったら再度受付に持って行くと、次の指示が出されるのでそれに従っていく。


 ……


 職業相談と言う、職員との面談を受けて、俺は職業訓練の申し込みと同時に給付金の手続きも行っていく。

 試験日はパンフレットに記載されているので、試験日は今の段階で分かるが、その辺の説明も職員から改めて受けていく。


 大体、2時間位で申し込み手続きを終えてハローワークから出る。

 外に出ると……もうすぐ梅雨に入る時期でも有って、蒸し暑い空気が俺を出迎えてくれる。


(これで、良かったのかな?)


 他の人から見れば、俺は真理江さんや鈴音さんの言いなりに動いている様にも見える。

 実際はそうだが、俺の中でも真理江さんの家にまだ留まりたかった。


 真理江さんは母親では無いが、実の母親よりも良く見えてしまう時が有るし、稀子も赤の他人だが妹と感じる時も有る。

 鈴音さんは将来をお互い意識している仲だが、まだ自立は出来ない。


 本当に自分勝手だが、俺は真理江さんの家が重要で有った。

 住む場所、食べる場所、家族では無いけど家族と感じる場所。

 俺は選考試験に今度こそ合格をして、新しい道を歩むんだと考えながら、真理江さんの家が有る町に戻った……


 ☆


 月日はしばらく流れて……今日は職業訓練、選考試験の日


 この選考試験…。てっきり面接だけかなと思っていたが、しっかり筆記試験も有る。

 筆記試験の内容は一般常識問題が出ると、ハローワークの職員から言われたが、その辺りをインターネットで調べると、漢字や数学の問題が出るらしい……


 勿論、俺は既に現役生では無いが、俺の側には鈴音さんや稀子の現役生が居る!

 漢字や数学と言っても、学園卒園程度と書いて有ったので、この辺りの勉強は鈴音さん達に頼って教えて貰う。


 年下の人に勉強を教えて貰うなんて、本来に恥さらしも良い者だが、鈴音さんや稀子の方が俺より遙かに勉強が出来る。俺は恥を忍んで勉強を教えて貰う……


 この筆記試験はマークシート方式では無く、昔ながらの解答を用紙に書いて行くスタイルだそうだ。

 更に筆記試験だけで無く、何故か作文も書かされるらしいので、この選考試験はかなり本気度の高いコースだと俺は感じていた……


 この日の朝食は真理江さんの当番で有ったが、鈴音さんや稀子が変わる事は無く、真理江さんが作った朝食が食卓に並んでいた。

 保育士学科試験程、鈴音さんや稀子は興味を感じて無いのかも知れない……


 朝食のメニューは真理江さんが作るから、もちろん和食で有って、焼いた干物・納豆・味噌汁・漬物で有った。

 鈴音さんや稀子から、試験に期待する様な発言は特になく、何時も通りに朝食の時間は過ぎていく……


 出掛ける準備をして家から出るが……、アルバイトに行く様な感じで家から出る。

 俺に職業訓練を進めた真理江さんですら、特に見送る事は無かった……


(期待されてないのか?)

(それとも、プレッシャーに為らないように配慮しているのか、どちらだろう?)


 保育士学科試験の時は……確かに重圧で有った。

 鈴音さんや稀子も、俺に大きな期待を持っていた。

 結果は惨敗では有ったが、今回もこうなる事を真理江さん達は見越しているのだろうか!?


(訓練の定員は30人だが、学園の入園試験の様に、事前に受験者の数が分からないからな)


 農業職業訓練の人気度は、どれだけ高いのかは本当に判らないが、一時農業がブームに成った時が有った。

 30人の定員は決して少ない方では無いが、倍率が1を切る事は無いはずで有る。


(合格出来るかは本当に未知数だが、これにすら落ちたら、鈴音さんは今度こそ俺を見限るだろうな……)

(あの稀子だって……俺に愛想を尽かすかも知れない…)


 俺はこれからの不安と将来を心配しながら、選考試験が行われる会場に公共交通機関で向かった……

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