第184話 縒りを戻す!? その1

「比叡君! 私だよ!!」

「入って良い?」


 やはり……来訪者は稀子で有った。

 俺はドア向こうに返事をして、稀子に入室を促す。

 稀子は普通の表情で部屋に入ってきた。


「突然、お邪魔してごめんね///」


 稀子は少し、恥ずかしそうに言う。

 本当に俺との縒りを戻しに来たのか!?


「あっ……ちょっと、クッション用意するから待ってて!」


 俺はさっき、押し入れに仕舞ったばかりのクッションを再度取り出して、それを畳に置いて、其処に稀子に座って貰う。


「私だけで、比叡君の部屋に入るのは初めてだね♪」

「普段は遠慮しているから!///」


 稀子は嬉しそうに言う。

 稀子の用事は本当に、俺との縒りを戻す事か!


「比叡君……りんちゃんと喧嘩したでしょう!」

「理由は言うまでも無いけど……比叡君は鈴ちゃんをどうするの?」


 稀子の表情は、親友を心配する素振りは無く、普通の表情で言う。

 様子を伺いに来ただけか?


「どうするも無いよ…」

「鈴音さんは夢を見ていて、現実を見ていないんだよ」

「小説の世界の様に起きない奇跡が起きて、俺が保育士に為れると思っているんだよ」


「夢…?」


 稀子は不思議そうに言う。

 俺は変な事は言って無いぞ。


「そう、夢!」

「鈴音さんは、俺が保育士になる姿を夢見て、俺に好意を持ったのだよ!!」

「俺が夢を諦めた途端に、これだから……」


「う~ん……鈴ちゃんが、そんな事で比叡君を好きなるのかな?」

「鈴ちゃんは現実主義だし…」


 稀子は悩んだ表情をしながら言う。


「けど……それしか無いだろ。稀子!」

「俺が保育士成る事諦めた事によって、鈴音さんは夢から覚めたんだよ!」


「……夢から覚めたか」

「私はまだ、鈴ちゃん側を聞いてないから、何とも言えないけど、鈴ちゃんの様子からしてかなり怒っている感じだよ!」

「丁度……山本さんの時と同じぐらい」


「感じ的に言えば、そうだよね」

「あの時は、山本さんが鈴音さんを追い込んだけど、俺はそんな事はしないから…」


「……」


 俺がそう言うと、稀子は『ジーー』と俺を見つめ始める……


「急にどうした……稀子!?」

「俺の顔に、何も付いていないだろ!」


「比叡君はどうしたい……。鈴ちゃんと仲直りしたい?」


 稀子は真面目な表情で言う。


「仲直りはしたいけど……そう簡単には行かないだろ?」


「そうだね~~」

「鈴ちゃんがどの部分で怒っているかは、何となく分かるけど……違う気もするし~~」


「……所で、稀子は何で俺の部屋に来たのだ?」

「俺を心配してくれてか、それとも……」


「んっ?」

「比叡君、いきなり何を言い出すの!?」


 稀子はした表情をする。


「えっ…!?」


「まさか……比叡君」

「私があの時の様に、鈴ちゃんの恋人を、私が横取りしようとでも思っていたの?」


「……」


(なんだ……違うのか)

(親友の様子を、本当に伺いに来ただけか…)


「それとも、なに!」

「比叡君は私と、再度関係を深めたいの!?」


 稀子は驚きながら言う。

 そうでは無いの!?


「違うの……」


「あのね比叡君!!」

「私だって、山本さんの事は悔やんでいるのだよ!!」


「私が山本さんにを出さなければ、あの様な事件は起きなかったかも知れない」

「比叡君も……しっかり、鈴ちゃんに手を出したけどね!」


「稀子…。過ぎた話を蒸し返しても仕方が無いよ」


「私はあの時の反省から、もう泥棒猫はしない事を心に誓った!!」

「今でも……比叡君は好きと言われれば好きだけど、私はあの様な過ちは二度と犯さない!!」


「もし……比叡君が私をまだ意識しているなら、鈴ちゃんと別れてからにして」

「でも……それをしたら、今度こそみんなバラバラに成るね」


「私は波津音市はずねしに戻るしか無いし、鈴ちゃんはおばさんと残るのかな?」

「だけど……比叡君に居場所が今度こそ無くなるよ!!」

「その覚悟が有るなら、私は比叡君を受け入れるかも知れない…」


 やはり……稀子はまだ、俺の事を意識していた。

 俺が稀子を取る事も可能だが、それをしたら、鈴音さんが許したとしても真理江さんが激怒するだろう。

 俺が行う行動は、余りにも身勝手すぎるからだ。


 取る選択は1つしか無いが、それでも真剣に悩む俺が其処に居た……

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