第175話 大雪が降った有る日…… その5

 雪遊びをする事に決めたが、先ずは真理江さんと鈴音さんに、今日はアルバイトを休む事を伝える。二人は居間に居た。

 真理江さんは『そうですか』と言うだけで有ったが、鈴音さんは『やれやれ…』の表情をしていた。


 鈴音さんに休む事を伝えた後、稀子に雪遊びに誘われたので、その事を鈴音さんに伝えると……


「……比叡さんは、稀子さんと遊びたいが為に、アルバイトを休んだのですか!?」


 案の定、鈴音さんの表情はに成った。


「そっ、そんな事無いですよ!///」

「アルバイト先が『今日は仕事が無い』と言われたので///」


「……本当ですか!?」

「企業さんが雪で、開店休業に成るものですか…?」


(うぁ…、滅茶疑っているな)

(嘘だけど、こう言わないと真面目な鈴音さんは納得しないし)


「俺のアルバイト先は物流倉庫ですので、荷物が来ないと仕事に成りません。現に高速道路も通行止めに成っている部分がかなり有ります」

「鈴音さん! 俺が嘘をつく人間に見えますか?」


「……分かりました。今回は比叡さんを信じましょう」


(やれやれ。鈴音さんは時々、頭が堅い時が有るからな)


「しかし、稀子さんと雪遊びですか?」

「本当に遊ぶとは……」


 鈴音さんは軽いため息を付きながら言う。鈴音さんは気乗りではないようだ。


「二人で遊んでなさいとは言えませんし、仕方有りませんね…」


(やはり、鈴音さん。俺と稀子を二人きりにはさせたくない様だ)


「それで……、何時から遊ぶのですか?」


「稀子の事だから、今からでは無いのかな?」


「多分そうでしょうね…」


 鈴音さんは再度ため息を付く。本当に嫌そうで有った…


 ……


 長靴と防寒具を着た、俺と鈴音さん稀子は今、真理江さんの庭に居る。

 稀子の最初のプランは、雪だるまを作る事だったが……


「この雪で雪だるまを作ったら、雪合戦が出来ないね♪」

「ねぇ、先に雪合戦をしようよ。体を暖めてから、雪だるまを作ろう!♪」


「稀子。三人では雪合戦は出来ないだろう…。奇数ではチーム分けが出来ない」


 流石にこの年に成って、雪合戦をしたいとは俺は思わない。

 学童保育の世界だって、小学生と混じって俺が、雪合戦をする事は無い筈だ。


「稀子さん…。私は雪合戦が得意では有りません」

「私は雪玉を作るより、を作る方が好きです…」


(この辺が、鈴音さんの可愛らしい所だよな!)


「じゃあ、雪だるまでも作るか…。りんちゃんも比叡君も大人ぶって!」


 稀子が少し拗ねながら言った所に……


『ねぇ、姉ちゃん達。雪合戦するの?』

『俺達も混ぜてよ!』


 小学生男子の声が、俺達に向けて聞こえてくる。

 俺達はその声の方に向けると、三人の小学生が庭向こうの道路側に居た。

 この雪の影響で小学校も臨時休校か…。その言葉に、稀子が直ぐに食い付く。


「おっ! 君達。お姉ちゃん達と勝負する!♪」

「ちなみに私は強いぞ~~♪」


「良いね! やろうぜ! 姉ちゃん!!」

「そっちの髪の長い、姉ちゃんもやるんだよね?」


 稀子は俺と鈴音さんの断りもなく、小学生男子達と雪合戦をする事を決めてしまう!?

 更に小学生の癖に鈴音さんをナンパしてきた! このませガキが!!

 俺はそれを止めると言うか、疑問を持った様に稀子と小学生達に言う。


「君達。雪合戦をするのは良いけど、この家の庭は狭いし、道路上で雪合戦をするのは大人としては感心出来ないな…」


 ここは正論攻撃を言って、雪合戦を諦めさせる作戦だ。

 鈴音さんも表情で俺を応援してくれている。これで、諦めてくれれば……


「大丈夫だよ! おじさん!!」

「近くに空き地が有って其処でするから……おじさんも参加するの?」


 小学生の男子は俺を扱いにして、最後は疑問形で聞いてきた!

 俺はまだ、20代前半だぞ。

 でも……小学生から見れば、俺はお兄ちゃんの年齢では無いのかも知れない。


「君達…。俺はまだ、おじさんでは無いぞ!」


「じゃあ、おじさんも参加なんだね」

「おじさんとお姉ちゃん達、案内するから来て!」


 小学生達は、俺の言葉を聞き流して歩き始める。

 全く、最近の子どもは教育がしっかりされていない。

 この小学校の校長に、文句は言いたい気分で有った。


「比叡さん…。落ち着いて///」

「子どもの言う事に、ムキに成ってはダメですよ。私達の方が大人なんですから///」


 鈴音さんは俺を宥めてくれる。


「俺が学童保育の指導員をしていた時ですら、おじさんとは1回も言われなかったのに…」


 俺が学童保育のパート社員をして居た時は『青柳先生』と呼ばれていた。

 今考えれば、教員の免状も持って居ないのに、どうして『先生』と呼ばれていたのだろう?

 偶々、其処の学童保育所の指導指針だったんだろうか?


「比叡君も大人の割に、まだ心は子どもなんだね♪」

「あの子達は悪気が有って言って居る訳で無いから、許して上げなくちゃ♪」


(稀子には、言われたくは無いな…)


 俺はそう思いながら、鈴音さん、稀子共に小学生の後を付いて行った。

 小学生と雪合戦をするために……

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