第163話 お正月の準備! その2

 俺と鈴音さん、稀子が見ている中で、真理江さん妹夫婦で餅つきが行われている。


「そりゃぁ!」


『パン!』


「ほいっ!」


「そりゃぁ!」


『パン!』


「ほぃっ!」


 ……


 夫婦のかけ声の中、餅がつかれていく。


(これ……息が合わないと、杵で相手側の手を潰しそうだな!?)


 俺は餅をついたことが無いから分からないが、一歩間違えば、大怪我しそうな感じもする。


「お餅をつく場面を久しぶりに見ましたが、やっぱり年末の風物詩ですね!」

「良い物ですね!!」


 鈴音さんも興味津々で、餅つきを見ている。


「やっぱり、夫婦だね!」

「息がぴったりだよ♪」

「私も、将来ああやって、お餅をつきたいな♪」


 稀子もそう言いながら、妹夫婦の餅つきを見ていた……


 ……


 1回目の餅もつき上がり、妹夫婦の男性が切り餅にするために、餅を伸ばして、のし餅にしている。

 その間に女性も、餅米の蒸し具合を見たり、次の準備を進めている。

 鈴音さんも稀子も何時の間にか、手伝いの輪に入っている!?

 俺はそれを呆然と見ていた……


 男性が餅を伸ばし終えて、それを邪魔に成らない場所に移動させて、次の餅をつく準備を進めていると、妹夫婦の女性から、俺に声を掛けられる。


「青柳君だっけ!」

「見ていても暇でしょう!!」

「お昼のからみ餅にする、大根をおろしてくれないかな!!」


 女性はそう言って、大根1本と大きいおろし金、ボウルを渡してくる。


「大根をおろす場所は、彼処の台を使っても良いから」

「お願いね!」


 女性はそう言い残して、次のお餅の準備に行った。

 俺は大根の入ったボウルを持って、特設会場で大根をおろし始める……


(大根するのは、久しぶりだな…)

(それにしても、1本丸々か…。からみ餅は昔食べた事が有って、美味しいけど、この大根をおろすのが大変なんだよな…)


 今の時代なら、フードプロセッサーで簡単に出来るだろうが、この家には絶対に無いし、真理江さんの家にも無い。

 昼食の時間までは、まだたっぷりの時間が有るし、多少時間が掛かっても、ゆっくりやれば良いと思った……


 ……


 時間は30分位経っただろうか。

 大根は3分の2位おろせたが、右腕がほぼ限界で有った……


(これはキツいな…。こんな事していないから腕が限界だ!)


 俺の横では、妹夫婦の男性が、2回目と成る餅を伸ばしていた。

 男性は手を休めている俺を見て、こう言ってくる。


「兄ちゃん!」

「ゆっくりやるのは良いが、今度ついた餅で昼食とするから、それまでには間に合わせてくれよ!!」


「俺は、からみ餅が大の好物だからな!!」

「旨い餅が有るのに、からみ餅が無いのはあかんからな!!」

「頑張れよ!!」


 男性は俺に、プレッシャーを掛けてきた……


(この人……悪気は無いのだろうけど、余り仲良くしたい人では無いな)


 それでも、昼食に俺の不手際でからみ餅が無ければ、俺はその男性に杵でつかれるかも知れない!?

 限界の右腕で大根をおろすのは諦めて、不慣れだが左腕で大根をおろす事にする。

 時間的に言えば、後1時間位で、昼食の時間に成るかも知れない……

 俺は己の限界に立ち向かうために、大根と対峙した!?


 ☆


 何とか……大根を全部すり終えた頃。俺の横では、鈴音さんと稀子が昼食の準備を始めていた。

 からみ餅以外にきなこ餅、小豆餅、納豆餅が作られるようだ。

 俺がすり終えたのを見て、鈴音さん、稀子が声を掛けて来る。


「比叡さん! 大根おろしお疲れ様です♪」


 鈴音さんは、天使の微笑みを掛けてくれる。

 疲れ切った時に、鈴音さんの笑顔!?

 腕は疲れているが、俺のは一気に元気に成る!?


「けっこう、時間掛かっていたね、比叡君!」

「その感じだと、普段から全然、大根はおろしてないな!?」


 鈴音さんは天使なのに、稀子は悪魔のように嫌みを言ってきた。


「まぁ、でも、間に合って良かったよ。比叡君!」

「私も、からみ餅好きだし!!」


「比叡君。味付けしてくるから、ボウルとついでおろし金も頂戴!!」


「あっ、うん……」


 俺は稀子にボウルとおろし金を渡すと、稀子は、真理江さん妹宅の中に入っていった。

 鈴音さんも、それに付いて行く様に行った。


(稀子も…、慣れた感じで動いているな…)


 けど、大根がおろせた事に依って、からみ餅が用意出来る。

 大根で汚れた手を庭に有る水道で洗って、俺は一息ついた……

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