第153話 鈴音さんの母親 その1

 今日の宿泊施設で有る、ビジネスホテルの到着した俺は、チェックインの手続きを取って部屋に入りシャワーを浴びる。

 このビジネスホテルにも大浴場が有るが、今晩はその様な気分では無かった。


 シャワーを浴びた後は、自動販売機コーナーに行って、缶ビールと乾き物のおつまみもついで買う。

 先ほどの晩餐会でもワインは出されたが、がぶ飲みをする訳には行かないので、そんなには飲んでない。

 部屋に戻りベッドに腰掛けながら、缶ビールを開けて飲む。


「ふぅ~~」

「団体で動くと疲れるな…」


 俺の親友は無に等しかったから、今までは一人での行動だった。

 最近でこそ、鈴音さんと稀子との行動が中心に成ったが、真理江さんを含む4人での長時間行動は初めてだった。


「解放されて嬉しいが……今度は完全1人と成ると、それはそれで寂しいな」


 真理江さんと鈴音さんは、共に親戚の家。

 稀子は実家。波津音市はずねしに伝手が無い俺はビジネスホテル。

 今晩と明日。このホテルにお世話に成る。


「今日は無事に終わったけど……山場は明日だろうな!」


 明日は鈴音さんの母親。涼子すずこさんとの会談と言うより面談が有る。


「涼子さんも物腰が柔らかい人だけど、大切な娘を不安定な人間に、素直に託すとは思えんよな……」


 以前話した会話は日常会話程度だし、涼子さん自分自身も、自分の問題で精一杯で有り、娘の鈴音さんまで気が回らなかった筈だ。

 今は生活も落ち着いて居る感じで有り、視野も広く成っているはずだ!!


「鈴音さんの援護射撃を期待するのは良いけど……俺の、この不安定の将来は変わらないからな」


 考え事をしながらビールを飲んでいる。ロング缶を買ったのに、もう1缶開けてしまった!?


「あれ?」

「もう無い……。もう1缶買うかと言いたいが、二日酔いで涼子さんに会ったら、関係を深める所か、縁を切られそうだな…」



 残ったおつまみは、明日の晩酌用とする事にして冷蔵庫に仕舞い、後は歯を磨いてから就寝する事とした……


 ……


 翌日……


 午前10時、5分前…。俺は約束の場所で有る、中町のバス停に到着すると、鈴音さんはもう到着をして居た。本当に几帳面な人だ!


「お早うございます。比叡さん!!」


 俺が声を掛ける前に、鈴音さんが気付き、声を掛けてきた。


「お早うございます。鈴音さん!」


「比叡さん。昨夜はよく眠れましたか?」


 鈴音さんは、今日も笑顔で聞いてきてくれる。


「はい! 枕が変わっても無事に眠れました!!」


「そうですか!!」

「それは良かったです!!」


「では、今から私のお母さんの家に案内します!」


 鈴音さんはそう言うと、バス停から歩き始める!?


「えっ!?」

「鈴音さん…。バス停で待ち合わせだから、バスに乗るのでは無いの!?」


「バスには乗りません!!」

「バス停で待ち合わせにしたのは、比叡さんが判りやすいと思ったから、其処にしただけです!!」


「あっ! 成る程!!」


 俺は残念ながら、波津音市はずねしの地理には詳しくは無い。

 覚える前に……九尾きゅうおに移動してしまったからだ!


 波津音市の市街地を数分歩いて行くと……大きなマンションが近付いてきた。

 ここが……涼子さんが住んでいるマンションだろうか?


 俺と鈴音さんはマンションに入り、エントランスに有る操作盤を操作している。

 このマンションは、オートロック式のマンションで有った。


(やっぱり……美作家は美作家か…)


 婿(鈴音父)と離婚して、美作家は一気に衰退した筈だが、離婚時に財産分与は行われているし、それプラス、慰謝料と養育費も加算されているだろう。

 鈴音さんの父親も、かなりあくどい事をしていたから、それだけの蓄えは有った筈だ。


『はい! こんにちは!!』

『鈴音。今、開けますから』


 涼子さんが応答をして、オートロックを解除するのだろう。


「では、お母さん。今から向かいます♪」


 鈴音さんも嬉しそうに返事をする。

 鈴音さん……父親は嫌いだと思うが、母親は好きなんだろう……


「では、行きましょう。比叡さん♪」


 遂に……、涼子さんとの面談が始まろうとしていた……

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