第151話 和風イタリアンレストラン その2

 俺は周りの会話を聞きながら、静かにお茶を飲んでいた。

 真理江さんは浅野さんに色々と質問をしたり、話を聞いており、鈴音さんもその話を聞いて相槌をしている。


(鈴音さんにとってもこの家は、思い出深い家だからな…)

(それを壊したのは、俺なんだが……)


 稀子の方も話には加わろうとはせずに、静かにお茶を飲んでいる。

 稀子にも、この家の思い出が有る筈だが、其処まで思い入れがないのだろう……


「お茶が終わりましたら、部屋の案内でもしましょうか?」

「みなさん、思い出も有ると思うでしょうし!!」


 お茶会も終わりが見え始めた頃……浅野さんがそう発言する。

 確かに、どこがどの様に変わったかは興味が有る。


「浅野さん!」

「是非! お願い出来ますでしょうか?」


 真理江さんは、浅野さんに向けてそう言う。

 この後は、レストラン店内の見学会と成りそうだ。


 ……


 俺の予想通りで、台所をキッチンに改装していたが、台所の面影は無く、完全に厨房と成っていた。

 パスタを茹でる寸胴と言うべきかの大鍋。ピザを焼くオーブン。フライパンも多数有って、更にリビングで有った一部分まで、厨房に拡張されていた。


「今は……僕がメインで調理担当をしていますが、近いうちに料理の出来る従業員を雇うつもりです」


 浅野さんはそう言う。

 厨房は浅野さんが担当で、フロアは浅野さんの奥さん。フロア専用のアルバイトが居る感じだ。


 店内のフロアは大きいとは言えず、数組で席が埋まる大きさだった……

 お菓子も自家製で美味しかったから、低価格で回す店では無く、客単価が高めの店だろうと感じた。


 1階部分の殆どがお店に改装されて、離れは取り壊されて、そこに物置や従業員の休憩所が新たに作られて、住居部分は2階に成るが……、プライバシーの関係で『ご遠慮願います…』と、浅野さん夫婦に言われる。


(2階は……元、鈴音さんと稀子の部屋が有ったと思うが、夫婦二人だから問題無いのか?)


 トイレや浴室も改装されているが、場所の変更は無かった。

 元はお店だったし、レストランをオープンさせるには、都合の良い作りだったのだろう?

 俺はそう思った……


 店内の見学会も終わって、浅野さん夫婦と再び雑談をした後、浅野さん夫婦は厨房に戻っていく。

 これから、俺達を持て成す、料理の準備を始めるそうだ。


「晩餐会は……夕方の17時半。開始予定です!」

「それまでは、自由時間とします!!」


 真理江さんがそう発言して、今から自由時間と成る。

 今の時刻は、16時半で有った。


「鈴音さん! 少し波津音市ふるさとでも散歩しますか?」


「ですね……今日は運動を余りしていないから、そうしましょうか!」


 鈴音さんが散歩に付き合ってくれるが……


「なら、私も混ぜて~~」


 俺は二人で散歩をしたかったが、稀子がまた邪魔をしてきた!

 けど、鈴音さんがそれを了承してしまうので、稀子と三人で波津音市はずねし街地を散歩する。


「やっぱり……数ヶ月では、町並みは変わらないね~♪」


 稀子は市街地を歩きながら言う。


「この旅行の間は、天気も良さそうで良かったです!」


 鈴音さんも、微笑みながら言う。

 市街地を散歩していると偶然、鈴音さんと稀子の親友達に出会うので、鈴音さん達は立ち話を始める。

 俺は下手に自己紹介をされても困るので、その場から離れる事にする。


(当たり前だが……何も変わってないな)

(辺りはもう暗く成っているが、平穏の町で有る。)

(明日の涼子さんとの話し合い。上手く行くかな?)


 別に企業の面接を受けに行く訳では無いから、事前練習はしていない。

 それに鈴音さん自身も『比叡さん! 比叡さんの正直な気持ちをお母さんに言えば良いだけです!』と、大事には捉えては無かった。


(成るように成るしか無いな!)


 鈴音さん・稀子と、その親友達との話が終わるのを、離れた場所で俺は待っていた……

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