第134話 両手に花!? その5

 昼食後は少しの休憩をした後、再び水族館に戻る。

 館内は一回りしたので、見損ねた他のショーを見たり、もう一度見たい魚達を見たり、ショーの開演時間の待ち時間を使って、お土産コーナーに向かい、其処でお土産類を見る。


「水族館に来た記念に、私はぬいぐるみでも買おう♪」


 稀子はそう言いながら、お土産コーナーで売っている、ぬいぐるみを選んで見ている。

 鈴音さんも、色々見ている感じはするが、見ているだけで有った……

 俺はそれが気に成ったので、声を掛ける。


「鈴音さんは、お土産買わないのですか?」


「私は…、特にないですね」


 鈴音さんは表情を変えずに言う。


「そうですか…?」


(鈴音さん…。趣味や特別な興味が有るとは、聞いた事無いな?)

(敢えて言うなら、旅行ぐらいか?)


(逃亡旅行時は、お土産類を買う状況では無かったし、それどころでは無かった!)


「比叡さんも…、何か買わないのですか?」


 俺もお土産コーナーを、同じ様に見て回って居るだけなので、鈴音さんも聞いてきた。


「俺も、鈴音さんと同じです!」

「ぬいぐるみは要らないし、マグカップ類も家に有る」


「どうしても、買わなければ成らないのは、真理江さんと言うより、家へのお菓子位ですね」


「比叡さん!」

「なら、それを一緒に選びましょう♪」


 お互い、手持ち無沙汰だったので、真理江さんへのお土産にする、お菓子を二人で選ぶ。

 定番の饅頭。クッキー、スポンジケーキ類、クランチチョコ等。珍しい様な、珍しくない様な、箱に入ったお菓子が沢山並んでいた。


「比叡さんはどれが、良いと思います?」


「う~ん、無難なのはケーキか、クランチチョコかな?」

「真理江さんが好きそうなのが、一番良いけど…」


「…お母様が好きそうのでしたら、此処では場違いでは有りますが、お饅頭ですよね…」


 クッキーやクランチチョコ系の箱菓子は、水族館向けの可愛いイラストで包装された箱菓子だが、饅頭や和菓子系に成ると一般的な包装で有った。


「真理江さんが饅頭好きなら、それで良いのでは?」


「でも……私達は、水族館に来ていますよね?」

「自然景観の場所なら、まだ話が分かりますが……」


「……」


 俺と鈴音さんが、真理江さんへのお土産に困っていると、ぬいぐるみを買い終えた稀子が俺達の側に来て、声を掛けて来る。


「比叡君とりんちゃん!」

「なに、悩んでいるの?」


「あっ…稀子。真理江さんへのお土産をどうしようかと…?」


「真理江さん…? あぁ、家へのお土産だね!!」

「おばさんは、饅頭系が好きだからこれで良いよ!!」


 稀子は、恐らく自分が気に入った、ある饅頭の大箱を迷わず一つ取る。


「比叡君! これで良いんじゃ無い?」

「値段も手頃だし、量も多そうだし、みんなで食べられるしね♪」


「……」


「……」


 この稀子の決断の早さは、素直に凄いと俺は感心した。

 俺と鈴音さんだったら…、後10分位は、と言うからだ。


(俺も……稀子の勢いで、此処まで来たんだよな)


 最初住んでいた町を捨てて、波津音市はずねしに来る切っ掛けも稀子の御陰だし、今の町に引っ越して四人で住む事になったのも、稀子の提案だ。

 稀子のドンドンパワーには良く圧倒されるが、この辺が鈴音さんには無い魅力でも有った。


(俺もまだ心の何処かで、稀子には未練が有るのかもな…)


「ねぇ!」

「二人共、黙っちゃって、これじゃあ不満…?」


「うっ、うん」

「それで良いでは無いのかな、稀子?」


「はっ、はい」

「稀子さんの言う通りですわ///」


「??」

「じゃあ、はい! 比叡君!!」


 稀子は不思議な表情をしながら、俺に先ほどの菓子箱を渡してくる。

 飲食費は各自精算だから、家へのお菓子は俺の担当に成るからだ。


「じゃあ、お会計してくるよ!」


 ……


 家へのお土産(箱菓子)を買った後は、ペンギンショーを見てから水族館から出る。

 スマートフォンで時刻を確認すると、14時半を過ぎた時間だった。

 まだ……少し、家に帰るには早い時間では有った……

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