第124話 甘え始めた自分…… その1

 ……


 この生活も始まって、二ヶ月以上の時が過ぎてしまった!

 季節は、秋真っ只中で有り、九尾きゅうお市近郊でも紅葉の見頃を迎えていた。


 この頃に成ると、保育士資格取得勉強も疎かになり始めていて、今まで見たいに毎日、3時間の勉強ペースが維持出来無く成っていた……。鈴音さんもそれを気にしているらしく……


『比叡さん…』

『この生活に慣れてきて、気が抜けてしまうのも判りますが…』


 鈴音さんはそれに対して、怒る訳でも無く、注意する訳でも無かった。

 それに対し、稀子なんかは……


『比叡君の気持ちも分かるよ!』

りんちゃんを彼女にしちゃったから、モチベーションが保てないのだよね♪』


『おばさん(山本母)も、何も言わないし、怠けるのが大好きな比叡君ならそう成るよ!』


 稀子は嫌みを含めて言ってくれた!!

 けど、これだけの時が過ぎたのに、俺の保育士資格取得を支援してくれる人は変わらず、時間ばかりが過ぎていく……


 今学年で卒園に成る、鈴音さんと稀子の進路は、二人共付属の大学に進学するそうだ。大学敷地内に学園が併設されているので、学園に通う感じで通学出来る。

 鈴音さんの御陰で、稀子の成績は決して悪くは無く、二人共推薦が貰えるそうだ。


 稀子が児童福祉への道を急に止めたのは、俺への熱が冷めた事も有るが、鈴音さんと一緒に居たいからだろう……。それだけ、稀子は鈴音さんを改めて好きに成ったのだと感じる。

 鈴音さんや稀子は、確実に次の道が見え始めているのに、俺だけが取り残されて行く感じだった……


 ……


 有る日の晩ご飯時……


 食事の挨拶前に真理江さんが、俺達に向けて話し始める。


「みなさん。食事前に少し良いでしょうか?」


 真理江さんはそう言うと、みんな素直に返事をする。


「今日……連絡が有りまして、今週末に和風イタリアンレストランがオープンするそうです」

「向こうのオーナーさんから、実は招待を受けたのですが、波津音市はずねしへの往復を考えると、週末だけでは厳しいので断わりました」


(何だ…。真理江さんが神妙な顔をしながら話すから、てっきり交通事故の示談が成立したかと思ったが、違ったか……)


 山本(孝明)さんが起こした、交通事故の民事裁判は、まだ決着が付いてない。

 被害者側が、かなりごねているらしく、半年位の時が経っているのに、全然示談が成立する気配は無く、本当の判決待ちに近い状態で有った。


「ですけど……鈴音さん達の冬休みに一度、波津音市に戻り、旅行がてら元私の家に行きたいと感じて居ます…」

「その時にみなさんと、レストランでのお食事会も兼ねたいと思っています」

「みなさんは、どうでしょうか?」


「わぁ!」

「それなら、実家にも顔を出せる!!」

「旅費も馬鹿に成らないからね!!」


 それを聞いた稀子は声を上げる。

 波津音市に向かう旅費は、真理江さんが出すような言い方だったからだ。


「孝明さんもまだ服役中ですから、問題は無いですよね」


 鈴音さんも、故郷に戻れることを喜んでいた。

 二人が喜んでいる中、俺は微妙だった。


(波津音市に、旅行をしている時では無いのだがな…)


「……青柳さんは、余り喜んでいる感じがしませんが、孝明達からの報復を心配しているのですか?」


 俺の表情が暗い事に気付いて、真理江さんが声を掛けて来る。


「いっ、いえ、そうでは無いです!」

「年末だから、アルバイトの休暇が無事に取れるかなと…」


「あれ?」

「比叡君のアルバイト先は休みの融通が、凄く聞くと聞いたけど?」


(この、バカ稀子!)

(俺の空気を読め!!)


「……私としても、比叡さんと波津音市に行きたいです!」

「それと、お母さんにも会って欲しいですし///」


 鈴音さんはそう言いながら頬を染める。


 鈴音さんの母親。涼子さんは鈴音の元実家が有った町で無く、波津音市で新たな生活を始めていた。

 本家が、本家の関連会社を紹介してくれて、そこで事務員をしている。


(俺を鈴音さんの母親に態々会わせたいと言う事は、俺との将来を鈴音さんは意識しているのか…!?)


 俺はそれを察知した時、本当に自分が無能な人間だと自覚してしまった……

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