第120話 新天地

 ……

 …

 ・


 電車を乗り継いで、数時間……

 遂に俺達は、真理江まりえ(山本母)さんの、妹が住んでいる町に到着をした。

 お昼前に波津音市はずねしを出発したのだが、妹さんが住んでいる九尾きゅうお市に到着したのは、ほぼ夕方で有った。


 九尾駅周辺は比較的発展している様だが、俺達が住む場所は九尾市の郊外だそうだ。

 駅には真理江さんの妹が車で迎えに来てくれて、俺達はそれに同乗して新しい住処に向かう……


 駅から車で、20分位の所で新しい住処に到着する。中古のようだが2階建ての一軒家だった。

 其処は、湾内が見渡せる静かな住宅街で有った……

 真理江さん妹にお礼を言って新しい住処に入るが、引っ越しの荷物はまだ来ていない。

 引っ越しの距離が長いので、荷物を積んだトラックは今日到着しない。予定では、明日の午前中で有った。

 今晩は、真理江さんの妹宅で泊まらせて貰う。ここから徒歩で直ぐに、妹さんの家が有る。


 鈴音さん達、学園の通園に関してはバスで通園する。

 家から少し歩くと国道に出て、その道はバスが通っている。バス停も家から5分位の場所に有る。其処からバスに乗って、鈴音さんと稀子は学園に通う。

 姉妹校だけ有って、制服はほぼ同じらしいので、俺にとっては目新しさが感じ無い……少し残念だと思うの俺ぐらいか??


 ……


 俺は稀子に……1つ聞きたい事が有った。

 稀子は山本(孝明)さんが好きな筈なのに、俺と鈴音さんに付いて来て、電話番号やメールアドレス等も躊躇わずに簡単に変えてしまった。

 山本さんの携帯電話も解約されたので、稀子が裏切り行為をする事も出来ない。


 俺はその理由をずっと聞きたかったが、聞く機会が無くて聞けなかった。

 真理江さんと鈴音さんは、真理江さん妹宅に出掛けていった。それに付いて行く鈴音さんも律儀な人だ。今、この家に居るのは俺と稀子だけで有る。


 稀子は『家の探索~~♪』と小学生見たいな事を言って、家の探索をしているが、稀子に例の事を聞くのはチャンスだと俺は思った。

 俺は稀子を探しながら2階に上がる。すると稀子はベランダに出ていて、ベランダから見える湾内の景色を眺めていた……


「あっ、比叡君!!」


「見て、見て!!」

「海が見えるよ~~。凄いね~~♪」


 稀子は相変わらずの、子どもの様な話し方で俺を誘う。

 俺もベランダに出て、稀子と湾内の景色を見る。

 湾内は方角の関係で、太陽が海側に昇ったり沈んだりもしないが、夕日に照らされて海面は輝いていた。稀子は楽しい笑顔で湾内を見ている……


「比叡君!」

「前の山本さんの家より、見晴らしが良いね♪」

「この家からは、はっきりと海が見えるよ♪」


 初めて出会った時の様な笑顔で稀子は言う。

 その笑顔で……俺の胸が思わず鼓動を打つ! 

 稀子の事は、一度嫌いなったはずなのに……


 稀子は俺と関係を深めず俺を捨て、山本さんに勝手に近づき、そして今は親友の関係に戻っている……

 本来なら裏切り者で私刑にしたい所だが、この子の姿を見ていると、そんな気持ちも何処かに飛んでいく……


「稀子ちゃん……」


「んっ……比叡君。どうした?」


「稀子ちゃんは、これで良かったの?」

「俺と鈴音さん達に付いて来て……」


「うん!」


 稀子は即答して、話し出す。


「私もね……これでも色々考えたのだよ!」

「私はりんちゃんが好きだと感じたし、比叡君も裏切って申し訳ないと思っている…」


「山本さんは今でも気には成るけど……山本さんは私を受け入れないと思う!」

「山本さんはそれだけ、鈴ちゃんを大事にしていた!」

「私が山本さんの側に居ようとしても、鈴ちゃんと比叡君をおびき出すために、私を使うに決まっている!」


「だから、波津音市はずねしに留まるより、みんなでに来た方が安全かなと思った!」


「それが、稀子ちゃんの意思?」


「そうだよ、比叡君!」

「でも、安心して。流石に鈴ちゃんから、比叡君を取ろうとはしないから♪」

「鈴ちゃんも、山本さんと付き合っている時より笑顔が溢れているし、比叡君なんか何時もデレデレだもんね。私の時とは大違い~!?」


 稀子は語尾を急に上げる! 


「鈴ちゃんと比叡君を守るために付いて来た!」

「私は、鈴ちゃんと山本さんどちらを取ると言われたら、今度は絶対に鈴ちゃんを取る!」

「鈴ちゃんは本当の、私の友達だよ~~♪」


 稀子は、今まで見せた事無い笑顔で俺に言う。


(稀子の奴……やっと、鈴音さんを本当の親友だと感じたようだ)


『比叡さん~~。稀子さん~~』

『何処に居ますか~~~?』


 階下から鈴音さんの声が聞こえる。

 真理江さんと鈴音さんが戻って来たようだ。


「稀子ちゃん!」

「鈴音さんが呼んでいるよ!!」


「じゃあ、戻ろうか比叡君!」


 俺と稀子は、鈴音さんの居る1階に戻る。

 稀子は、俺と鈴音さんのために付いて来たと言ったが、今度こそは信用しても良いだろうか?

 稀子が山本さんとの関係を再び望めば、その過程で絶対、俺と鈴音さんの居場所や連絡先が知られてしまう!


 稀子は意志が弱いから、山本さんに『ガツン!』と言われたら直ぐに萎縮してしまう。

 殴る振りをしただけで、稀子はペラペラ喋るはずだ。

 稀子が俺達の側に居た方が、却って安心なのかも知れない……


 ……


 今日から始まった新生活。

 真理江さん。鈴音さん。稀子。そして、俺を含めて4人の共同生活が始まる。

 この騒動の御陰で、保育士資格取得の勉強は停滞しているが、近いうちに再開させたい。


 俺と鈴音さんは恋人関係だから、稀子がを掛けて来るだろうか?

 いっそ、ハーレムルートも考えるか!!

 今の稀子はフリーだし、俺と鈴音さんが仲良く成れば稀子の事だ。好奇心旺盛だから覗き見するに決まっている。それを見た口実に稀子も一緒に―――


(あぁ……そうなれば、俺も一気に勝ち組の仲間入りだな!!)

(美少女2人に、あんな事やこんな事をして///)

(鈴音さん、稀子の青い果実を一度に両方食べて見たい!?)


「ゴホン…//////」


 新しい町で始まった、新しい生活……

 今度こそ、穏やかな時が流れて……俺と鈴音さんは関係を深めて、この町に根付く事に成るだろう……

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