第105話 意外な展開 その4
ホテルのチェックアウトを済ました俺と鈴音さんは、事前に呼んで置いたタクシーに乗り込んで、
騒丘駅に着いて、
ダイヤの関係上、直通電車では無いが、乗り継ぎは出来る様なので乗り込んだ。
ホテルのチェックアウトから電車に乗り込むまで、お互いほぼ無言で有った。
鈴音さんは完全に意気消沈しているし、俺も今後の事を思うと『本当にどうすれば良いの?』状態で有った……
(山本鞄店。鈴音さんや稀子の今後の事……)
(山本さんが犯罪者に成ってしまったら、俺が保育士に成るための支援も絶望的だろう…)
山本さんの大きな人脈も、今回の事件で失われるはずだ。
山本さんに関わりたく無い人が、更に赤の他人の俺を支援してくれる訳が無い!
それに、犯罪者と関わってしまうと、関わった人も同じ目線で見られる恐れが有るからだ!
(山本さんが逮捕されても、俺と鈴音さんの関係は解決していない!!)
(八方塞がりだ!!)
電車に揺られながら丁度、中間地点まで来た時、鈴音さんのスマートフォンから着信音が鳴る。
鈴音さんは暗い表情で電話に出る。
「はい……」
「―――」
「―――」
「稀子さん……。そう言う事です…」
「―――」
「―――」
「稀子さんの気持ちも察します……」
「―――」
「稀子さん…。車内なので、これ以上のお話は出来ません…」
「―――」
「―――」
『ピッ』
鈴音さんは稀子が喋っているのに、無表情で通話を切って、更に電源も落としてしまう!?
そして、ゆっくりと俺の方に振り向く。
「比叡さん…。稀子さんも先ほど、孝明さんの事を知った様です…」
「電話向こうで、色々と言っていましたが、私ではどうする事も出来ません…」
「……」
俺は言葉を掛けようが無かった。
元気づける声を掛けたいが、言葉が思い出てこない。
それに、鈴音さんは怒っているのか、悲しんで居るのかが判らなかった!
俺としては拷問(お仕置き)を受けなくて済んだ訳だが、それでも鈴音さんにとってショックは大きいのだろう……
俺達が逃亡しなければ、山本さんは事故を起こさなかったからで有る。
(むむっ……これは俺にとっても、難しい問題だぞ!!)
運命か神様の悪戯かは、本当に不明だ!
山本さんに不幸が来た事で俺は今、生きていられる。
俺と鈴音さんが乗っていた電車は、途中の終着駅に着いて、この駅で乗り換えを行う。
時刻表では後、10分位に富橋方面の電車が発車する。始発待ちの電車で有る。
発車まで時間が有るので、一度車内から出て、俺は自動販売機で缶コーヒーを2本買う。
缶コーヒーを買って車内に戻り、静かに座っている鈴音さんに缶コーヒーを渡す。
「コーヒーでも飲んで、気分を高揚させて下さい!」
エナジードリンクの方が効果は強いだろうけど、ここの自動販売機では売ってなかった。
鈴音さんは甘いのが好きだろうと思って、砂糖・ミルク入りの缶コーヒーを渡す。俺のは微糖タイプだ。
「……有り難う御座います」
この状態なのに、鈴音さんは丁寧にお礼を言う。
「では……頂きます」
鈴音さんはプルトップを開けて、缶コーヒーに口を付ける。
「ふぅ~」
鈴音さんは静かにため息をつくと……
「比叡さん……。私達の生活は、今度どう成りますかね?」
「鈴音さん。答えようが無いよ……」
「山本さんが本当に信号無視で人を
「治療費とかは、自動車保険で対応出来るはずだけど、刑事事件には確実に成るから、罰金で済めば御の字かな?」
普通自動車免許は持っているが、自家用車は持っていない。
自動車学校で何となく聞いていた内容を、そのまま口に出している。
「そうですね……。罰金刑で済めば、お店の方はどうにか成りそうですね」
「でも……鈴音さん」
「罪を犯した理由が、俺達を捕まえるためと言うのが知られてしまったら、お店の経営はかなり厳しいと感じるのだが?」
「う~ん。そうですよね…」
「相手の方が、大きな怪我でも回復すれば良いのですけど…」
……
暗い話をしても気が滅入るだけなので、電車が発車する頃には、俺から話を打ち切る。
その後は再び無言の時間に成って、俺と鈴音さんは、静かに車内から見える景色を眺めていた。
昨日と同じ時間は逃亡劇を続けながらも、それを楽しんでいたが、一夜が明けたら完全のお通夜状態に成ってしまった!
誰が悪いとかを言い出したら、殆どの人が俺に指を指すはずだ!
俺が鈴音さんを
あの時……。鈴音さんを
今後の事を色々と考えながらも、電車は確実に波津音市に近づいていた……
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