第99話 二度と見たくない悪夢

 ……

 …

 ・


「はっ!?」


 俺は目を覚ます……。そこは山本さんの工場こうばでは無く、ビジネスホテルの寝室だった。寝間着の浴衣もしっとりしていて、寝汗で凄い事になっている。

 今までの人生で一番の最悪な悪夢と寝汗だった……


 俺は視線を感じて顔を横に向けると、何時の間にか鈴音さんが自分のベッドから起き上がっていて、更に俺のベッドに来ていて、心配そうな顔をして俺を見つめていた。


「大丈夫ですか……比叡さん?」

「大分、うなされていましたよ……」


「うっ、うぁ~~~」


 俺は鈴音さんの顔を見た瞬間、上半身を起こして鈴音さんに抱きつく!!


「うぁ~~」

「鈴音さんが無事で良かった~~~」


 俺は泣きながら鈴音さんを抱く!!


「ちょ、ちょっと、比叡さん!!」

「本当にどうしたのですか??」


 俺に突然抱きつかれて、戸惑う鈴音さん。


「鈴音さん……。俺達夢の中で、山本さんに拷問されていた!!」


「えっ? えぇぇぇ~~~」

「どっ、どういう事ですの!?」


「俺達の場所がバレて、山本さんの工場こうばに連れてかれて、其処で非道い事をされていた!」

「お互いが無傷で……本当に良かった~~」


「比叡さん!」

「詳しいお話は、今からお聞きますけど……その前に一旦離して下さい…」

「これでは、お話が聞けません!」


 俺は上半身を起こした状態で、鈴音さんを抱いていた。

 たしかに、鈴音さんにとっては無理な体勢で有る。

 俺は鈴音さんを離してベッドから起き上がり、俺のベッドに俺と鈴音さんが横並びに座って、先ほど見た悪夢を鈴音さんに話す……


 ……


「比叡さんは、ランドセルを作る金型を背中に押してられて、私は椅子に縛り付けられる……」

「凄くリアルですね……。正夢に成らない事を祈りたいです…」


 俺は言うのを躊躇ためらったが、鈴音さんも拷問を受けた事を話した。

 しかし……、鈴音さん場合はスカートを切り裂かれる所までにして、大切な所に鉄棒を当てられた事は当然話さない。

 話したくも無いし、話しても鈴音さんも返答に困るだろう……


「鈴音さんにはさっき言わなかったけど、俺達がレストランを出た時に視線を感じたんだ……」

「あの時は、気の所為かと思ったけど、本当に場所を知られた可能性が有る…」


 俺がそう言った直後……


『ガタ、ガタ、バン!』


『ドカ、ドカ、―――』


「えっ!?」


 俺は思わず声を上げてしまい身構える。


「比叡さん! そんなビクビクしなくても大丈夫です」

「隣室の方が、外に出られただけですわ!」


 俺は耳を澄ますと、足音が遠ざかって行くのが分かる。

 隣部屋の人が、自動販売機コーナーでも行ったのだろうか?


「鈴音さん…。本当に場所を知られていたらどうしよう…?」

「この時間だと、下手には動けないし…」


 俺は男の癖に不安の声で、鈴音さんにすがってしまう。鈴音さんの方が遙かに年下なのに……

 例え夢で有っても、あんな拷問を見てしまったら、俺は平常心を保てなかった。


「う~ん」

「比叡さん…。分かりようが無い筈ですがね~?」

「スマートフォンもお互いSIMカードを抜いて有るし、尾行を付けられている気配も感じなかったし……」


「それにホテルの経営者が山本さんの知り合いでしたら、絶対にもう来ていますからね!」


 鈴音さんは冷静に分析をしている。

 俺が異変に気付いた時間が、前日の20時頃で有って、今の時刻が午前1時半過ぎ。

 波津音市はずねしからこのビジネスホテルまでは、車を使えば2時間位有れば着くはずだから、本当に場所が知られていたら、既に来ている筈だ……


「比叡さん」

「一応……用心だけはしましょうか?」


 鈴音さんはベッドから立ち上がり、窓際に歩いて、窓際に有る椅子を持って、ドアの前に置いて鈴音さんはそこに座る。


「山本さんが鍵をこじ開けようとしましても、ここで見張っていれば、ドアは開けられる事は有りません!」

「開けようとしたら、鍵のロックを手で押さえるだけです!!」

「その間に、比叡さんが警察に電話をすれば、孝明さんに逃げ出すでしょう!」


「たしかにそうすれば、突入される事は無いな…」


「比叡さん……。私がしばらく見張りをしますから、比叡さんは休んで下さい」


 鈴音さんはそう言ってくれるが、俺は先ほどの夢で、完全に目が覚めてしまった。

 それに凄く不安と緊張感も有って、絶対に眠れそうでも無い。

 心を落ち着かせたいが……それをするには、お願い聞いてくれるかな?


(『鈴音さんを抱きたいです』と言いたいけど、鈴音さんは受け入れてくれるかな?)

(でも…、この不安な気持ちの状態では、絶対眠れない!!)


 俺はダメ元でも良いから、今の気持ちを鈴音さんに伝えて見る事にした……

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