第85話 朱海蝲蛄 【山本】 その4

「はい…」


「おぅ、僕だ! 孝明だ!!」


「これは総長……お久しぶりです」


 今、電話を掛けている相手は副総長の敏行としゆきだ。

 鈴音が家に来てからは希薄に成ってしまったが、またその様な時が来てしまうとは……


「俺に電話を掛けてくる事は、只の飲み誘いでは無いですね…」


「流石、敏行だな…。あぁ、人捜しだ…」


「…どんな奴です…?」


「この通話が終わったら、手配書(写真)を送る!」


「20代の青年ガキと10代のメスだ!」


 僕が鈴音と関係を持っている事は、朱海蝲蛄の仲間内には知らせて無い。

 僕は硬派だから、子供ガキと変わらない鈴音と関係が有るのを知られてしまうと、朱海蝲蛄総長の面目が丸潰れだからだ。チーム自体はもう無いが、信頼関係だけは残っている。


「変な組み合わせですね。援交絡みですか?」


「馬鹿か! 俺がそんなチャチな仕事やるか!!」

「女は関係無いが、男の奴が僕を小馬鹿にしやがったから、お仕置きを考えていてな…」

「ペアで動いていると情報を得たから、見付けやすい筈だ!」


 朱海蝲蛄チーム内で僕はと成っているが、専門の職人と言う事実は誰にも教えてない。こう考えると僕も結構、小心者だな……


「総長。分かりました…」

「ターゲットは、どの辺に居るのですか?」


「場所か…。鉄道を使う筈だから『大石十色おおいしといろ駅』、『富橋とみはし駅』周辺を探せば居るはずだ!」

「居なければ沿線の捜索に成るが、奴らは1泊するらしいから、沿線に宿泊施設が有る地域を調べた方が早いかもな…」


「結構、大がかりですね…」


「すまんが、総動員で探してくれ!」

「後、暴力行為は警察ポリが五月蠅いから道具ナイフで上手に脅せよ!」


「分かってますって、総長!!」

「『総長命令!』だと言って、召集掛けて捜索に当たらせます!」


「あぁ、頼んだぞ…」


『ピッ』


 副総長、敏行に連絡を取り終えて、比叡と鈴音が写っている写真データを敏行のメールに送信する。

 この写真は、彼奴あいつが来た初日に行われた、歓迎会の時に撮った写真で有る。


「俺の力を舐めるでないぞ! 比叡!!」


 遠くからサイレン音が聞こえる。

 比叡と鈴音がタクシーで逃走してから10分位か?


「やっと、警察と救急車が来たか…?」


 面倒くさいと感じつつ、来た警察官に事情を話した……


 ……


 言うまでも無く自転車が悪いし、相手も俺の体格と顔つきを見たから、ごねる事無く相手は全面的に非を認めた。

 こちらは軽い打撲程度だから問題ない。相手の方は擦り傷が中心だったが、それ以外に外傷は無いから大した事は無いだろう。


「ながら運転なんかするな!」御陰でこっちは、余計な時間と比叡と鈴音を逃してしまった。

 俺に万が一の症状が出た時のために、相手の連絡先を交換する。

 後から、むち打ち症状で金をせびっても良いが、そんな事をするのは小物がする者だ。

 僕が警察から解放された時は、比叡と鈴音が逃走しだしてから、20分と少しの時間が経過した時間だった……


 まずは家に戻る。

 僕の母さんは、朝から親戚の家に行っていて今晩は帰って来ない。

 今、家に居るのは稀子だけで有る。

 玄関を開けると、音で気付いたのか稀子がやって来る。


「山本さん! お帰り~~!!」


 馬鹿女はしながらやって来る。


「ただいま…」


「今日は、りんちゃんも居ないし2人きりだね!」


 馬鹿女は嬉しそうに言う。何かを期待して居るのか…?

 望み通りにしてやっても良いが、今はそれ所では無い。


「稀子ちゃん…。僕、急な仕事が入ったから、今から出掛けなければ成らない」

「もしかしたら、今夜は帰って来られないかも知れない……」


「えっ!?」

「そうなの……」


 馬鹿女は驚き、悲しそうな顔をする。

 面倒くさい性格の女だ。何故こんな女が、一時いっときでも良いと思ったのだ!?


「それで……、稀子ちゃん1人では危ないから、今から実家に戻ってくれない?」


「えっ、何で!?」


 一々、反応するな! 

 素直に『はい』と言え!!


「稀子ちゃんは居候の身分だし、本当に何か有った時は、責任が取れないから…」


「私1人でも、お留守番は出来るよ、―――」


 この女、いちいちと五月蠅い!

 もう良いや! とっと、脅そう!


「五月蠅いぞ!! いちいち反論するな!!」

「言う事、素直に聞け! 馬鹿女が!!」


 おっと遂……本音が出てしまった!

 馬鹿女は突然の事で、目を丸くしている。

 そして、脅すと直ぐに泣き顔に成る。いちいち面倒くさい……


「……今日の山本さん。何か変だよ…!」

「何時もは、優しいのに……」


「これが本来の姿なんだよ! 稀子!!」

「それ以上言うと、お前の望み通り犯してやるぞ!!」

「勿論、前戯は無しだからな!!」


「ひぃぃ~~!!」


 稀子は仰天した顔をして、玄関から逃げ出して階段を駆け上がる音がする。部屋に戻ったはずだ。ここまで脅せば、稀子は実家に帰るはずだ。

 しばらくして、動きが無ければ部屋に行って再度脅すか、馬鹿女望み通り犯すだけだ!!


 僕はキッチンに行って、冷蔵庫から瓶ビールを出してリビングで飲んでいると、稀子が静かにリビングに入ってくる。

 稀子はきちんとバックを持っていた。よし、よし。


「じゃあ、山本さん言う通り、一度家に戻る……」


 別にもう、帰って来なくても良いぞ。


「あぁ、気を付けてな」


「明日には、帰って来ても良いのだよね?」


「……ご自由に」


「……今日の山本さんは本当に変だよ」

「何か有ったの?」


「ぎゃーぎゃー五月蠅いんだよ! 早よ行け!!」


「ん~~~」


 馬鹿女は泣きながらリビングから出て行った。

 鈴音を追い込みすぎた、俺からの私刑だ。玄関が開いて閉まる音がする。

 これで今、この家に居るのは僕だけだ。


「後は……報告を待つだけか…?」

「あぁ、お仕置きの用意をしなくては成らんな…」


 僕はビールを一気に飲み干して工場こうばの方に向かった……

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