第86話 朱海蝲蛄 【比叡】 その5
比叡と鈴音の状況……
俺達は今タクシーに乗って居て、
古城駅は
この位置からなら富橋駅の方が近いのに何故、古城駅に向かうのだろう?
「鈴音さん。何故、
「そのまま、富橋駅に向かえば良いのに?」
「……山本さんの親友達が、駅周辺を探しているかも知れません」
「そう言う事か…」
山本さんが暴走族の総長なら、舎弟も何人かは居る筈だ。
その人達が、俺達を探し出す訳か……
「古城駅から富橋駅に向かって、富橋駅で
「流石の山本さん達も、駅構内までは探さない筈です」
「流石、鈴音さんだね!」
「入場券を買ってまで探すのは大変だし、駅構内は駅員も居るから俺達が有利だしね…」
「とにかく今は、無事に騒丘行きの電車に乗る事だけを考えましょう!」
「分かった…」
……
タクシーで古城駅に到着する。
古城駅は無人駅で有って駅舎も小さいし、ホームも単線だから1つしか無い。
「今頃……山本さん達は『
鈴音さんは微笑みながら言う。
けど……この路線は電車の本数も少なくて、1時間に1本有るか無いかで有った。
「比叡さん。ちょっと……予定の変更が必要ですね…」
まさか、この状態で観光をする気!?
「電車が来るまで、約30分ですか……」
「観光農園は絶対に行きたいから…、比叡さん。お城と海辺散策はパスしますか!」
「鈴音さん……この状態でも、本当に観光するのですか??」
「はい! しますよ!!」
鈴音さんは、笑顔で何も迷わずに言う。
「追っ手が来ている可能性が有るのに??」
「流石に騒丘市までは、今日探しに来られませんよ!」
「今頃、駅周辺で待ち伏せして、数時間後に居ませんと山本さんに報告している筈ですよ!」
鈴音さんはけろっと言う。山本さんより実は肝が据わっている!?
「それにホテルのチェックインも15時からですし、1つの場所に留まるより、動いていた方が相手も苦労する筈です!」
「ホテルのチェックインが出来れば、比叡さんと私の勝利は間違いないですわ!」
「ねぇ……鈴音さん」
「よく考えれば…、山本さんのお母さんに連絡すれば、全てが解決だよね?」
俺は今まで、逃げる事に夢中に成っていたが、山本さんのお母さんに連絡を入れればこんな逃亡劇も直ぐに終わる。
俺は何故、こんな簡単な事を思い付かなかったのだ!
しかし…、鈴音さんの口からは絶望的な言葉が発せられる。
「山本さんのお母様は、朝から親戚の家に行って、今日は泊まるそうです」
「山本さんのお母様は携帯電話を持っていませんし、親戚先の連絡も分かりません…」
「うぁ……凄く、タイミングが悪い!」
「鈴音さん! ホテルで両親に連絡を取るので無く、ここから連絡を取ろうよ!」
「此処は駅だから、両親も分かりやすいし!!」
「そうしたいのは山々ですが……通話をすると、位置が補足される可能性も有ります!」
「じゃあ、俺のスマートフォンを使ってよ!」
「鈴音さんのは細工されている可能性が有るけど、俺のは大丈夫の筈だから」
俺はそう言って、スマートフォンを鈴音さんに渡そうとするが……
鈴音さんは顔を横に振って、受け取りを拒否する!
「……孝明さんの親友に、通信会社に勤めている人が居ます」
「孝明さんが何処まで本気か分かりませんが、スマートフォンからの電波で、位置を補足される可能性は否定出来ません!」
「鈴音さん。刑事ドラマやサスペンスドラマの見過ぎですよ!!」
「一個人の人間が、人のプライバシーを簡単に覗ける訳が無いですよ!!」
山本さんが、警○官僚や上○国民なら出来ない事は無いが、一般人が通信会社に知り合いが勤めて居たとしても、その人が一個人の情報を簡単に調べて、それを相手側に提供出来る訳が無い。コンプライアンスも糞も無い!!
それが簡単に出来てしまったら、拉致が簡単に出来てしまうし、逃亡犯もみんな簡単に捕まる。
真面目な鈴音さんだが、幾ら何でもそれは盛りすぎだ。
「比叡さんの言いたい事も分ります…」
「だけど……知られた場合は、圧倒的に不利に成ります」
「『夜道に提灯』だけは避けたいのです!!」
俺と鈴音さんのスマートフォンは、電源がOFFに成っていてSIMカードも抜いて有る。
理論上では相手がネットワークを駆使しても、俺達の居場所は
公衆電話の手も考えたが、この駅には公衆電話が無い!?
大半の人がスマートフォンを持つ様に成ったため、採算性の悪い公衆電話は撤去されていると、以前ニュースで見たが此処も対象の様だった……
「便利なスマートフォンも…、動かなければ只の文鎮だな」
「観光にも支障が出るね…。鈴音さん」
「そうですね……。大体の場所は下調べして有りますから問題無いですが、食事とかは困りそうですね」
鈴音さんは、観光で巡る場所の位置を事前に調べていて、更にプリントアウトまでしていた。経路もきちんと調べていて、それもメモが取られて居る。
鈴音さんは用意周到のタイプで有った。
唯一、イレギュラーは山本さんが現れた事と、富橋駅から乗車で無く古城駅からの乗車とタクシー代位で有った。
「とにかく、旅を楽しみましょ!!」
鈴音さんは笑顔で言う。
本当の逃亡劇が起きても、この人は楽しみながら逃亡するのだと、俺は感じてしまった……
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