第87話 朱海蝲蛄 【比叡】 その6

 やっと来た電車に乗り込む俺と鈴音……

 次駅は直ぐに富橋とみはし駅なので、数分で富橋駅に到着する。

 電車がホームに着いて扉が開く。


 俺と鈴音さんは普通に電車から降りて、騒丘そうおか方面の電車に乗り換える。


「誰かが…、私達を探して居る感じはしませんね!」


 鈴音さんは俺に向けて言う。


「鈴音さん。これなら、安心して騒丘に行けますね」


「そうですね! 比叡さん!!」

「でも…、周囲に注意しながら移動しましょう!」


 俺と鈴音さんは、周りを意識しながら、駅構内を移動して行く……


 ……

 …

 ・


 無事に騒丘方面の電車に乗れて、安堵する俺と鈴音さん。

 この電車はロングシートでは無く、一般的な座席タイプの電車で有った。

 ここから…、1時間位で騒丘駅に着く予定で有る。

 やっと、旅らしくなってきた…。実際は逃亡中だけど……


「比叡さん!」

「ジュースですけど乾杯しましょう!!」


「そうだね! 鈴音さん!!」


「乾杯~」


 電車に乗る直前に買った、缶ジュースで乾杯をする。

 ジュースを飲むと、甘いジュースの味が体中に染み渡る!


「久しぶりにジュースを飲んだけど、こんなに美味しかったっけ?」


「それだけ、緊張していた証拠ですわ!」


 スマートフォンは封印して有るので、俺は腕時計で時間を確認する。

 時刻は、午前10時半を過ぎた時間だった……


「鈴音さん」

「騒丘駅に着くのは、本当に昼前ですね……。大分予定を狂わされましたね」


「本当ですよねと言いたいですが、詰めが甘かったですね。比叡さん…」


 騒丘駅に着いてからの観光予定を…、鈴音さんと話し合った結果、一部を縮小して観光する事に成った。

 騒丘市に着いてもホテルのチェックインは15時からだし、古城ふるしろ駅や富橋駅で俺達を探している気配が全く感じられ無かったので、俺と鈴音さんは観光をする事にした。

 昼からでも、当初の予定通りの観光は出来るが、夕方以降は警戒するべきと意見が合致したため、夕方の17時手前には、ホテルでチェックイン出来る様に調整をする。


「鈴音さん、1つ聞いても良いですが?」


「はい?」


 旅行の修正打ち合わせも終わり、まだ時間は有るので、俺は気に成った事を聞いて見る。


「鈴音さんは、山本さんが元暴走族と知っていて、付き合っていたんですよね?」


「……そうですね」


「失礼な事を言いますが……どうして、そんな人が良いと思ったのですが?」


「う~ん」

「難しい質問ですね……。比叡さん…」


 鈴音さんは困った表情をしているが……


「……頼り甲斐が有る男性が、輝いて見えた時期も有ったので……でっ、お願いします…」


「あ~~、成る程……。すいません。失礼な事を聞いてしまって…」


「いえ、いえ」

「このお話はまた何処かで、お話しする機会を作りますわ!」


 鈴音さんは微笑みながら言って、その話は終わってしまう。

 今の時代では考えられないが、暴走族を主体にした漫画や、校内・校外暴力を美化した漫画に人気が有った時代も有った……

 鈴音さんが、悪を格好良いと感じた時が有って、それで山本さんに本当に惚れたのか、それとも只の親戚同士の関係が発展したのかは、今日の時点では話す気は無さそうだ。


 ……


 お昼前に無事、電車は騒丘駅に到着する。ここまで来れば、まずは一安心だ!

 騒丘駅はこの県内でも大きい駅なので、飲食店等も多数有る。

 まずは、観光の前に昼食と成った。


 近隣に大規模漁港が有るので『魚も美味しい筈だ!』と言う事で、駅近くの鮮魚料理屋で昼食を取る。刺身や煮付け類を注文して、白米とあら汁で昼食を取る。

 波津音市はずねしも漁港が有るが、漁獲量に関してはこちら側が圧倒的に多い。

 騒丘市地元の鮮魚料理屋で、俺と鈴音さんは腹を満たす。


 最初の観光地は観光農園に行って、鈴音さんと苺狩りを楽しむ。

 時間内は苺食べ放題なので、練乳の入った容器を貰って、時間目一杯苺を楽しむ。

 鈴音さんは苺が大好きで、赤く実った苺を収穫しては美味しそうに食べている。


「この苺、甘くて美味しいですわ!」

「摘みたては良いですね!!」


 苺を食べて、喜ぶ鈴音さんの姿を見ながら、俺もデザート代わりの苺狩りを楽しむ。

 お土産に苺を1パックずつ貰って、次の観光場所に向かう。

 次は、自然景観を見るために、自然景観が見られる観光地に向かう。


 ……


 ロープウェイ乗り場からロープウェイに乗って山頂を目指す。

 今日は土曜日で有って天気も良いので、ゴンドラは相席で山頂を目指す。

 相席だが、お互いがそれぞれの世界に入っているので気には成らない。

 ゴンドラから見える景色を2人で楽しむ……


「綺麗な景色ですね! 比叡さん!!」


 普段は大人びた鈴音さんだが、子ども見たいな笑顔で言う鈴音さん。

 無邪気に喜ぶ姿を見て、更に鈴音さんを愛おしいと感じてしまう!!


「天気も良いし、鈴音さんと来られて嬉しいよ!」


「お世辞でも嬉しいですわ!」


 俺は鈴音さんの笑顔と景色を見ながら…、ゴンドラは山頂を目指した。

 山頂に着いた後は山頂からの景色を楽しんで、周辺の散策をする。

 山頂に売店も有るのでソフトクリームを買って、2人でソフトクリームを食べる。


「孝明さんとも、こう言ったデートをした事が有りますけど、何だか比叡さんとの方が楽しいですわ♪」


「えっ///」

「そうですか?」


「はい!!」

「孝明さんも車で色々な場所に連れてってくれますが、車の所為か、1つの場所に留まる時間が少ないのです」


「あ~~、車だと自由に動けるからね!」

「公共交通機関だと、待ち時間の関係で多くは巡れないけど、鈴音さんはじっくり見る派?」


「そうですね!」

「水族館でしたら……1~2時間位で巡るのでは無く、半日位じっくりと時間を掛けて巡りたい派です!」


(へぇ~、そうなんだ…)

(稀子とに行った時は、稀子のペースで動いていたけど稀子の場合、ペンギン以外は立ち止まって、見ている事は少なかったな…)


「やっぱり、旅行はするために来ているのですから、動くのは疲れると思うんです!」


 鈴音さんは決め台詞を言う様に言う。

 しかし、ソフトクリームを持ちながらだから、絵には成りにくい……


「俺もゆっくり巡りたい派だから、気が合うかも知れませんね!」


「そうですか♪」

「今回はアクシデントが有りましたけど、次回は時間を掛けて楽しみたいですね♪」


 優しい笑顔で話す鈴音さん……

 こんな、優しい人のお願いを聞けない山本さんは、本当に馬鹿だと俺は感じてしまう。


 そろそろ、下山してホテルに向かわないと、夕方の17時を過ぎてしまう。

 多少は過ぎても全然問題は無いが、もしかしたら山本さん達の手が伸びているかも知れない……

 本当に綺麗な景色で有って、出来れば夕方まで居たいが…、名残惜しみつつ俺と鈴音さんは下山を開始した……

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