第93話 朱海蝲蛄 【山本】 その12

 山本の状況……


 昼食のカップ焼きそばを食べて、何時でも出撃が出来るように僕はリビングで待機しているが、一向に敏行からの連絡は来ない……


 時刻は15時を過ぎた所……。しびれを切らした僕は、再度敏行に電話を掛ける。


「総長! お疲れ様です!!」


「敏行…。役に成りきるのは良いが…、状況はどうだ?」


「そっ、それは……」


(何も掴めてないのか!)

(こいつは…)


「僕の指示通りに、動いて居るのだろうな…?」


「そっ、それは勿論!」


「沿線の捜索は…、何処まで行った?」


「えっ!?」

「沿線の捜索ですか…?」

「えっと……、西は名美崎なみさき、東は……松林まつばやし、北は、古城ふるしろですね」


「お前……大分、広げたんだな…」


「あっ、はい!!」


 褒められたと思って、声が喜んでやがる。馬鹿が……

 少人数で、広範囲を捜索しても意味が無いだろ!

 少しは頭を使え!!


(名美崎から西は、比叡の以前住んでいた町の方角に成るな…?)

彼奴あいつの事だ。前住んでいた町に未練は無いはずだ)

(西の捜索はこれ以上無駄だな…)


「敏行…」


「はっ、はい!」


「西の捜索は名美崎で打ち切って、北と東に集約させろ!」


「えっ、良いんですか?」


「あぁ、構わん…」


「分かりました…」


「何か有ったら、直ぐに連絡を入れろよ!」


「はっ、はい。総長、勿論!」


『ピッ』


 僕は頭を掻きながら……


「僕も探しに行っても良いが、総長が右往左往するのもな…」

「車の用意と、道具の準備でもするか…」


 僕はガレージに行って、ガレージのシャッターを開ける。


『ガララ~~♪』


 ガレージにはハ○エースと、朱海蝲蛄時代に乗っていたバイクが、車の後ろに置いて有る。

 バイクの方は、何時でも乗れるようにメンテナンスはして有る。


「狭い路地に入られても良いように、バイクで迎えに行ってやるか!」

「彼奴らの事だから、僕がハ○エースで動いて居るだろうと、思っている筈だからな!」


「良し! 比叡らの場所が分かったら、敏行にハ○エースを運転させて、僕はバイクで行こう!」

「バイクの自賠責保険は、まだ切れて無かった筈だが……多分大丈夫だろう」


 本当は確認をしたいが、照明設備が漏電の影響で使えない。この前の雨の所為だろう…。更に防犯のために窓も無い。

 ガレージ内左右には棚が置いて有るので、奥まで陽の明かりが入り込みにくい。

 通路も、車のドアを開けて、乗り込むのがギリギリ位の幅で有る。


 ハ○エースを出せば、陽の明かりが入るから確認出来るが、一度出して、直ぐに戻すのが面倒くさいと感じた。此処には懐中電灯も無いし、乗る時に確認すれば良いか!

 実際……。バイクに乗ろうかと考えただけで、本当に決めた訳では無い。

 愛車のハ○エースに、比叡達を確保するのに便利な道具を積み込む。


「彼奴らがどこに居ても、必ず確保しないとな!」

「ス○ンガンとLEDライトも必要だな……」


 ガレージで揃わない道具は、後で用意する。


「これで良しと……」

「家に戻る前に、コンビニに行って、晩飯を買いに行くか!」


 丁度ガレージに居るのだし、俺はハ○エースに乗り込んで晩飯を買いに行く。

 この時に、バイクの自賠責保険を確認すれば良かったのが、頭は比叡のお仕置きの事で、記憶から抜けてしまった……


 ……


 晩飯をコンビニに買いに行って、ス○ンガンやLEDライトの準備と動作確認をして、少し早い晩飯を食べた後、リビングでうたた寝をしていると、スマートフォンから着信音が鳴る。


「んっ……」


 ディスプレイの表示を見ると敏行からだった。


「やっと、見付かったか…?」


 僕は電話に出る。


『ピッ』


「もし、もし」


「総長! 見付かりました!!」


「何! 本当か!!」

「でかした! 何処だ!!」


騒丘そうおか市に有るビジネスホテルです。そのホテルに奴らは泊まって居ます!」


「騒丘か……ずいぶん逃げたな。敏行、本当に良くやった!!」


「総長!」

「有り難う御座います!」


(実際は俺では無いが、黙っていれば俺の手柄だ!!)


「良し! 早速行くぞ!!」

「お前は、僕の家に直ぐ来い!!」


「えっ!? 俺も行くんですか??」


「決まっているだろう! 副総長だろ!!」

「僕はバイクで行く。敏行がハ○エースで来ないと、彼奴らを連れて来られない!」


「そう言う事ですか……。今すぐ向かいます!」


「30分で来いよ!!」


「……分かりました!!」


『ピッ』


「あのやろ~~、敏行は捜索して無かったんだな!」

「本当に探していたら、30分で来られる筈が無い!!」


「まぁ、良いや。見付かったのだから不問にしてやろう!!」

「俺は心が広いからな!! がはは~~」


 ……


 約30分後……。敏行は僕の家に来て、今から比叡と鈴音を捕まえに行く。


「総長! これが場所です!!」


 僕は敏行から、手書きの地図を受け取る。

 バイクなら、ホテル到着まで2時間も掛からない……


「僕はバイクで先に行くから、敏行はハ○エースで来てくれ!」

「ほら……鍵だ!」


 敏行に鍵を投げ渡す。

 敏行はハ○エースに乗り込んで、ガレージからハ○エース出す。

 時刻は、22時を少し過ぎた所……丁度、寝込みを襲えて都合が良い!


 月夜の明かりの中、僕はバイクをガレージから出す。


『キュル、キュル……、グォン~~、グォォォン~~~、―――』


 僕のバイクが元気良く唸り声を上げる。獲物を欲しがっている音だ!

 ヘルメットを被り、バイクに跨がる。


「比叡君……。君にはお礼を…、本当に死ぬ程したいからね~~」


「じゃあ、先に行ってるぞ!!」

「敏行!!」


「総長! 直ぐに後を追います!!」


 バイクのアクセルを握り締め、比叡の絶望する顔を思い浮かべながら、比叡の居るホテルへ全速力で向かう!!


「待ってろよ~~比叡!!」

「宴の始まりだ~~~!」

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