第92話 朱海蝲蛄 【比叡】 その11
ホテルでの晩ご飯は、凄く美味しいという訳では無いが、手作り感を感じる料理で有った。
ご飯と味噌汁はお代わり自由なので、うっかりビールでおかずを食べきっても、ご飯を食べて締られる!?
「この筑前煮…。業務用かと思っていましたが、手作りしてますわ♪」
「甘さも控えめで美味しいです♪」
日替わり定食に少し不安を感じた俺だが、鈴音さんも美味しそうに食べているし、マグロの刺身も新鮮でビールが進みそうだ!
この時間帯だけは不安に成るような事は話さずに、今日の思い出話や食事の感想を言いながら食事を続けた……
……
お互いがお腹一杯に食べて、部屋に戻ろうとした時……、誰から視線を感じた気がした。
俺は直ぐに振り返ったが、レストランには食事を取っている人しか居ない。
此処のホテルは飛び込み宿泊も出来るが、晩ご飯だけは3日前以上の予約制だ。
それぞれの宿泊客の前には、俺達が食べた同じ日替わり定食が並べられている。
山本さんの偵察隊が、潜り込めるはずが無い……
「どうしまたか、比叡さん…?」
「いや、何でも無い…」
鈴音さんを不安にしたくないので、先ほどの事は言わないで置く。俺の気のせいだろう……
お互いお腹が一杯なので、売店でスナック菓子類は売っているが必要は無いだろう。
自動販売機でジュース類を買って、俺と鈴音は部屋に戻った……
……
(
食事を終えて席を立ったカップルが、例の奴と似ている気がする。
スマートフォンを操作して、仲間内(敏行)から送られてきた画像を確認する。
(間違い無い! 比叡という奴と鈴音と言う女だ!!)
しかし、俺は朱海蝲蛄からは足を洗った……。今は普通の家族が出来て、大変だが幸せだ。
本当は見て見ぬ振りをしたいが……山本総長や副総長には恩が有る。
総長は、太り気味だった俺を鍛えてくれた。だから今が有る…
(敏行に連絡だけは入れておくか…)
(見た感じ……年の差が離れたカップルだが、何をしたんだ…?)
(ここのフロントは顔なじみだ、直ぐに部屋番号は分かるはずだ)
俺は仕事の関係でこのホテルに良く宿泊をしている。こんな変な場所で、例の奴らを見つけてしまうとは……
(飯を食い始めたばかりだし、連絡を入れるのは後で良いだろう)
(どうせ、電話を掛けたら、懐かしい話とかで絶対長くなるだろうし……)
俺は足を洗って以来、連絡は取ってなかった。
俺の所に直接メールが届いたのでは無く、別の仲間からの転送だった。
(どれだけの奴が、総長に協力しているかは知らんが、素人を痛めつけてどうするのだ!?)
(まぁ、飯が食い終わったら、連絡だけは入れよう…)
俺は足を洗った人間だ。恩は有るが掛かりたくは無い!
副総長(敏行)に連絡したら『確保しろ!』と言うに決まっているが、断固拒否をする。折角、築き上げた家庭を壊したくないからだ!
(馬鹿な事を言い出したら、警察に言うと言えば何も出来ないだろう…)
(過去では地域を纏めた朱海蝲蛄だが、今では影形も無い。仲間も数人しか居ないだろう…)
(それに、総長の解散理由も身勝手だった……)
(『僕が職人に成るから解散だ! 分かったな!!』あの時は、呆れて者が言えなかった)
(私情でチームを作って、私情で解散だから、誰も文句は言えなかったが…)
(こんな馬鹿げた事を再びして無くて、普通に家庭を作れよ…。たくっ…)
……
客室に戻った俺と鈴音さん。
俺は鈴音さんとテレビを見ている。
食後のデザートに、観光農園のお土産で貰った苺を時々、摘まみながら寛いでいる。
折角、Wi-Fiが使えるのだから、俺はアプリゲームをしたかったが、鈴音さんに止められた。
「用心に超した事は無いです!」
鈴音さんはそう言ったが、俺はさっき、鈴音さんが居ない所で使ってしまった……
ビジネスホテル内のWi-Fiだから大丈夫な筈なのに……
俺は鈴音さんと性行為が出来るかも知れないと、コンドームの用意はしていたが出番は無いだろう……
山本さんに見付かる恐れは無いと思うが、万が一見付かった時に、鈴音さんと性行為をしたのがバレてしまったら、絶対にお仕置きでは無く、私刑に成るからだ!
その日は23時位までは、鈴音さんとテレビを見ながら談笑をして、普通に就寝する事になった。
本当なら今頃の時間は、鈴音さんと熱いキスをして、鈴音さんの可愛い口に俺の物を含んで貰えていたのかも知れないのに……
俺は山本さんを恨みながら眠りに就く事になった……
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