第76話 最悪の展開 その2

「もしもし…」


「比叡さんですか?」

「鈴音です…」


「はい。比叡です」

「……どうでしたか?」


「……」


「やはり駄目でしたか?」


「……はい」


「2人で、話は出来たのですよね?」


「夕方……工場こうばに行きまして、孝明さんと話し合いました」

「山本さん曰く『今更……君と話し合いをする気は無い!』と言われました」


「何故、山本さんは其処までの事をするんだ?」


「判りません……。でも、一言言える事は、稀子さんが絡んで居るのは間違いないです」


「鈴音さんは…、稀子が山本さんとの橋渡し役をしていると、山本さんには言ったのですか?」


「……それは言っていません」

「でも、やはりと思いましたが、稀子さんは私の伝言を伝えて無かったです」

「もし、伝えている様でしたら、あんな事は言いません……」


「稀子をか?」


 俺は稀子に対して怒りを持つ。

 幾ら好きな人だからと言って、親友を犠牲にしてまでやる行為か?


「良いんです!」

「稀子さんを責めないで下さい!!」


「私も迂闊だったのです。稀子さんも孝明さんが好きなのを知っているのに、軽い気持ちで頼んで仕舞いましたから」


「しかしと言っても……俺も人の事は言えんか…」


「…ここで聞いては行けないと思いますけど、敢えて聞きます」

「山本さん言え、孝明さんと鈴音さんは関係を解消したのですか?」


 もし、ここで関係が解消されていれば、俺は鈴音さんに好意を伝える気でいた。

 何時までも、鈴音さんの悲しい表情等見たくは無かったし、稀子なんか所詮、親友関係だから、稀子なんか山本さんにくれてやる!

 稀子もそれを望んでいる様だし好都合だ!


「……孝明さんの口からは、別れようとは言いませんでした」


「それでは、まだ関係は続いてると…」


「そう成りますね…」

「きっと孝明さんは、私に仕事を手伝って欲しくないのです」

「私が普通に進学して、山本さんの家業に関わらないと言えば、直ぐに許してくれるはずです」


「でも……それでは、鈴音さんは嫌ですよね?」


「はい。嫌です!!」

「私が孝明さんと関係を持った理由は、孝明さん自身も好きですが、山本鞄店をもっと盛り上げたい気持ちが有ったからです!」

「普通の会社員や公務員をしてしまったら、私は今と同じ補助的なお手伝いしか出来ませんし、山本鞄店に対する愛着も薄れてしまいます!」


「鈴音さん……」


「稀子さんがどの様に孝明さんに言っているかは判りませんが、私はしばらく様子を見る事にします」

「稀子は直ぐにボロを出す子です。孝明さんがそれに気づけば、私に接点を求めて来る筈です」


 鈴音さんは、山本さんより山本鞄店に対する愛着が強い。

 当たり前だが、鈴音さんが小学生の時は、山本鞄店製のランドセルを6年間背負ったのだろう……

 俺の口言葉や気持ちだけで、鈴音さんを俺の方に振り向かせるのは、まず無理だと感じてしまった……


「すいません……私ばかりが喋ってしまって///」


「いえ、大丈夫です」

「鈴音さんの、山本鞄店に対する気持ちが非常に理解出来ました」

「山本さんのお母さんは、何か言ってくれないのですか?」


「お母様も、色々言ってくれて居るようですが、やはりと言うか、私が学園生の間は一切関わらせないと、かたくなに言っている様でして…」


「普通の学園生でも、コンビニやファミレスで働いているのに、山本さんと来たら…」


「それだけ、私の事を大事にしてくれていると、今は思っています」

「もうしばらくしたら、また元の関係に戻れるはずです」

「それまでは、比叡さんも重苦しい中での生活に成ると思いますが…」


「俺の方は大丈夫です」

「しかし、稀子には本当にお灸を据えたいですね!」


「それだけ、稀子さんは諦めきれないのでしょう…」

「それに……比叡さんも稀子さんの事が本当に好きなら、比叡さんが稀子さんを窘めて居る筈ですが…?」


「!!!」


「そっ、それは……俺からも言っているのですが。稀子が『比叡君とは親友!』と言い切りまして……」


「本当の親友なら……言う事を聞くはずです!」

「私達……稀子さんに遊ばれていますね♪」


 何故か、鈴音さんはここで嬉しそうに言う。

 鈴音さんも俺に本当に気が有るのか!


「では、比叡さん…。長くなってしまいましたが、これで終わらせて貰います」

「お休みなさい…」


「あっ、お休み。鈴音さん!」


『プッ、ツー、ツー』


 俺がその言葉を言った直後に、通話は切られてしまった。


「稀子に遊ばれているか…」


 たしかに稀子が俺に、本当の好意を持っていれば、親友でも言う事は聞くはずだ。

 俺も稀子が好きなのだから、平手打ちをしてまで止めさせ無ければ成らないのに、軽く言っただけで終えてしまっている。

 俺の心の中では、稀子から鈴音さんに完全、好意の対象が移っていたのだ!


(これはもう……時間が解決させるしか無いな)


 俺が今、前面に出て稀子に強く言ったり、山本さんに一言申したら全面戦争に成るだろう。

 元々、2人の問題に……俺が鈴音さんを引き留めて、稀子はこれをチャンスだと思って山本さんに接近した。本当の原因は俺だからだ!!


(鈴音さんも状況を理解しているし、後は稀子がボロを出すまで待つしか無い…)


 今日も寝付けない夜に成りそうだ……

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