第75話 最悪の展開 その1

 翌日の夕方……


 俺は今日のアルバイトを終えて、一度帰宅して、シャワーを浴びてから山本さんの家に晩ご飯を食べるために向かう。

 時間は少し早いが、鈴音さんの事も気に成っていたので向かう。


 今日1日はアルバイト中でも、スマートフォンを肌身離さず持っていた。

 もしかしたら…、鈴音さんから連絡が来るかもと期待していたからだ。

 しかし……連絡は一切来ず、ここ最近は稀子とのRailのやり取りもすっかり減ってしまった……。既読マークは付くが、返信は無いと言うパターンばかりで有った。


 山本さんの家に到着して、リビングの引き戸を開いて挨拶をすると、今日は山本さんのお母さんが料理を作っていた。


「何か、手伝える事は有りますか?」


「えっと……そうね。炊き合わせを小鉢に別けて貰える?」


 山本さんのお母さんは、鍋をダイニングテーブルの方に持ってくる。

 蓋を開けると、美味しいそうな炊き合わせが鍋一杯に入っていた。

 山本さんの家は炊き合わせを大鉢に入れて、みんなでつつくスタイルでは無い。小鉢に1人ずつ小分けされる。

 俺は炊き合わせを小分けしながら、軽く状況を覗ってみる。


「…今日は、孝明さんや鈴音さん達は居ないのですか」


「えぇ、孝明は工場こうばですし、鈴音さんや稀子さんは自室だと思います」


「……そうですか?」


(山本さんのお母さんは、余り他人に興味が無いのか?)

(でも、そんな訳無いよな…。そうだったら、自分の家を下宿先にして、人を2人も住まわせない)


(この人はこの人で、何を考えて居るのだろう?)


 俺はそう思いながら、おばさんの作る料理を手伝った……


 ……


 晩ご飯の時間……


 俺はてっきり、鈴音さんと山本さんの2人でリビングに来ると思っていたが、鈴音さん1人でリビングに入ってきた。表情もやはり元気が無い……


「こんばんは。鈴音さん!」


「あっ、はい…。こんばんは、比叡さん……」


(これは、話し合い失敗したか…)


 俺はそう考えながらも、山本さんと稀子の到着を待つ。

 つい最近までは、鈴音さんと稀子が同時にリビングに来ていたが、ここ数日は別々で有った。

 数分が経った頃……。稀子が来て、その後直ぐに山本さんもリビングに来る。


「こんばんは! 比叡君!!」


「こんばんは…。稀子ちゃん」


「今日も美味しそうなご飯だね~~♪」

「焼きシシャモも美味しそう~~」


「比叡君! 今日も食べようね!」


「あぁ……そうだね…」


 稀子は何時も通りの元気な声で、声を掛けてくれる。食欲も有りそうだ。

 それは良いのだが……、落ち込んでいる親友を気にはしないのか!?


 鈴音さんと山本さんが対立して以来、炊飯器の置かれている場所が変わった。

 それまでは、鈴音さん近くに炊飯器が有ったのだが、今は山本さんのお母さんの場所に変更になった。

 山本さんが、鈴音さんにお代わりを頼みたくない理由らしい。この人も子どもか!?


 食事前の挨拶をして、今日も晩ご飯が始まる……

 誰かが、積極的に会話をする訳で無く、黙々と食事の時間が進んでいく。

 修行僧や刑務所で有るまいし、談笑の無い食事なんか、はっきり言って美味しくない!

 俺は何時まで、この詰まらない晩ご飯が続くかと思いながら今日も食事を取る。


「ごちそうさま…」


 山本さんは食事を終えると、今日はリビングからは出て行かずに、ソファー座ってテレビを付けて見始める。

 バラエティー番組を見ていて、時々笑い声を上げている。


「ご馳走様でした…」


 鈴音さんも食事を終えて、この後はどうするのだろう?


「お母様……。今日は少し用事が有りますので、後片付けはすいません」


 鈴音さんはそう言いながら、頭を『ペコリ』と下げる。


「良いですよ。鈴音さん! あなたはまだ、学園生ですから!」


「本当にすいません…」


 鈴音さんが頭を再度下げると同時に、稀子が鈴音さんに質問をする。


「あれ? りんちゃん。何か有るの?」


「えっ、えぇ……」


 鈴音さんはそう言うと、リビングから出て行ってしまう。


「比叡君?」

「最近の鈴ちゃん変だね?」


(いや『お前が原因だろ』と言いたいが、山本さん親子が居る手前、それは言えない)


「変とは…?」


 こう成ったら、ワザと言って探りを入れたる。


「何かね……ずっと、落ち込んでいるような」

「何が有ったのかな…?」


(こいつ。絶対にワザと言っているだろ!)

(稀子が鈴音さんからの伝言を伝えてない事は、こっちだって知って居るんだぞ!!)


「早く、鈴ちゃんが元気になると良いね!」

「比叡君!!」


「あぁ…」


 稀子は猫かぶりをしているが、俺はそれを言えなかった。

 それを言ってしまうと、俺と鈴音さんの関係が明るみに出てしまう。

 晩ご飯後の後片付けを手伝ってから、俺はアパートに戻る。


 鈴音さんに電話を掛けようかと考えたが、もしかしたら、山本さんと話し合いをして居るかも知れないので、俺から電話を掛ける事は、今日はしない事にした。

 雑用をしてから、テレビのニュース番組を見ていると、スマートフォンから着信音が流れる。


 俺は着信名を見ると鈴音さんからだった……

 吉報か不幸事か、どちらかが判らないが、俺は鈴音さんからの着信に出た。

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