第77話 最悪の展開 その3

 それから、しばらくの時が過ぎた……


 山本さんと鈴音さんの関係は中々改善しなくて、重苦しい日々が続いた。

 その中でも、稀子は山本さんと関係を深く出来た様で、2人で楽しく過ごしている光景も、度々見るように成った。


 俺はそれを見かける度に、鈴音さんの気持ちも考えてと言うが稀子は『普通に喋っているだけ! 比叡君はりんちゃんを凄く心配してるけど、鈴ちゃんの事、実は好きなの!?』と逆に反撃をされてしまった……


 俺は思いきって、山本さんに鈴音さんの事を話したら『…比叡君には、関係無い事だ!』とやはりと言うか一蹴されてしまった……

 本当に時が解決するまで待つしか無いと思っていたが、俺に大ピンチが先に来てしまった!!


 保育士養成学校の入学選考が不合格に成ってしまった。

 こんな重苦しい雰囲気の中で、更に俺の不合格を発表したらどうなるのか!?

 それでも、事実だけは報告しなければ成らないので、その日の夜。みんなの前で発表する。


 ……

 …

 ・


 結果は最悪だった…。こんな結末が有るなんて……

 山本さんは俺を見限り、今日付でアルバイトは終了。晩ご飯の提供も終了。更に今月末までに荷物を纏めて、この町から去れと言われた。

 俺は弁解も出来ずに、最後は追い出される様に山本さんの家から追い出される!!


 俺が呆然と山本さんの玄関を見ていると突然、玄関が開く。

 玄関から出て来たのは稀子だった! 俺を助けに来てくれたのか!!

 いや……稀子の表情が暗い。どうした?

 稀子は俺の側に近づいて、こう言い放つ。


「……今日でお別れだね!」


「ちょっと、稀子ちゃん!」

「今月末までは、2週間位まだ有るよ!!」


「それは、比叡君……ううん、青柳さんがこの町にれる時間でしょ!」


(稀子の奴……君付けからと他人行儀に成りやがった!)


「私……青柳さんを信用して良いのかなと、ずっと思っていた!」

「学校にも行ってないから時間も沢山有るのに、昼間しか働かないで、夜はお酒飲んで……比叡君が本当に夢を追いかけているのかと、私は疑問に思っていた」


「でも、今日。分かった……。神様はきちんと見ているのだなと!」

「夢を追いかけられない人なんか、私は要らない!!」


「稀子ちゃん。それは……俺と別れようとの意味か?」


 俺がそう言うと、稀子は急に顔をしかめる。


「別れよう…?」

「青柳さんとは恋人関係には成ってないのに、何自惚れているの!!」


(このクソ女……。俺が保育士養成学校の入学選考に落ちた瞬間にこれか!!)


「私が言いたいのは、青柳さんと縁を切る事!」

「もう……電話番号も着信拒否にしたし、Railもアカウントを消した!」

「バイバイ…」


 稀子は言い終えると、家に戻ろうとする。


「ちょっと、稀子。俺を見捨てないでくれよ!」

「俺は稀子のために、前住んでいた町を捨てて、この町に来たんだよ!」


「はぁ?」

「何言ってるの! 青柳さんが勝手に来ただけでしょ!!」

「私から頼んだ覚えは無いよ?」


 稀子は完全に俺を見下しながら『私は悪くない!』の表情で喋っている。

 俺をクビした、中年女性上司と被ってしまう。


「この野郎~~」


 俺は思わず拳を握りしめてしまう。


「何? 私を殴る気?」

「殴っても良いけど、二度とこの町から出られなくなるよ!」


(稀子…。それは死を意味する意味か?)


「せめて……落ちた時の対策をあの時に言ってくれれば、私も助けたのに…」


 先ほどまで山本さんと話し合いをした時、不合格時の『対応策』を聞かれたが、俺はそれを考えては無かった……。結果的にこの結果に成った。


「青柳さんは人生を甘く見ている!」

「そんな人を異性としては見られないし、親友関係でも今後持ちたくない!」

「私も何故……この人が良いと思ってしまったのか、後悔している!!」


「そこまで言うか、稀子……」


「言っても、判らないと思うけどね!」

「判っていれば、もう少し考えていた筈!!」


「これ以上話すと気分が悪く成るから、さようなら!」


 稀子はそう言うと、体の向きを変えて玄関に入っていった。


「俺が何をしたと言うのだよ…」


 ここで山本さんが居なければ、俺は確実に稀子を殴っていた。

殴って気絶させて、俺のアパートで強姦して、最後は証拠を隠していたかも知れない……

 今の心境は、憎悪が溢れかえっていた。ここまで馬鹿にされたのも初めてだし、殺意を持ったのも初めてだ。

 山本さんの護衛の御陰で、稀子が助かった者だと言っても過言で無いはずだ!


 俺は怒りを抑え切れないままアパートに戻る。

 どうせ退去するのだから、暴れて壁に穴を開けたりもしたかったが、弁償の事考えると出来ない……小心者だ。


 気持ちを落ち着かせるため、シャワーを浴びて気持ちを落ち着かせる。

 気持ちが段々落ち着いてくると、怒りで見えなかった、絶望が少しずつ見えてくる。


(夢も失い、稀子も失った…)

(町から追い出されて、帰る場所も無い……。貯金も二十数万円…)

(引っ越し業者は使えないな)


 現実がはっきり見えてしまったので、シャワーを浴びるのは止めて浴室から出る。

 冷蔵庫の中には宅飲み用で買った発泡酒が有るので、発泡酒で少しでも気分を高揚させる。


(ここの大家に掛け合って、再契約をするか?)

(でも、大家も山本さんの知人の筈だから拒否されるよな…)


(いっそ……市役所に駆け込んで、保護して貰うか?)

(……でも、山本パワーでまず握りつぶされるな!?)


(実家に戻るしか無いが、両親は受け入れてくれるか?)

(あの時……稀子の気持ちを馬鹿みたいに応えるのでは無かった……)


 俺は後悔しながら酒を飲んでいると、玄関のインターホーンが鳴る。

 山本がお礼参りに来たか!!


 玄関のぞき窓を見ると……何とそこに居たのは鈴音さんだった!!

 俺は急いで、玄関のロックを解除して玄関を開けた。

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