第69話 打倒山本 その2

「…本来だったら、この話を聞いた時点で、僕は話し合いをする気は無かった!」

「しかし、鈴音に強く言われたから、話だけは聞いてやる事にした」

「もう少し……具体的な事を言ってくれれば、考えてやっても良かったが、君は本当に甘いな……」


「……」


 俺の側に稀子が居るから負け戦では無いが、絶対に勝てない戦だった……

 それでも……俺は、有利な発言をするために頭をフル回転させる。

 

「みんな……明日も平日だ! 僕も忙しい!!」

「お開きにしようか…?」


 無情にも山本さんは、話を続ける気は無さそうだ。


「待って下さい!!」


 山本さんがそう言った直後に、鈴音さんが発言する。


「鈴音…」


「孝明さんは、そうおっしゃいましたけど、私は比叡さんを応援したいです!」

「孝明さんが協力しなくても、私が協力をします!!」


「何を言う。鈴音!!」

「こんな、クズ男何か、手助けする必要は無い!!」

「鈴音は優しすぎる!!」


 まだ、学園生の鈴音さんが俺を助けると言って来た!

 本当にそんな事が出来るのか?


「孝明さん……私は、山本鞄店のお手伝いを2年以上しています」


「その間に沢山の親友が出来ました。小さなお子さんから教育関係者まで……」

「孝明さんのコネクションを使いたがらなければ、私とお母様のコネクションを使うまでです!!」


「何を言ってるのだ! 鈴音!!」

「それに母さん、本当か!!」


 身内が裏切り行為に走り出したので、当然慌てる山本さん。

 俺と稀子も鈴音さんによる、突然の行動を呆然と見ている。


「孝明……。お前が何故、そこまで青柳さんを毛嫌いするのかが分からないが、青柳さんの将来に成るなら、助けてやっても良いではないか?」


「しかし、母さん……。こいつは将来を見据えてない大馬鹿者で有って……」


「……お前も人の事言えるのか?」


「お前が学園生の時、家業を継ぎたくないから『朱海蝲蛄レッドロブスター』何て言うバイク集団を作って、母さんや父さんに迷惑掛けたくせに、人に者を言える立場か? なぁ?」


「うっ……」


 山本さんは言い淀む。山本さんのお母さんも流石だな……


「……それに、お前が本当に更生したのは、鈴音さんが家に来る数ヶ月前だっただろ?」

「母さんにとっても、鈴音さんは恩人なんだよ!」


「バイク集団を解散した直後に、お前は引退した職人を呼び寄せて、職人を住み込みにさせて、必死に成ってお前はランドセル職人に成った!」


「基本的な部分は、お父さんがお前に教えていたし、お前も才能が有ったから、見る見る内に知識と技を吸収して、本当の1人立ちが出来た!」

「まだ……お父さんと比べれば半人前だが、人には売れる物が出来る!!」


「大切な恩人…。鈴音さんからのお願いを聞かない訳には行かないよ…」


「母さん。……いつの間に、そんな話をしていたのだ…」


 山本さんは自分の母親に聞く。


「お前が、青柳さんを追い出した直後だ」

「お前が工場こうばに向かった時に、鈴音さんからお願いされてね」


「『比叡さん。いえ、青柳さんを助けて貰えませんか!』と言われてね」

「鈴音さん自身も、青柳さんが不合格に成るとは思ってなかったらしく、あの場で声を掛けられ無かったが、かなり動揺したらしい」


「本当は明日でも、私(山本母)から青柳さんに、通信講座の事は教えようと思ってた」

「厳しいのは確かだけど、本人の気持ちが有るなら出来るはずだから…」

「その辺は、青柳さん自ら調べたのだから……孝明。その部分はきちんと評価をすべきだよ」


「……」


 山本さんは、無言で顔を彼方此方に向けている。

 同時に俺は、鈴音さんに本当に感謝しても仕切れない。鈴音さんに何回助けて貰えば良いのだ!

 稀子と二人きりの滞在の件。引っ越しの荷解きや食事の件。そして……今回の保育士の件。本当に感謝しても感謝仕切れない……


「孝明さん…。ですから、比叡さんを助けてあげて下さい!」

「私達の力よりも、孝明さんの力の方が大きいですから…」


 鈴音さんは山本さんにそう言うと……


「鈴音は本当に優しい奴だ……。俺も、その優しさが好きだが…」

「あはは~~~。たく、しょうがねぇな!」


 馬鹿笑いをしてスキンヘッドの頭を掻く山元さん。フケは無いと思うが!?


「比叡君……。母さんと鈴音に、こうも言われてしまったら、流石の僕も頭を冷やすしか無い!」


「……最後に聞くが、お前は絶対、保育士に成るんだろうな?」

「成れなかったり、逃げ出したりしたら、朱海蝲蛄のヘッドを張っていた僕だ。容赦はしないよ…」


 山本さんは鋭い目つきをして言う。

 こんなの言う事を聞くしか無い! 絶対に非道い目に遭って、殺される。


「だっ、大丈夫です」

「俺には稀子も居ますし、助けて貰える人も居ます。頑張ります!!」


 俺がそう山本さんに言うと……山本さんはため息をつく。


「分かったよ…」

「今までの発言は全て取り消す。済まなかった比叡君!」


 ソファーに座っている状態だが、山本さんは頭を下げる。


「あっ、いえ、頭を上げて下さい…」


「鈴音や稀子ちゃんが、ここまで君に好意を持っているとは知らなかった」

「僕だって鈴音は失いたくは無いし、母さんも大事だ」

「結果的に、君は自らの手で解決策を見つけ出したのだから、今までの事は水に流そう!」


 山本さんは、そう言いながら右手を差し出す。

 俺も右手を出して、山本さん握手をする。

 手打ちをした瞬間だった……


 これで俺は保育士養成学校から、通信講座による保育士資格の取得に切り替えに成った訳だが、果たして上手く行くのだろうか……

 この町に残れる事で安堵は覚えたが、先の見えない道で有る事は事実だった。

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