第61話 料理デビュー その2

 すると稀子は、里芋が入ったガラス製ボウルを、電子レンジに入れて調理を開始する。


「稀子ちゃん。何やっているの!?」


「何って……比叡君。電子レンジで里芋を調理しているのだよ!」


「でも……皮ごとだよ!!」


「そうだよ!」

「比叡君……。って知っている?」


…。皮ごと茹でた里芋だよね?」


「本当は蒸すのだけどね…。まぁ、良いや!」

「それと同じだよ!」


「電子レンジで調理してからだと、簡単に皮がむけるんだよ♪」

「比叡君、本当に知らなかったんだ!」


「そんな、調理方法有るんだ……知らなかったよ」


「本当の美味しさを求めれば、大変だけど生のままで皮を剥いて、下茹でするのが理想だけど、加工品を使うよりか、遙かにこっちの方が美味しいよ♪」


 稀子は『にぱぁ~』としながら言う。

 確かにこの方法なら、手間はさほど掛からない。


 きっと稀子や鈴音さんは、誰かに食べて貰うために料理を作っているのだろう。

 俺見たいに自分だけが食べる料理なら、最悪エサでも構わない。

 食事は楽しみの部分でも有るが、予算や時間の都合で美味しくない物でも、食べなければ成らない時が有るからだ。


『ピーー』


 電子レンジの調理終了ブザーが鳴ると、稀子は里芋が入ったボウルを取り出して、里芋をひっくり返して再び調理をする。


「比叡君!」

「ジャガイモでも、同じ事が出来るよ!」

「ジャガイモは1個、1個ラップで包んで加熱すれば、ジャガイモの皮むきも楽に成るから、ポテトサラダ作りも楽になるよ!」


「電子レンジ様々だな…」


 俺はそう呟きながら、自分の仕事をする。

 手際の良い鈴音さんはゴボウを笹がき終わって、ゴボウの中で有った。

 手が空いた鈴音さんが声を掛けて来る。


「比叡さん。アスパラガスは茹でたてが美味しいですけど、餃子の方が焼きたてが良いですから、茹でてしまいますね」


「お願いします。鈴音さんの方が、絶対美味しく茹でられますから」


「私は、普通に茹でるだけですよ!」


 鈴音さんは謙遜しながら、アスパラガスを茹で始める。

 きちんと根元から入れて茹でる。キッチンタイマーで時間も計っている。

 俺の場合は、そのまま横に入れて茹でる。色が変わったら適当なタイミングで引き上げるタイプだ。

 稀子も電子レンジで調理した、里芋の皮をいている。

 ここまで来ると、俺の晩ご飯担当では無くて、3人での共同作業になっていた……


 ……


 晩ご飯の時間。

 ダイニングテーブルには焼き餃子、アスパラガスの塩茹で、白菜の漬け物が並べられている。アスパラガスは醤油マヨネーズで食べる。

 豚汁も、大きなお鍋一杯に出来上がった。残った場合は、山本さん達の明日の朝食と、俺のお土産に成る。


 食卓に山本さん親子も揃って、晩ご飯の開始で有る。


「今日の晩ご飯は、比叡さんが作りました!」


 食事の挨拶前に、鈴音さんがみんなに分かるように発表する。


「ほぅ……比叡君もデビューか」

「自信、有るんだろうな…?」


 山本さんは低い口調で言う……もし、口に合わなかったらどうなるんだ?


「こら!」

「孝明さん。脅かしちゃ駄目ですよ!」

「比叡さんが、一生懸命作ったのですから!!」


「あはは!」

「冗談だよ! 鈴音。比叡君!」

「比叡君が料理を作ったから、を焼いただけだよ!」


 山本さんは笑顔で言うが、本当に冗談だったのだろうか?

 俺には本気マジで感じた……


 みんなで食事前の挨拶をして、晩ご飯が始まる。

 何故か、みんな、一斉に豚汁からすする。

 最初に言葉を述べたのは稀子だった。


「うん! 美味しい!!」

「豚汁は安心する味だね!!」


「大根や油揚げ、こんにゃく、豆腐も入って、具だくさんで美味しいです!」


 鈴音さんも褒めてくれるが……


「うん…。確かに旨い豚汁だが……これは本当に、比叡君だけで作ったのかね?」


 俺が上手に作りすぎたのか、山本さんは疑問を感じている。

 俺も豚汁をすすったが、ゴボウのから出る出汁が、加工品を使うのと比べて、風味や味も全然違う。疑うのも当たり前だ!


「そうだよ! 山本さん!!」

「私達は、お手伝いはしたけど、味付けは比叡君だよ!」


 稀子は俺をフォローしたつもりだと思うが、同時に余計な事も言っている!?

 それでは……俺1人で、作った事には成らなくなる!


 案の定……山本さんは『やっぱりか…』の表情をする。


「……なんだ。稀子ちゃんや鈴音も手伝ったのか…?」


「えぇ、孝明さん。そうですわ!」

「比叡さんがこの家で料理を作るのは初めてですし、私達が居ると安心出来ると思いまして!」


「ふ~ん」

「2人から好かれて居るんだ……比叡君は…」

「成る程ね……ふふ」


 不敵な笑みをこぼしながら、豚汁の具材を食べている山本さん。

 何だか、怖いのですけど!!


「こら、孝明」

「そう言う事が言いたいのなら、孝明も料理を作りなさい!」


 ここで、山本さんのお母さんが注意をする。

 山本さんは陽気な声で喋る。


「あはは~」

「あまりにも旨すぎたから、ちょっと悔しくてね!」

「僕もデビューするか! 鈴音と稀子ちゃんに手伝って貰って!!」


 山本さんはそう言いながら、餃子を箸で掴んで食べている。餃子はチルド品だし一目瞭然で有る。

 稀子ちゃんと鈴音さんは、何故か少し困った顔をしていた。


(俺を手伝うのは良いのだけど、山本さんの場合は嫌なのかな?)


「まぁ……僕は、肉を焼くのと焼きそばしか作らないがね!」


 山本さんはそう言い、ビールを一気に空ける。

 この人は我が強い人だから、稀子や鈴音さんが手伝っても、余り意味が無いと感じた。


 ……


 晩ご飯の時間も無事終わり、余った豚汁をタッパーに詰めて貰って、俺はアパートに戻る。

 今回は成功とは言えないが、俺ももう少し、真剣に料理作りをしようと思いながら帰路に着いた。

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