第62話 稀子にプレゼント その1

 平日の朝……


 俺は何時も通りの時間に家に出て、アルバイト先に向かおうとすると、道途中で珍しく稀子と鉢合わせる。


「おはよう! 稀子ちゃん!!」


「あっ、おはよう~~。比叡君!」


 今日も稀子は元気に挨拶してくれる。

 朝食は自分の家で取っているので、稀子とは会えないが、こんな日も有るんだと感じる。


「今日は早いんだね?」


「うん!」

「今日は日直だから、少し早めに行くんだ!」


 日直……。懐かしい響きで有る。

 日直の時……学級日誌書くのや黒板消し。面倒くさかったな……


「じゃあ、比叡君!」

「今日は急いでいるから、また夕方ね♪」


 稀子はそう言って、少し小走りに学園に向かって行ったが……俺は稀子の有る部分が気に成った……


「稀子……腕時計は、付けて無いのか?」


 今の時代はみんなが、スマートフォンを肌身離さず持っているので、腕時計は要らないと感じるが……有れば有ったで便利で有る。

 俺のアルバイト先も、工場内には壁時計が掛かって居るが、腕時計が有れば、MC旋盤の1サイクル時間を逆算しながら、バリ取りが出来るので、安物だが腕時計をしている。


(稀子とは正式に付き合っている訳では無いが、そろそろ3ヶ月位は経つよな…)

(今月はアルバイト代も満額入るし、稀子にプレゼントでも考えてみるか…)


(稀子にプレゼントを贈れば、稀子も俺の気持ちが本気だと分かってくれるかも!)


 自分勝手の考えだが贈らないより、贈った方が良いに決まっている。

 稀子と関係を深めるためにも、稀子にプレゼントを贈る事を決めた。


 ……


 その日の夜……


 山本さんの家で晩ご飯を食べ終えて、アパートに戻った俺は早速、稀子のプレゼント選びを始める。

 アルバイト中に色々考えたが……実用性が有る物と、稀子が今、持って無さそうな物で腕時計にする事にした。


 スマートフォンでWebブラウザを開いて『学園生 腕時計』で検索すると、学園生の身なりに合いそうな腕時計が沢山出て来た……


(経済的な余力は無いから、数万円もする腕時計は厳しいな……)

(あっ、これ何かどうだろう?)

(値段も2万円未満だし……少し大人びたデザインだし!)


 俺はとある、海外有名メーカーの腕時計紹介ページを見る。

 今のお子ちゃまの稀子には、少し似合わない気もするが、稀子も立派な女性に成長するはずだ!?


(でも……文字盤はアナログか?)

(デザインは悪くないけど、実用性には乏しいが…?)

(でも、アナログだから大まかに分かるし、これで良いかな?)


 紹介ページには、Web通販のバナーも張られているので、これで決めようかと思ったが……


(しかし、稀子はこれを貰って本当に喜ぶかな?)

(受け取って貰えても、付けて貰えなければ意味が無いし…)


「!!」


「そうだ!」

「鈴音さんに聞いて見よう!!」

「鈴音さんなら稀子の事は知っているし、更に共に暮らしている」

「稀子の好き嫌いも分かるはずだ!!」


「折角、鈴音さんのRail(SNS) のIDも教えて貰ったし良い機会だ!」

「稀子のプレゼントに関する相談だから、山本さんにバレても、俺が咎められる事は無い!」


「稀子のプレゼント相談を鈴音さんとしただけです。とと言えば、山本さんも『ぐぬぬ…』の筈だ!」


 腕時計紹介ページのスクリーンショットを撮って、俺はRailアプリを起動させて、鈴音さんにコンタクトを取る。

 山本さんと2人の時間で無ければ、直ぐに返事は来るはずだ。


「鈴音さん。こんばんは」

「Railでは、初めてですね!」

「稀子の事で少し相談が…」


 文章を打ち込んで鈴音さんに送信する。

 直ぐには返信は来なかったが、5分位過ぎた所で鈴音さんから返信が来る。


『比叡さん。こんばんは★』

『稀子さんで、何か有りましたか?』


「実は……稀子に腕時計をプレゼントしようと思いまして…」

「鈴音さんに相談に乗って貰えたら?」


『稀子さんに、腕時計をプレゼントですか!?』

『稀子さん。腕時計は以前壊れてから、持っていないから喜びますわ♪』


(成る程……稀子は、腕時計自体はしていたのか?)

(何で買わないのだろう?)

(まぁ、こっちには、却って好都合だから良いや!)


「これを、プレゼントしようかと考えていまして…」


 俺は先ほど見ていた、腕時計紹介ページのスクリーンショットを画像送信に貼り付けて、鈴音さんに送信する。


(鈴音さんは、どう反応するのだろう?)


 直ぐには返信は来なかったが、しばらくすると返信が来る。


『比叡さん……この時計では、稀子さんは喜ばないと思いますよ…』


 まさかのまさか……鈴音さんにダメ出しを食らった!?

 俺も少し微妙かなと思っていたが、鈴音さんがダメ出しするのだから、この腕時計では稀子は喜ばないのだろう……


 稀子のプレゼント探しは振り出しに戻ってしまった!

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