第40話 稀子と鈴音 その1

 翌朝……


 俺は新しい家での朝を迎える。今日は土曜日。

 俺は朝の8時頃に起きて顔を洗い、昨夜のお土産で貰った、おにぎりと唐揚げを朝食にする。


 朝食も取り終えて、10時には稀子と鈴音さんが俺の家にやって来るらしいので、それまでは、見られたくない物を中心に荷解きをする。

 荷解きも一段落付いて軽い休憩をしていると、玄関のインターホーンが鳴る。

 時間的に稀子達が来たのだろう?


「は~い?」


「あっ、比叡君?」

「稀子だよ~~」


 どうやら、ここのアパートの壁はあまり厚く無さそうだ……

 部屋の中に居ても会話が出来てしまう……1Kだから仕方ないか。

 玄関向こうの相手が稀子達だと分かったので、俺は玄関の鍵を開けて扉を開く。

 そこには当たり前だが、私服姿の稀子と鈴音さんが居るが、稀子・鈴音さんの手にはそれぞれ何かを持っていた。


「おはよう~~、比叡君!」


「おはようございます、比叡さん…」


 可愛らしい2人が、それぞれ挨拶をしてくれる。

 こんな現象が起きる何て、まるで夢を見ている様だ……。ゲームの世界ならラブラブシナリオに突入だ!


「2人とも、おはよう!」

「ごめんね、学園休みの日なのに、手伝って貰って……」


「良いよ。良いよ!」

「私は比叡君の家が見たかっただけだし!」


 稀子は笑いながら言う。


「狭い部屋だけど、まぁ上がって」


「おっ邪魔しま~す♪」


「お邪魔します…」


 稀子と鈴音さんが挨拶をして部屋の中に入る。


「うぁ~~」

「前の家より狭いね~~」


 部屋の中に入った稀子が早々に言う。

 今の部屋は実質6畳間だが、前のアパートは1Rでも10畳近くは有ったからだ。


「まぁ、取り敢えず、座って。今お茶を用意するよ」


「…そんなに気を遣わなくても良いよ。比叡君。私は喉渇いてないから」


「比叡さん……私も大丈夫です」


「そうなの…?」


 2人共、お茶を要らない見たいなので、俺はそのまま座布団に床を下ろす。稀子達も同じように座布団に座る。

 前の家ではソファーを使っていたが、今の部屋は和室だと聞いて居たので、引っ越し費用を少しでも安くするために処分した。安物ソファーだから問題は無い。


「畳の匂いが良いね~~」

「新品の…畳の香りが好き~~♪」


 稀子はネコや犬見たいに、鼻をしながらイグサの匂いを楽しんでいる。


「それで、比叡さん……。どこから手伝いましょか?」


 鈴音さんが聞いてくる。


「……残っているのは台所回り位だから、その辺をお願いしようかな?」


「そうですか。分かりました」


「あっ、比叡君……1人で片付けちゃったんだ!」


 稀子がそう言ってくる。


「……俺も一応男だから、見られたくない物有るしね…」


「……見られたくない物?」

「下着とか……?」


 稀子は俺が言った意味を、健全な方で捉えた様だ。たしかに間違っては無い。


「そう、そう。そんな所……」


「じゃあ、そんなに時間は掛からないね♪」

「鈴ちゃん。直ぐに片付けようか?」


「そうですね。稀子さん!」

「片付けが終われば、後はゆっくり出来ますからね!」


 2人の意見が一致した様で、稀子と鈴音さんは座布団が立ち上がる。

 稀子と鈴音さんが持ってきた荷物は、部屋の隅に置かれている。何だろう…?


「稀子。鈴音さん」

「台所関連の荷物は台所に纏めて置いたから!」


「分かった~~」


「了解です!」


 台所関連の荷解きは稀子達にお任せして、俺は私物の荷解きをする事にした。


 ……

 …

 ・


 1人暮らしの荷物を3人で荷解きするので、2時間位であっという間に終わってしまった。

 余分な段ボールも片付け終わって時間的に丁度、昼食の時間で有った。

 台所に閉まった物の説明を2人から受けて、これで荷ほどきも完了で有る。


「2人共、ありがとう~。お昼前に終われちゃったよ!」


「そりゃあ、私達が居るからね~~」

「ねっ、鈴ちゃん!」


「はい!」


 稀子はご機嫌顔で言い、鈴音さんもこころよい返事をする。


「……お昼だけど、どうしよう…?」

「折角だし、何処か食べに行く?」


 俺が稀子達にそう聞くと、鈴音さんが答える。


「比叡さん!」

「私達、サンドイッチ作ってきたのです!!」



「サンドイッチ…?」

「あぁ! 鈴音さんが持っていた袋の中味はサンドイッチだったのか!!」


 鈴音さんはそう言いながら、袋から取り出して見せてくれる。

 サンドイッチは、大きなタッパーにぎっしり入っていた。


 稀子達の予想では、荷解きは午前中では終わらないと予測して、昼食を持って来てくれたのだ。この気配りが本当に感心する。


「わざわざ、ありがとう!」

「せめて、飲み物は用意したいけど……牛乳とかは無いから、コーヒーか紅茶、日本茶しか用意出来ないけど……」


「えへん! それも大丈夫だよ。比叡君!!」

「ミルクティーも魔法瓶に詰めてきたから!!」

「沢山飲めるように大きな魔法瓶に詰めてきたよ♪」


 稀子はそう言いながら、大きな魔法瓶を見せてくれる。

 本当に気配りが出来る2人で有る。今まで…こんな女性に俺は出会う事は無かった。

 人生……本当に分からない者だ。


 俺は2人にお礼を言って、稀子達が作って来てくれたサンドイッチで昼食を取る事にした……

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