第38話 稀子達と始める生活 その4

 俺は少し緊張しながらもリビングに着き、閉まっているリビングの引き戸を開けると……


『パァ~ン』

『パァ~ン』


 俺の方に目がけて、クラッカーが鳴らされる。


「比叡君! ようこそ~~私たちの町へ!」


「比叡さん。今日は沢山楽しんでくださいね!」


 鈴音さんと稀子がそれぞれ声を掛けて来る。

 クラッカーを引いたのもこの2人だ!


「2人ともありがとう!」

「美少女ゲームの主人公の気分だよ!」


「美少女ゲーム?」

「なにそれ?」


 稀子はそう言う。どうやら意味を知らない見たいだ。知らない方が良いけど……


「さぁ、比叡さん。こっちに座って下さい!」


 俺は鈴音さんにダイニングに案内されて、テーブル席の奥の方に座る。ぞくに言う上座かみざの席で有った。

 テーブルの上には唐揚げ・フライドポテト・白身のフライ・ピザ・クリームシチュー・野菜サラダ・おにぎり等がテーブル一杯に並んでいた。


(わぁ、色々な料理が有るな!)

(滅茶苦茶、豪華なわけでは無いけど、何だか温かみの有る料理だな…)


 俺が色々な料理に目を奪われていると、俺の右横に座って居る山本さんが声を掛けてくる。


「比叡君は飲める方かね?」


「えっ!?」

「ああ、お酒の事ですか?」

「まぁ、多少なら…」


「じゃあ、注いでやろう!」


 山本さんはそう言って、瓶ビールを俺の方に差し出す。

 俺はコップを持って、コップにビールが注がれる。注がれたので、注ぎ返そうとすると……


「今日は君が主役だから!」

「注いで貰うのは明日からだ!」


 山本さんは言うが、別の意味で捉えれば『明日からは注げよ』に成る。


「じゃあ、みんな乾杯しようか!」


 山本さんの音頭でみんながコップを持つ。

 俺と山本さん以外はソフトドリンクで有る。


「比叡君の未来を願って、乾杯~!」


「乾杯~~」


 みんなでコップを鳴らし合って、俺の歓迎会が始まる。

 俺はコップに注がれたビールを一気に空ける。


「おぉ~。良い飲みっぷりだね!」

「ほれ、比叡君」


「あっ、すいません…」


 空になったコップにビールが新たに注がれる。ビールも良いが何かを摘まみたい。

 俺は目に付いた唐揚げを箸で掴み食べる。


「あっ、美味しい!」


 思わず口に出してしまう。

 そうすると稀子が言って来る。


「美味しい。比叡君?」

「揚げ物は、私が全部揚げたのだよ!」

「鶏肉の唐揚げは、もちろん手作りだよ!!」


「すごく美味しいよ、稀子ちゃん!」

「幾らでも食べられそう!!」


「どんどん、食べてね♪」

「今日の主役は比叡君なんだから♪」


「ありがとう! 稀子ちゃん!!」


「さて、私は白身のフライ食べよ!」


 稀子はそう言って、白身のフライを食べている。

 みんながみんな、和気あいあいと楽しんでいる。


(何か、子供の時の誕生日会を思い出すな……。あの時も、こんな風に楽しんでいたな)


 俺がそう感慨に浸っていると、鈴音さんが声を掛けて来る。


「はい! 比叡さんどうぞ!!」


 鈴音さんは、クリームシチューの入った器を手渡してくれる。


「稀子さんは揚げ物担当で、私はクリームシチューの担当!」

「温かいうちにどうぞ!」


 そう言われたのなら、早速食べるしか無い!

 スプーンでシチューをすくって口に運ぶ。


「わっ。このシチューすごく美味しい!」

「自分で作るよりも遙かにコクが有って、野菜の旨味と鶏肉の相性がバッチリだ!」

「すごく美味しいです。鈴音さん…」


「比叡さんに喜んで貰えて何よりですわ!」

「デザートに、私と稀子さんの共同作業で作ったプリンも有りますからね♪」


「デザートまで用意して貰って、ありがとうございます」


「比叡さん。今はお礼を言うより、沢山食べて楽しんでください!」

「その方が、私や稀子さんも嬉しいですから!」


 鈴音さんがそう言うと、山本さんも声を掛けてくる。


「僕の担当はおにぎりだから、沢山食べろよ!」

「余ったら、君の明日の朝食に持ち帰れば良い!」

「後、しっかり飲めよ! ビールが飽きたら日本酒やウィスキーも有るからな」


 そう言って、まだ空に成っていないコップにビールが注がれて行く。


「あっ、はい。今日は沢山楽しみます!」


 俺はそう言って、ビールの入ったコップをグッと空ける。


「いや~、良い飲みっぷりだね!」

「意外に酒は強いのかね…?」

「地元の日本酒飲んでみるか。辛口で旨いぞ!」


「じゃあ、少し頂こうかな!」


「孝明さん!」

「歓迎会だからと言って、あまり比叡さんに飲ませちゃ駄目ですよ!」


「孝明……。あんたも飲みすぎては駄目だからね…」


「まぁ、母さんに鈴音。今日は良いじゃないか!」

「比叡君の歓迎祝いだ!」

「これから前途多難な人生が待ち受けているのだから、今日位は好きなだけ飲ませてやらないと!」


 そう言って、俺のコップにはビールから変わって、日本酒が注がれている。


(前途多難か……。まぁ、その通りだよな…)

(今は目の前の道しか見えてない。でも、突き進むしか無い!)


「さぁ、グィッと行け」


 暗い気持ちに成り掛けた所を酒の力で打ち消す!

 日本酒だから、そんな一気には行けないが、飲むと俺好みの日本酒の味がした。


「うん……。美味しいです。すっきり系ですね!」


「おっ、流石だね! 当たりだよ。旨いだろ!」

「ほれ、どんどん飲んで、食べて、楽しめよ!」

「僕はそう言った人間が好きだ!!」


 何か普段の山本さんとは違うような気がする。山本さん酔い掛けて居るのだろうか?

 今日は絶対に飲みすぎに成るのは確定だが、俺のために開いてくれた歓迎会を楽しむ……


 稀子を始め、鈴音さんや山本さん家族。みんなこんなに優しくしてくれる。今までの環境とは大違いだ。

 俺は酔い潰れないほど飲んで、お腹が一杯に成っても、温かい気持ちのこもった料理を食べ続けた。


 ……


 楽しい歓迎会も終わりを迎えて、俺は少しフラつきながらも、みんなにお礼を言って、お土産のおにぎりと唐揚げ等を貰って、自分のアパートに戻るために玄関に向かおうとすると……


「比叡君!」

「お家帰る前にちょっと、お話しよ!!」

「こっち来て!!」


 稀子は俺を引き留める。何か話でも有るのだろうか?

 俺は家に戻る前に稀子と話しをする事と成った。

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