第37話 稀子達と始める生活 その3

「あっ、比叡君だ!」


「こんにちは。稀子ちゃん。久しぶりが良いのかな…?」


「ごめんね~。比叡君」

「迎えに行けなくて!!」


「学校の用事なんでしょう。仕方無いよ!」


「そうなんだよ~~。本当ごめんね~~」


 稀子は手を合わせながら、ペコペコと頭を下げる。

 そんな光景を見てしまうと思わず、抱きしめたくなってしまう。


「そんなに謝らなくても大丈夫だよ」


「そう……。じゃあこの辺で…」

「ねぇ、比叡君。山本さんから聞いた?」


「あぁ……今晩の事。聞いているよ!」


「盛大に祝うからね! 楽しみにしていてね!!」


 稀子は満面の笑顔で言う。

 久しぶりに見た稀子の笑顔。胸の鼓動が急激に早くなる。

 稀子の会話が一段落すると、鈴音さんが話し掛けてくる。


「比叡さん…。お久しぶりです!」


 鈴音さんは『ペコリ』と頭を下げる。


「いえ、こちらこそ。鈴音さん。こんにちは!」


「稀子さんがさっき言ってしまいましたが、今夜は楽しみにしていて下さいね♪」

「腕によりをかけますから♪」


「鈴音さん。本当にありがとうございます」

態々わざわざ、俺のためにこんな事をしてくれる何て感無量です」


「比叡さん。まだ、宴はこれからですから、その言葉は終わりの時に言って下さい!」


「あぁ、すいません!」


「いえ、いえ」

「じゃあ、私達は着替えて来ますので!」


 鈴音さんと稀子は制服から着替えるためにリビングから離れる。

 その姿を見送ると、山本さんが話し掛けて来る。


「比叡君。君はこの後どうする?」

「一遍、家に戻って荷ほどきでもするか、この場所で歓迎会を行うから、君も準備を手伝って行くか?」


「あ~、そうですね…」


 俺は手伝うべきだなと感じて『手伝う』と言おうとした時に、山本さんの母親が割って入る。


「孝明……。青柳さんに手伝わせたら、青柳さんの歓迎会では無くなるだろう」


 山本さんの母親は呆れ顔で言う。


「あっ、そうか…」

「しかし、僕は鈴音達の手伝いをしたいからな、僕の母と一緒に居るか?」


「あっ、言え……そう言う事でしたら、1度家に戻って、直ぐに必要な物の荷ほどきをしています」


「まぁ、そうだな……その方が良いかもな」


 その後直ぐに、俺はお茶のお礼を言ってアパートに戻る。

 鈴音さんや稀子は、別に居ても良いのにと言ってくれたが、自分の歓迎会準備を見ているのも恥ずかしいので戻る事にする。

 直ぐに必要な物を中心に荷ほどきをしていると、スマートフォンから電話の着信音が鳴る。稀子からだなと思い電話に出る。


『ピッ』


「もしもし」


「あっ、比叡君! 稀子だけど!!」

「どう、新しいお家は?」


「うん! 見掛けはボロだけど、中は綺麗!!」


「そう。比叡君に喜んで貰えたなら良かった!」

「歓迎会の時間だけど、もう準備が終わるから、早速家に来て!!」


「分かった。じゃあ、今からそっちに行くね!」


「うん」

「今日はいっぱい楽しもうね♪」


「ありがとう。稀子」


「じゃあ、待ってるからね~~」


『プッ、ツー、ツー』


 稀子はそう言うと、俺が返事をする前に通話を終了させてしまう。


(前回もそうだったよな……まぁ、良いけど)


 俺は荷ほどきを切り上げて、俺の歓迎会を行ってくれる山本さんの家に向かう。

 どんな料理が出てくるかは、もちろん楽しみだが、それよりも久しぶりに人の交わる会食なので、そっちの方が遙かに嬉しかった!


 俺は山本さんの家に向かって、勝手に開けるのは駄目だよなと感じて、インターホーン鳴らしてから玄関に入るが誰も出迎えが無い……

 俺はしばらく途方に暮れるが、床に何かが置かれているのに気づく。

 それを拾い上げるとノートの切れ端のようだが、何か文字が書いて有る。


『比叡君』

『そのまま、リビングに来て!』

『あっ、もちろん。靴は脱いでからだよ!!』


 文字の感じからして稀子が書いたのだろうか?

 玄関からリビングに向かう廊下の照明は付いており、俺は慣れない人様の家の廊下を歩いてリビングに向かう。

 俺は靴を脱いで、稀子達の居るリビングに向かった……

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