第18話 遠くからの義勇軍

 コンビニ駐車場で、邪魔に成らない場所で話し出してから、かなりの時間が過ぎていた。

 肌寒い冬の晴天の午後……。風も時折吹くが、周りに建物が有る御陰おかげでさほど寒くは無い。

 しかし、立ち話には向かない……


 俺と山本さんは、お互い熱くなっている所為も有ってか、寒さを感じてない気がするが、稀子は時折、寒そうに身を縮こめていた。

 立ち話も、そろそろ限界が来て始めていたが、話し合い(交渉)は膠着状態で有る。

 俺は先ほど山本さんに言われた言葉を『どう反撃してやろう』と考えていると、俺のスマートフォンから着信音が鳴る。


「ちょっと、すいません。電話に出ます」


 俺は山本さんに断って、スマートフォンの着信表示を見るが、知らない電話番号だ。

 しかし、これも稀子の関係者絡みかと感じて俺は電話に出る。


「はい…」


「あっ、もしもし、稀子のお友達の方ですか?」


「はい。そうですが…」


「あっ、私、申し遅れました!」

「稀子の親友で美作鈴音みまさかずずねと申します」


「あっ、これはご丁寧にどうも……私は、青柳比叡と言います」


「稀子が、青柳さんの家で1晩お世話に成ったそうで…」


「いえ、こちらも楽しい夜を過ごさせて貰いました」

「あっ、もちろん、普通の意味と捉えてください///」


 発した言葉を誤解されないように付け加えて話す。

 相手が受け取り方を間違えたら大事に成るからだ。

 しかし、鈴音はクスッと笑う。


「大丈夫ですよ!」

「稀子はその辺、うといですから!」


「はぁ…」


「あっ、あの、それで……どの様なご用件で?」


「いまそちらに、孝明さん。……いえ、山本さんがいらしていますよね?」


「はい」

「山本さんと稀子ちゃんも近くに居ます」


「そうですか…」

「私は青柳さんに、昨日のお礼の電話がしたかったのです」

「本当に、ありがとうございました!」


「いえ、いえ、こちらこそ」


「それで差し支えなければ、稀子が青柳さんと知り合って、1晩お世話に成るまでの経緯を教えて貰えたら……」


「え~~と、鈴音さんは何処までご存じですか?」


「私が知っているのは稀子から『友達と泊まる!』と言っていた所までです」

「その後、一方的に切られてしまいましたから…」

「てっきり、女性の友達かと思っていたら、実は男性の友達と泊まっていると、山本さんから聞いた所までです」


「そうですか…」

「稀子ちゃんのプライバシーなので、一度稀子ちゃんに確認取りますね!」


「はい。わかりました」


 通話状態を消音モードにする。


 鈴音さんは電話からの口調で、礼儀正しいそうな子だ。

 常識も有りそうで、たしかに鈴音と稀子、どっちを恋人にしたいと言われたら、俺は恐らく鈴音さんを選びそうだ……

 それを山本さんの居る手前で言ったら、絶対私刑にされそうだ!?


 しかし、山本さんと言い鈴音さんと言い、付き合うならせずに堂々としてくれ。

 稀子に知られたく無かったのか、知らせる必要が無かったかは知らないが、結果的に稀子が暴走してしまった。


 鈴音さんに、稀子のプライバシーを話す了解を得るため、稀子に了承りょうしょうを求める。


「稀子ちゃん」


「んっ、なに比叡君…」


「鈴音さんから電話が掛かって来てね。昨日の経緯、教えて欲しいだって…」


「あちゃ~~。鈴ちゃんから掛ってきたか!」


 稀子は恥ずかしそうな顔をする。


「どうしよ……。比叡君に話して貰っても良いけどこれは、私自身の問題だし…」


 稀子はどう対応すべきか悩んでいるが、しばらくすると答える。


「比叡君。悪いけど比叡君のスマートフォン貸して!」

「元々は、私がいた種だし私が話すよ!!」


「んっ、分かった」

「じゃあ、鈴ちゃんにその様に話すね」


「うん」


 通話の消音モードを解除する。


「もしもし」


「はい。どうでした?」


「その件に関しては、稀子ちゃん、直々じきじきに話してくれるそうです」


「そうですか。では、稀子をお願いします…」


「少し、お待ちください」


 俺はそう言って、スマートフォンを稀子に渡す。稀子は鈴音さんに、今まで顛末を話しているようだ。

 稀子は俺と山本さんから、少し離れた所で通話をしているから内容は聞き取れないが、山本さんに言った事を、鈴音さんにも話しているのだろう。

 すると、山本さんが俺に話し掛けてくる。


「鈴音かららしいな…」


「しっかりした彼女さんですね」


「あぁ、僕には勿体ない位だ」


 俺に対する威嚇いかくが今は無くなっている。やはり、好きな女を褒められると警戒心を緩めるのだろうか?


「鈴音さんと稀子ちゃんは同い年ですよね?」


「あぁ、そうだ」

「僕は鈴音の事がずっと気になっていた」

「しかし、遠いとは言え親戚関係……。周りの目が有るから、気軽な関係は築けなかった」


「時が過ぎて……俺の住んでいる町に在る学園に鈴音の入学が決まった時、通園の関係上で下宿先を探していると、親戚の集まりで聞いたから、僕は母親と相談して鈴音に下宿の提案を申し入れた…」


「しかし鈴音は『親戚だと甘えるから遠慮します』と最初は断ったが、僕が粘り強く交渉したのと『私の友達も出来れば、お願いしても良いですか?』と鈴音が言って来たから、鈴音とその友達の稀子ちゃんが、学園に通う間は住む事に成った」


「あ~、そう言った経緯が有ったのですか…」


「君がさっき電話で話した通り、鈴音は真面目な性格だ」

「学園の成績も良いし、常識もしっかり身についているから、お店のお手伝いさんとして表に出しても、何の問題も無いし、却って看板娘に成ってしまった」


「鈴音も、心の何処かで僕の事を気にしていたようで、稀子ちゃんが君の町に来る数日前に僕は鈴音に告白した」

「稀子ちゃんの性格は天真爛漫てんしんらんまんだし、鈴音も僕と付き合っているのを稀子ちゃん知られると、近所に言い触らされる事を恐れたのだろう…」

「お互いが話し合って、内緒にしたは良いが、このような結果に成ってしまった」


 山本さんは遠くを見つめながら話す……

 見掛けは確かに怖い人だが、心は意外に純粋な人かも知れない。

 しかし……初対面でこの人に会ったらまず、大半の人が逃げ出すと思うが……


 鈴音さんからの電話で、少しだが事態が動き出した。

 恐らくこの話し合いの鍵は、鈴音さんが全てを握っていると言っても過言では無いだろう……。山本さんも稀子も鈴音さんには弱いからだ。


 俺と山本さんは、稀子と鈴音さんの通話を静かに眺めて居た。

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