第17話 負けて学ぶなんてじゃ遅い! それ、もう死んでいるから!!

 勝てない戦に手を出した俺。

 相手を怒らせ掛けているこの状態で真面まともな交渉等、不可能に決まっている。

 しかし、それでもやり遂げなければ……

 今まで漫画で得た知識や、ネットで得た知識でこの戦を勝ち抜く!?


「君は……黙っていてくれたまえ!」

「この話は、僕と稀子の話しだ…」


「いえ。黙っていては、いられません…」


「あぁ!!」

「お前……僕とやるつもりか?」

「……僕は構わんが、手加減はしないし、軽い怪我では済ませんぞ!!」


 声を荒げて、脅迫する山本さん……。仮に胸倉むなぐらを掴んできたら、警察沙汰にしてやろうと思いついたが、俺を睨み付けながら声を上げるだけだった……。

 さっきの言葉を録音していれば、勝ち戦に成ったのだが、其処までは考えてなかった。


 一昔前なら暴力事件を起こしても、身内の事件として殆ど事件化にしなかった警察だが、近年では身内の事件でも、刑事事件として扱うように成った。

 良い事何だろうけど、少々微妙な件でも事件化にしてしまうから、その辺のさじ加減が難しい……。手を出してこない所を見ると、相手もそれを知っているようだ。


「君に……人の家庭の何が判る!!」


「……俺は稀子ちゃんから、何故、この町に来たのかの事情を聞きました…」


「それが、何だって言うんだ!」


「……稀子ちゃん」

「もう、山本さんに事の顛末てんまつ話しても良い?」


 稀子のプライバシーに関する事だから、稀子に了解を求める。


「比叡君……。私から言うよ。私がけじめを付けなくちゃね…」


 萎縮していた稀子だが、おのれでけじめを付けるべきの考えに変えたのだろう。

 キリッとした顔つきに変わり、稀子は山本さんに体の向きを変えて話し出す。


「山本さん……いえ、孝明たかあきさん」

「あなたは……何故、私を拘束しようとするのですか?」


「急にどうした……。稀子ちゃん…?」


 稀子が急に問いかけるから、それに動揺する山本さん。 


「私は見てしまいました…」

「孝明さんが鈴ちゃんに告白をした場面を…」


「あちゃ~~」

「見られちゃったか…」

「稀子ちゃんが居ないすきを突いたのだがな~~」


「店の裏口で外も寒いのに、2人で何をしているのかなと、軽い気持ちで私は見ていたけど……女の勘って奴かな?」

「こっそり覗いて、冷やかしたろ~と思っていたら、まさかのまさかで!!」

「鈴ちゃんも、孝明さんの告白を受け入れたみたいで、私はショックでした……」


「……」


「私も孝明さんの事が好きだったのです…」

「私も平静へいせいよそおうとしたんですが、鈴ちゃんが孝明さんに告白されてからは、あからさまに孝明さんに接したり、服装とかにもこだわり始めたから、私の中で何かが切れちゃって…」


「あ~~」

「そうだったんか…。それは、悪い事をした。すまん……」


「いえ、大丈夫です…」

「私は元々、居候いそうろうの身分です」

「孝明さんと鈴ちゃんは親戚関係ですが、私は赤の他人です」

「勝手に家を出てしまったのは、申し訳ありませんが、そこまで束縛される必要性も無いはずです!」


「はぁ~~」


 ここでまた、山本さんは深いため息をつく……


「そうか、2人の子から好かれていたのか…」

「稀子ちゃんは接しやすい子だから、好かれて居るのには気付いていたが、恋愛感情までに発展していたとは気付かなかった…」


「鈴音は稀子ちゃんと比べて控えめな子だけど、俺は鈴音に好意を持ってしまった」

「親戚関係だけど、婚姻こんいんには影響しない位離れているからね」


「う~ん」


 山本さんは、あごを手の平で擦っている。

 頭の中で解析をしている見たいだ。

 解析は完了したらしく、ゆっくりとした口調で稀子に話し掛ける。


「稀子ちゃんはどうしたい?」

「比叡君って言う子の家にずっと、お邪魔し続けるのか?」

「今は学園に通わなくても良いけど、この先どうする?」

「その辺をきちんと考えている?」


 山本さんは稀子を追い詰めるように話すが、稀子も反論をする。


「私は、2人の中を邪魔するつもりは有りません」

「学園に通うためにも、山本さんの家に戻るつもりです!」

「だけど…、私の心の中ではまだ、帰りたいとは思えません!」

「せめて1週間言え、3日程で良いから、お友達の家に泊りたいのです」

「孝明さん! 私の我が儘許わがままを許してください!!」


 そう言って、頭を下げる稀子。

 良くこんな人好きに成ったな……この子。


「う~ん」

「……僕が、稀子ちゃんを異性としては見なかったのは、君がまだ、子ども過ぎるからだよ!」

「来年には学園を卒業する年齢なのに、君は子ども何だよ!!」

「そう言った子が好きな人も居るらしいが、それは一部の人間だけだぞ!」


(一部の人間……それは俺の事か?)


「比叡君とやら……」


「はい…」

(俺にが来た!)


「稀子ちゃんのどの辺で、君の琴線に触れたかは知らないが、まだ学園生の子をどうするのだ!?」

「そもそも、今日は平日だけど、君は働いているのかね?」

「稀子ちゃんが、本当に君の家に住み始めたらどうするのかね?」

「見た感じ……、僕より若そうな感じがするけど、世の中そんなに甘くないぞ!!」


「……」


 山本さんは正論を俺にぶつける。全くその通りだ。

 俺の考えでは稀子のが冷めるまでは、俺の家に居て貰えば良いと考えていた。

 しかし、今の状況では、稀子がここで山本さんの命令にそむいたら、稀子は帰る家を失う可能性が非常に高い。

 稀子は実家に戻るか、本当に俺の家に住むかだ!


 俺的には嬉しいが、無職の人間が学園の子と一緒に住み出したら、当然ゲームの世界では無いのだから、近所周辺の人達は温かい目では見守ってはくれない!

 貯蓄も多少が有るが、俺の貯蓄だけで卒園までの生活を全面サポートは出来ない。


 そうなると、稀子の両親から下宿費用を頂く訳に成ってくるが、そもそも稀子の両親も、無職の男性と一緒暮らすのを容認する訳が無いに決まっている!

 まともな親なら、絶対に容認する訳は無い!


 山本さんの場合は、稀子の親友が鈴ちゃんで有って、山本さんも親と同居している。

 そして、山本さんと鈴ちゃんは親戚関係。その辺の事を加味して稀子の両親も下宿を認めたのだろう。


 事態は完全に膠着こうちゃく状態に突入してしまった。

 回天かいてんが本当に必要な状態で有った…… 

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