第15話 見えない恐怖 その2

(やだ……詰まらない人生だけど、まだ、死にたくない!!)

(もう、稀子の交渉なんて良い!)

(今すぐ、ダッシュで逃げ出したい…)


 しかし、恐怖で足がすくんで動けない…。山本さんは俺の目の前に来て、無言で俺を品定めしている……


(終わった……)

(ウシ〇マ君状態だ…)


 これから、俺はどうなるのだろう……?

 両親の事は好きでは無いが、こんな死に方をするなら、親の言う事をきちんと聞いておけば良かった!?

 しかし、山本さんは意外な行動に出る。


「やっぱり、サングラスでは見にくいな…」


 サングラスをグィと上げる。

 しかし、俺を睨み付けるように見てくる!?

 俺は思わず体を強張らせる。


「あぁ……ごめん、ごめん……ちょっと、見にくかったからさ…」

「別に変な事をする訳じゃないから、安心して!」

「この、ファッションは俺の趣味だから!」


「んっ……?」

「君……ガタガタ震えているけど大丈夫? 寒い…?」

「もし、寒ければ、僕の車の中で話をしようか?」


「いっ、いえ…大丈夫です!」


 車の中で話そうと口実を付けて、そのまま拉致るに絶対決まっている。

 誰がそんな言葉に乗るか!


 ここまで来ると、心は恐怖を通り過ぎて、犬死にでも良いから一泡吹かせてやろうの気持ちに成っていた……。向こうがぐに攻撃を仕掛けてこないので、それに安心したのか体の震えも収まっていく。


「君が比叡君だね?」


 少し低音口調だが、普通に話し掛けてくる。


「はい。初めまして、青柳比叡と言います…」


 この時はもう、体の震えは止まっていた。これなら、平常心で話が出来そうだ。


「青柳比叡君ね……さて、何処から聞こうかな…?」


 まるで、今から取り調べを行うような口調で言ってくる。それとも拷問か!?

 こうして、山本さんとの話し合い(交渉)が始まりだした……


「……君はどの様に、稀子ちゃんと知り合ったのかな…?」


 山本さんは、一応優しい口調で話しているが、どう見ても尋問と感じ取れてしまう。

 コンビニ駐車場の邪魔には成らない場所で、俺と山本さんは話をしている。

 稀子も話に加わろうとしたが、山本さんに手でさえぎられた。

 そのため稀子は、俺と山本さんの様子を見ている。1対1サシの話し合いだ!


「駅のコンコースの端で、彼女が座って居たので声を掛けました」


 俺は山本さんにそう言うが、彼は表情を一切変えない。


「何故、声を掛けたのかな…?」

「誰かに、警察や駅員に通報されるリスクは考えなかったのか?」


(声を掛けた理由が、可愛い子だったからとは、絶対言えない……)

(そんな事を言ったら、拉致監禁決定だ!?)


「彼女の途方に暮れた顔が気に成って声を掛けました」

「後、通報のリスクより、困っている人を助けるのは、人として当然では有りませんか?」


「ふむ……。まあ、そうだな…」


 山本さんは頷いて考え始める。

 何だか、採用試験で受けた面接を思い出す……。状況的に五分五分の状態だ。


「まぁ、声を掛けたのは良いとしよう。人助けだからな…」

「でも……何故、稀子ちゃんを君の家に泊めた?」

「君は男性。稀子ちゃんは女性。その辺の事を君は、考え無かったのかな…?」


「彼女が希望したからです」

「俺の家に遊び来たいと言いまして……」


「それは最初、鈴音から聞いたよ…」

「僕もてっきり、女性同士かなと思って目をつむろうとしたが……男の君が電話に出たからね!」


「稀子ちゃんからも聞いたら同じ事を言われたよ。友達の家に泊まるとね…」

「男友達を友達とは、僕の世界では言えないのだけど、どうだろうかね比叡君…?」


 山本さんは口調では穏やかが、怒りを隠せない口調が所々に混じっていた。


(滅茶苦茶、脅し掛けてくるなこの人…)

(まさかの本物!?)


「山本さんの世界ではそうかも知れませんが、友達に異性は関係無いと感じます」

「今の時代は、正にそうでは有りませんか?」


「ちっ…!」


 山本さんは舌打ちをして、顔をしかめる……よし、勝った!

 しかし、直ぐに気を取り直して尋問(質問)が続く。

 俺はこの尋問が何時まで続くのかと思いながら、山本さんとの話し合いは続いた……

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