第13話 朝食とお互いの履歴 その3

「じゃあ、質問を変えるね!」

「比叡君、今は働いていないと聞いたけど、前はどこで働いていたの?」


 稀子は人のプライバシーに、平気で土足で上がり込んでくる。

 この子にどれだけの親友が居るかは知らないが、りんちゃん以外に親友は居るのだろうか?


 しかし、稀子と鈴ちゃんの電話での会話は、親友全員に電話したと鈴ちゃんが言っていたから、親友は何人か居るのだろう?

 逆に裏表がなそうな子だから、それが良いと言う人も居るのかも知れない。


「……前は、学童保育で指導員のパートをしていた」


「えっ、比叡君!」

「保育士さんだったの!? 意外だよ!!」


 稀子はびっくりしながら言う。

 普通はそうだな。俺が何処かの工場で働いていたと、稀子は思っていたはずだ。


「小さい子とか好きなの……?」

「おむつの交換とか大変だよね!!」


「あっ、俺の場合は児童(小学生)を対象とした所だから」


「児童…?」

「それって、放課後教室の事?」

「それなら、知っているけど…」


「まぁ、そんな感じ…」

「学童保育と放課後教室では行政管理が違うから、別組織扱いに成っているけど基本は一緒」

「放課後教室と比べて、利用時間も長く、土曜日も開所して居る所も有るから、学童保育の方が便利だけど、その分、学童保育料が掛かるから、その点が難点」


「比叡君が勉強を教えたり、工作作りのお手伝いをしていたの?」


「俺の場合は学童保育だから、おやつを用意したり、勉強を教えたり、子ども達と外で遊んだり、もちろん掃除とかの雑用は有ったよ」

「概念は共働きの両親の子どもを一時預かりして、子ども達見守るのが仕事…」


「ああ!」

「学童保育だとおやつが出るんだ!」

 

 稀子は、うらやましそうに言う。

 しかし、俺がさっき説明した内容は、理解出来たのだろうか…?


「おやつは確かに出るけど、それは親がおやつ代を学童保育料として払っているからね」


「あっ、そう言う事……。世の中タダじゃ無いんだね」

「それで、何で辞めちゃったの?」


「……クビにされたんだ」


「えっ、そうなの!?」

「なんで!!」


「こっちが『なんで!!』と言いたい気分…」

「上司の言い分では、新しい子を入れたいが理由だけど、上司に刃向かった事が1回有るから、恐らくそれが原因…」


「上司と喧嘩してクビか……世の中怖いね」


 した表情で話す稀子。


「それで、今は働いてないと…」

「比叡君は他の学童に働きに行くの?」


「……実は、学童保育関連は無資格では働けないんだ」

「実際、無資格でも働けるけど、それはパート社員やアルバイトが中心で、正規職員(正社員)に成るにはどうしても資格が必要に成ってくる」


「それって、どんな資格なの?」


「正規職員で働くには、放課後児童指導員って言う、資格を持っていると強いのだけど、それを取得するには保育士資格、社会福祉士資格、教員の免許等が有れば、簡単な研修で、放課後児童指導員が取得出来る」


「別に無資格でも学園卒(高卒)で有って、2年間学童保育施設で健全に務めていれば、放課後児童指導員の研修受講資格は発生するけど、正直言って現実的では無い…」


 学童保育に必要な資格説明をしているが、稀子はそれに付いて行けてない感じだ。


「あ~~、私、そう言う難しい話ダメ!!」

「もっと、簡単に言って欲しい……」


 そりゃあ、そうなるわな。俺でも良く覚えていたなと思う程だ。


「まぁ……保育士資格を取得すればまた、道が開ける訳!」


 俺がそれを言うと、稀子は直ぐに話し出す。


「うん。それを取れば良いじゃん。比叡君!」

「比叡君、本当に優しそうだし向いていると思うよ!」

「子ども好きなんでしょ! 良い意味で!!」


 稀子は和やかに言う。


「でも……今から、学校に行くのもお金が掛かるし、そもそもお金が無いし」


 それを言うと稀子は真面目な顔をして、俺を見つめてくる。


「比叡君……」

「比叡君は人生どうしたいの?」


「えっ!?」


 唐突の稀子の質問で、俺は反応に困る。


「前の学童……、クビになったのは可哀想だけど、そのまま諦めて良い訳?」


「諦めたくは無いけど……保育の世界全般だけど、男性が長く働くには元々、不向きな世界なんだ」

「男性職員による性的悪戯いたずらも絶えないから、それによって男性は最初から居心地が悪いし、給料も良いとは言い切れない」


「確かに子どもは好きだけど、今から保育士資格の取得を目指そうと、思う気持ちが沸かない……」


「そっか~~」

「挑戦すれば良いのに……」


 稀子な何故か寂しそうな顔をする。

 その後、稀子はしばらく無言に成る。なにやら考え事をしているようだ。

 俺はその時に壁時計を見ると、12時手前を針が指していた。

 お昼ご飯もまだ食べていないし、13時には山本さんが駅に来る。


「稀子ちゃん。質問タイムは一旦中断しようか?」

「お昼ご飯もまだだし、13時には山本さんも駅に来るし」


「えっ!」

「あぁ、そうだね……。山本さんが来るもんね…」


 稀子は寂しそうな声で言って、俺の質問タイムは中断と成る。

 あの時の稀子は俺に対して、何かを言いたそうな表情をしていた。


『やっぱり、学校に行くべきだ!』と言うつもりだったのだろうか?

 確かに未練はまだ有るが、学園を卒業してから大分の時が過ぎている。今更学校に行きたいとは思わない。


 お昼ご飯は昨夜作った、常夜風鍋のスープにうどんを入れるつもりだったが、家にはうどん玉は無いし、13時には山本さんが駅に来る関係で、夕食に回す事になった。


 あの後の稀子は真面目な顔をして色々考え事をしていた様だが、山本さんに会いに行くために、家を出る時に稀子の表情を見たが、普段の稀子に戻っていた。

 ゆっくりと……、山本さんと対面する時間が近付きつつ有った。

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