第12話 朝食とお互いの履歴 その2

「俺としては、ずっと居て貰っても良いけど、流石に此所から学園まで通うのは非現実的だし……」


 稀子の町がどこに有るかは聞いて無いが、駅のホームで途方に暮れていたのだから、近場では無いのだろう?

 逆に近場なら、山本さんが絶対に迎えに来ているはずだ!

 俺がそう言うと稀子はこう言ってきた。


「比叡君が、私の町に引っ越せば解決だよ!」

「ねぇ、そうしようよ!」

「一緒に生活しよう!!」


 唐突に言ってくる稀子。本気で言っているのか!?

 引っ越しはそんな簡単には出来ない……。お金も掛かるし、行政の手続きだって必要だ。

 仮に無職の俺が、稀子の町に引っ越して、其処で仕事に就ければ話は別だが、就けなかった時はどうするのだ!?

 稀子は確かに彼女にしたいが、俺にはまだ甲斐性かいしょうが無い……


「いや、いや。それは無理だから…」


「無理なんて言葉は無いよ!」

「無理すれば出来るんだから!!」


(いや、無理なのは無理です……。どっかの会長の言葉では無いんだから)


 部屋の壁時計を見ると、午前10時を過ぎていた。

 大体の事は聞けたし、1人暮らしでも家事はしなければ成らない。


「一度、お話は中断して、朝食の後片付けしようか?」


「あっ、うん。そうだね」

「それと比叡君……私の事、根掘り葉掘り聞いたのだから、片付けが終わったら、比叡君の事ドンドン聞くよ!」

「覚悟してね~~♪」


 先ほどまで、いた稀子だが、顔をさせながら言ってくる。

 しかし、意外に悪い気はしない。

 もしかして、俺が求めていた人は、こう言った人なのかも知れない。

 朝食の後片付けは稀子にお願いして、俺は洗濯機を回そうとすると……


「比叡君」

「洗濯するの?」


 台所で洗い物をしている稀子が声を掛けてくる。


「そうだよ!」


「なら、私のも一緒に洗って~~」


 稀子は洗い物を中断して、脱衣所に当たる、洗面所の角に置いて有るビニール袋を稀子は拾い上げて、袋の中身を洗濯機の中に入れる。

 見る気は無かったが、稀子の衣類と控えめな柄をした下着類が洗濯機の中に入っていく。


「一緒に洗って良いの?」


「うん!」


 稀子が素直に答えるから、俺は何も言わずに洗濯機のスイッチを入れて洗濯機を動かす。


(どうみても、今日帰るつもりは無さそうだな…)

(上手く交渉出来るかな…?)


 俺は昼から会う、山本さんの事を考えながら、部屋の床掃除やごみを纏めたりする。

 洗濯機が洗濯を終了して、洗濯物を干そうとすると……


「比叡君!」

「洗濯は私が干すから!」


 流石に俺に下着を見られるのは恥ずかしいのだろう。

 部屋のベランダで稀子は洗濯物を干すが、物干し台が壁の側面の上部に付いているから、外から洗濯物は丸見えで有る。しかし、稀子はその辺の事は気にせずに干している。


 洗濯物も干し終わって、家事も一段落付いて、時刻は午前11時を過ぎた所で有る。

 山本さんに会うのは駅で13時の予定で有るからまだ時間は有る。

 そうすると、稀子は俺に声を掛けてくる。


「比叡君」

「比叡君の質問コーナー始めようか!」


 稀子は笑顔で言ってくる。


「比叡君の全てを教えてね♪」

「あんな事やこんな事まで!!」


 稀子は『にひひ』の顔をしながら言う。俺の人生なんて聞いても詰まらないのに。

 まあ、あえて隠すつもりは無いし、この子なら話しても良いかの気はした……


 冷蔵庫に果実飲料の缶が有ったので、それを飲み物にして、俺の質問タイムの開始で有る。


「何から聞こうかな~~」

「えっと、比叡君は学園を出た後、どこに進学したの?」


(まずは、学歴から聞き出したか…)


「進学はしてないんだ!」


「あっ、そうなんだ。…何で?」


「何でと、言われても……勉強が嫌いだったから」


「なるほど…」

「私も勉強は好きでは無いけど、鈴ちゃんが五月蠅うるさいからね!」


「稀子ちゃん、勉強は出来る方?」


「う~ん、どうだろう?」

「勉強に関しては、鈴ちゃんがスパルタ教育してくれるから、全体的な順位ではまあまあの順位かな?」


 稀子は勉強が得意では無いらしいが、友達のおかげで助かっているらしい。

 ルームメイトが居るおかげと、下宿している効果は大きいのかも知れない。


 俺の親友の中には勉強が出来る人は居なかったし、勉強を教えたり、教え有ったりした事も殆ど無い……

 やはり、学校生活での親友は、人生設計の中では重要な位置づけに成るのだ。

 そんな事考えてしまう俺がそこに居た……

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