第11話 朝食とお互いの履歴 その1

 俺と稀子は本当に何も、事も起こさずに朝を迎える。

 俺は良い匂いで目を覚ますと、俺の隣で寝ていたはずの稀子が居ない。

 匂いから察して、稀子は朝食を作っているようだ。目覚まし時計を見ると午前8時半を過ぎていた。

 部屋の間取り上、ベッドの位置から台所の様子はうかがえない……。俺はベッドから起き上がり、台所の部分に成っている場所に向かう。


「稀子ちゃん、おはよう!」


「比叡君もおはよう!」


「ごめんね。朝食まで作っても貰って///」


「私もごめん…。台所と冷蔵庫の中身、勝手に使っちゃって…」


「全く、平気だよ!」

「味噌汁と玉子焼きを作っているの?」


 台所のシンクには、味噌汁を作る時に出た野菜くずと玉子の殻が置いて有った。


「そう!」

「お味噌汁は、ジャガイモとタマネギのお味噌汁」

「玉子焼きは、甘~い玉子焼きだよ♪」

「あっ、後、お米も使ったよ!」


 嬉しそうに朝食のメニューを言う稀子。料理好きなのだろうか?

 炊飯器の方を見ると、炊飯器のスイッチが入っている。米もわざわざ炊いたのだろう……


「もうすぐ出来るからね♪」


 稀子はそう言う。


「うん。ありがとう!」


 俺は稀子にお礼を言って、顔を洗いに行った。


 ☆


 稀子が作った朝食の感想だが、味噌汁は普通の味噌汁だったが、玉子焼きは本当に甘かった!

 それはそれで美味しかったが、自分では絶対にしない味付けだ。

 稀子が作ってくれた朝食を食べて、一息を付くと稀子が聞いてくる。


「比叡君てっさ……今日は、お仕事休みなの?」


「えっ…?」


「いや……昼から山本さんに会ってくれる訳だから、聞くつもりは無かったのだけど気になって…」


 稀子は俺の素性を知りたいようだが、正直に言うべきか?

 少し悩んだが、今後の事も考えて稀子に素性を話す事にした。


「実は、先月末で仕事クビに成ってね……。今は求職中だよ」


 そうすると稀子は『聞いては、いけなかった!』の表情をする。


「あっ、そっか……ごめん。変な事聞いちゃったね///」


「別に謝る程の事じゃ無いよ」

「俺も、稀子ちゃんの事を知りたいけど良いかな?」


「良いけど……恥ずかしい事は答えないからね!」


 稀子は顔を『プク~』と膨らませながら、少し睨み付けて言う。


「まだ、そんな事は聞かないよ…」


「いずれは聞くんだ!!」


 稀子は素っ頓狂すっとんきょうな声を上げるが、俺は稀子に質問をする。


「稀子ちゃんは……学園生で良いんだよね…」


「うん。学園生だよ!」

「子どもじゃ無いよ!」


「その辺を聞いてなかったから、迂闊うかつだった!?」


 もし、稀子が中学生とかだったら、社会的リスクが絶望的に大きすぎる!!

 稀子が通報しなくても、近所の人間に通報されたら人生強制終了だ!!」


「そうか、良かった、良かった…」


 普通の男女関係状態なら、山本さんも強くは出られないはずだ。


「稀子ちゃん」

「今日は学園(学校)には、行かなくても良いの。平日だけど?」


「学園?」

「あぁ、それね!」

「私は、今年の分の単位はもう取ったから平気!」

「しばらくは、学園に行かなくても平気だよ!」


「そうなんだ。稀子の学園はそんなシステムなんだ」


 稀子が通っている学園は単位制の学園らしい。

 最近、単位制の学校が増えている見たいだ。これも時代の流れか……


「今までは、りんちゃんと言う子と一緒に住んでいたのだよね?」


「鈴ちゃんと一緒に住んでいるけど、山本さんとも一緒に住んでいるの、―――」


「えっ、学園生の女の子2人が、山本さんと住んでいるの!?」


「比叡君……。早とちりしすぎ」


 ジト目で俺を見る稀子。


「あっ、ごめん。山本さんの名前が出てきたのでつい…」


「山本さんの家、お店屋さんしているの!」

「山本さんは、お母さんと山本さんの2人暮らしだけど、私と鈴ちゃんの学園に行くための下宿先でも有るの!」


「あの時は分りやすく、シェアハウスと言ったけど、本当は山本さんの家に、私と鈴ちゃんがお邪魔しているの」

「山本さんは鈴ちゃんの遠い親戚だけど、山本さんのお母さんが、快く鈴ちゃんと私を受け入れてくれたの!!」


「なるほどね!」

「学園に行くために、山本さんの家を下宿先に使っている」

「そうすると、稀子ちゃんの実家は遠いの?」


「私の実家?」

「遠くないよ!」

「山本さんの家から山を1つ越えれば有るよ!」

「実家から通えない事は無いけど不便すぎてね……」


 稀子は苦笑いをしながら言う。

 大体話が分ってきたが、鈴ちゃんって言う子も、稀子と一緒に下宿するのだから、仲が良いのだろうか?


「ついでだから聞いちゃうけど、鈴ちゃんとは親友なんだよね?」


 その質問をすると、稀子は今まで笑顔で話していたが、顔が急に曇り出す……


「今までは親友だった……」

「でも、もう……今は、親友では無いかも?」


 好きだった人を取られてしまった!? 

 からの気持ちも十分解るが、昨日の鈴ちゃんの電話口調からして、鈴ちゃんは稀子を親友として見ている。

 そうで無ければ、相手の心配なんかしない!


「でっ、でも、親友だから、一緒に下宿しているのだよね!」


「それは、まあ……そうだけど」

「でも、下宿を誘って来たのは鈴ちゃんだから…」


「親友だから、同じ学園に行ったのだよね?」


「親友と言うか、私の地域では学園の数も限られているし、実家からの通学圏内だと、今通っている学園が圏内ギリギリだった」


「いっそ、上京しちゃえば良かったのだけど、その勇気が私には無かった…」

「学園の試験に合格して『通うのは、大変だなと…』感じた時に、鈴ちゃんが声を掛けてくれたの」


「鈴ちゃんが稀子ちゃんの事を友達だと思っているから、声を掛けてくれたんだよね?」


「それは、そうだけど…」


 稀子はバツが悪そうに答える。


「好きな人を取られて悔しいのは分るけど、鈴ちゃんは稀子ちゃんの事を友達だと思っているよ」


「……そうだよね」

「お互いの意見がぶつかる時も有ったけど、鈴ちゃんは私を見放さかった…」

「でも…、山本さんの家には戻りたくないし、出来れば鈴ちゃんの顔もしばらくは見たくない……あっ、後、実家にも戻らないからね!!」


 稀子は子どもが拗ねた時の口調で言う。本当に大きい子どもだ。

 これが彼女本来の姿なのか、大人に成り切れていない子なのかは分らない……

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