第10話 チャンス到来!?

(しかし、俺も男だ……)

(今ここで、彼女を抱かなければ、今後こう言った機会は無いかも知れない…)


 俺は思い切って、稀子の肩にそっと手を掛ける。


『ビクッッ~~!!』


 しかし、稀子は思いっきり体を震わせる。

 そのまま、稀子の体の向きを俺の方に変えてみようとこころみるが……、稀子の体が小刻みに震えているのに気付いたため、俺はびっくりして、折角肩に掛けた手を離してしまう。

 そして、何故か謝る俺。


「あっ、ごめん…」


「……」


 しかし、稀子からの返事は無い。

 お互い無言でソファーに座り続ける俺と稀子。

 1~2分間の無言が続いた後、稀子がゆっくりと喋り出す。


「あはは……私、駄目だね……」

「一度覚悟は決めたんだけど、いざと成るとやっぱり怖い…」


「……」


 この時、俺が掛ける理想の言葉は何だろうか?


(優しい言葉?)

(脅し掛ける言葉?)

(今から、スマートフォンで調べる!?)


 頭の中で考えるが、言葉には出てこない……


「ねぇ、比叡君…」


「えっと……なに…?」


「比叡君は私を可愛いと、思っていてくれてるのだよね…」


「うん…」

「今まで見た、女の子の中で一番可愛い…」


「あっ、そうなんだ!」

「ありがと…」


「いえ…」


「そんな可愛い子の……お願いを1つ聞いてくれないかな?」


 稀子はすがるような口調で喋り出す。


「比叡君…。私と一緒に山本さんに会って!」

「私はまだ、あの家に帰れる心の準備が出来ていないし、比叡君もこのまま私とお別れは嫌でしょ…」


「山本さん……見掛けは、怖い人に見えるかも知れないけど、実は優しい人なんだよ!」

「正義感が強くて、義理と人情を思いやる人だよ…」


『それ、ヤ〇ザの世界だから!』と突っ込みを入れたいが、今はそんな場面では無い。

 電話の声から感じて、最初は気さくっぽい雰囲気が有ったが『んっ、君は誰…? 稀子ちゃん居ないの?』の時点で、あからさまに声のトーンが変わった。

 低音を効かせた話し方に変わったのだ。不信感が出まくりの話し方だった!!


「きっと……明日、私だけで山本さんに会うともう、比叡君とは二度と会わせてくれないと思う……。私もそんなのヤダ!」

「偶然でも、初めて男の人のお友達が出来たのだから!」


(駆け出しのシナリオライターが書いた、同人ゲームのシナリオか!!)


 そんな事を思ってしまうほど、その言葉を言う稀子……

 きっと、ゲームなら選択肢が出てきて『山本に会う』Or『会わない』の選択肢が絶対に出てくるはずだ!


『会わない』を選択したら全く見所も無く、数分で終わって、一気にBADENDのエピローグに成るに決まっている。

 俺の人生は同人ゲームでは無い! 

 間違った選択をしてもロードは出来ないのだ。そうなると、選択肢は1つしか無い。


「稀子ちゃん…」

「俺も君とはそんな形で終わらしたくない。どうなるかは判らないけど、会ってみるよ…」


「比叡君!!」

「嬉しいよ~~♪」


 そう言った後、稀子は急に真横に座っている俺に抱きついてくる。

 俺が体に触れた時には怖がっていた割りには、思いっきり抱きついてくる。本当に良く判らん!


 抱きつかれて嬉しい事は嬉しいのだが……、稀子が小柄な子の所為か、胸の接触も弱く、子どもに抱きつかれている気がして感激が薄い。

 これだと、前の職場を思い出してしまう……。しばらく、俺を抱いていた稀子はゆっくりと体を離す。


「じゃあ、明日の13時に、駅に山本さんが来るらしいから、よろしくね♪」


 稀子はそう言うと、今度は右手を差し出して握手を求めてくる。

 俺は素直に出された右手に右手で握手をする。


「あぁ……稀子ちゃんが、しばらく俺の所に泊まれる様に頑張って見るよ!」


「頼むよ~~比叡君///」

「男の見せ所だよ!!」


 たしかに見せ所かも知れないが、得体の知れない山本さんと会う事を決めてしまった!!

 その後は、稀子の見るテレビに付き合って、稀子との時間を楽しんだ……


 ☆


 夜もいよいよ夜更けに入ろうとしている。

 時間的にも就寝の時間だが、どうやって寝るべきか?

 今まで、漫画やネット等で得た知識から、女の子はベッド、男がソファーで寝るが定石に成っている。


 稀子位の体系の子なら、シングルベッドでも2人で寝られないことは無い。

 今日の夜も冷え込んでいるし、出来れば2人で寝たいが、焦って、折角得た機会を潰すことは無い。


「稀子ちゃん。そろそろ寝ない?」


「そうだね~~」

「寝る時間だね~~」


 稀子はと言う。

 警戒心がまるで無い……有る意味、大丈夫か!?


「じゃあ…、稀子ちゃんはベッドを使って!」

「シーツは偶然じゃ無いけど、昨日洗ったばかりで綺麗だから!」


 俺はそう言って、稀子にベッドで寝るようにうながす。

 すると、稀子は聞いてくる。


「比叡君はどうするの?」


「俺はソファーで寝るよ」

「肌掛けも有るし」


 ソファーで寝るために準備して置いた、防寒具と肌掛けを稀子に見せると……


「そんなのダメだよ!!」

「風邪引いちゃうよ!!」


「しかし、他に寝具が無いのだよ…」


「私と一緒に寝れば良いじゃない!」


「えっ、でも、稀子ちゃんは女の子だし!」

「私は気にしてないよ! りんちゃんと一緒に寝る時も有ったし!」

「比叡君、一緒に寝よ!!」


「なら、良いけど…」


 俺は稀子に圧倒されて、一緒に寝る事に成った。

 部屋の照明を常夜灯にして、2人はベッドに入り込む。内心は結構嬉しいが!!

 2人で寝られるかなと心配したが、意外に2人で寝れるみたいだ。お互い同時寝返りを打つと、ぶつかって危なそうだが……

 多少…、体の密着感は有るが、気には成らない。


 本来なら大人の時間が始まりそうだが、そう言った雰囲気では無いし、お互いが体を求めている感じは無い。

 俺はそのまま、眠りに就こうとすると稀子が話し掛けてくる。


「比叡君。今日は本当にありがとうね♪」

「比叡君が声を掛けてくれなかったら、どう成っていたのやら…」


「山本さんや鈴ちゃんにも、もっと大きな迷惑を掛けていただろうし、私の体と心も今頃……非道い事をされていたかも知れない…」

「比叡君が優しい人で本当~~に助かったよ!」

「良い人に出会えて良かった…。おやすみ比叡君!」


「…あぁ、おやすみ」


 稀子はそれだけを言うと眠りに就いた。

 偶然なのか、運命なのか、それとも何かの試練かは分らないが、俺は稀子をどうしたいのか解らなかった。


 可愛い子で有って、彼女にはしたいが子ども過ぎる面も有る。

 グラマーな大人のお姉さんが良い訳では無いが、厄介な事をしたなと感じつつ俺も眠りに就いた……

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