第7話 おもてなし その1

 夕方と言うより、ほぼ夜の道を稀子と一緒に歩く。

 この年に為るまで、学校の女子以外と接した事が無い俺は、稀子にどう話題を振るべきか迷っていた。しかし、陽気な稀子は俺に対してどんどん話題を振ってくる。


「比叡君は1人暮らし?」


「そうだよ…」


「ふ~ん。じゃあ、今日は比叡君と2人だね♪」

「あっ、でも、変な事はだからね!」


 俺の家で、1晩を2人で過ごすのに、何故か笑顔で話す彼女。

 この子は、男の家に泊まるリスクを考えた事は無いのか?


(この子は何処か変わっているな…)

(小学生の女子と話している気分)


 俺が話題を考えなくても、あちらが話題をどんどん振ってくるので、俺はただ答えるだけで住む。

 ムードは悪くないけど有る意味、兄妹の会話に近い……俺には妹は居ないけど。

 はたの目から見れば、カップルより兄妹にも見られても、不思議では無いだろうと思う自分がいた。


「比叡君は兄弟とか―――」


 稀子は話が途切れないように、ドンドン話し掛けてくる。それが別に悪い気はしないが、俺は稀子の会話より、おもてなしの事も考えなくては成らない。


(冷蔵庫の中、何が有ったかな?)


 当然1人暮らしなので、食材もそれ相応の量しか買わないしストックも無い。

 少し歩くが、夕食はファミレスにでも行くかと考えたが、お金に余裕が無いし、出来れば出費は抑えたい。

 稀子も現金は殆ど持っていないし、その状態でファミレスに行っても、満足出来る食事をするのは難しいだろうと感じた。


 稀子が積極的に振ってきてくれる話題と、おもてなしの考え事をしながら歩いて来たので、何時もより早くアパート(家)に着いた感じがした。

 築数年の木造アパート。外見は鉄筋コンクリート建てに見えるが、打ちっぱなし風の外装パネルで有る。見かけだけは高級感が有る。

 俺の部屋は2階なので、稀子と一緒に部屋に向かい、玄関の鍵を開けて部屋に入る。

 入った途端、稀子が声を上げる。


「わぁ~、比叡君の部屋素敵だね~♪」


 部屋は1Rで、少々いびつな形の部屋で有るが、風呂、トイレ、洗面所はきちんと別に成っている。

 一応、リビングに成る空間に稀子を案内する。


「まぁ、適当に座って」


「では、遠慮無しに!」


 そう言いながら2人掛けのソファーに『ズドン!』と座る稀子。本当に遠慮の欠片かけらも無い……


「ちょっと着替えてくるから…」


「うん。ねぇ、テレビ付けても良い?」


「どうぞ……ご自由に…」


「ありがとう~♪」


 テーブルに置いて有る、リモコンを取ってテレビを付ける稀子。


(本当に凄いなこの子……。他人の初めての家なのに自宅気分で居る)

(やはり、シェアハウスをすると余所余所よそよそしさが無くなるんだろうか?)


 俺の心理では理解出来ない事を平気でする。

 俺は着替える所を見られたくないので、洗面所に行きドアを閉めて着替えをする。他に着替える場所が無いからだ。

 着替え終わり、リビングに戻ると稀子はニュースを見ている。


(さて、晩ご飯でも作るか…)


 稀子と関わりたい所も有るが、晩ご飯を作る方を優先する。


(冷蔵庫の中、何が有ったかな?)


 冷蔵庫の中を確認する。


(キャベツ、白菜、じゃがいも、タマネギ、卵……後は、冷凍の豚のバラ肉。冷凍して有る蒲鉾かまぼこか…)


「う~ん、中途半端な材料だな…」


「どうしたの?」


 冷蔵庫を開き、今夜のメニューで悩んでいると、稀子がトコトコとやってくる。


「君をもてなす料理をどうしようかなと考えていてね…」


「材料無いの?」


「一応、有る事は有るんだけどね…」


「どれ、どれ、私にも見せて…」


 稀子も冷蔵庫の中を覗く。


「ふむ、ふむ」


「比叡君は沢山食べる方?」


「えっ、ご飯の事?」


「そう!」


「まぁ、普通かな?」


「そっか……」


 稀子は冷蔵庫の中身を見て、メニューを考えているようだ。


「比叡君……お鍋なんかどう?」


「鍋?」

「たしかに夕方からは寒いし鍋も良いけど、材料が足らない事無い?」


「まぁ……普通のお鍋と比べればね!」


「?」


「ねぇ、私にご飯作らせてくれない?」

一宿一飯いっしゅくいっぱんの恩義として!」


「何を作るかは知らないけど、鍋なんだよね?」


「うん、鍋だよ!」


 稀子が折角、作ってくれると言うし、晩ご飯を作って貰う事にする。

 鍋や包丁、調味料の置いて有る場所を教えて、稀子は鍋料理を作り始める。


「キャベツと白菜と豚肉と蒲鉾使うね♪」


「うん、好きに使って」


「ありがと~」

「あっ、豚肉と蒲鉾解凍するのに電子レンジも借りるね!」


「あぁ…」


 稀子は適当にキャベツや白菜を切って、解凍した豚のバラ肉、蒲鉾を一口大に切っていく……


「包丁、上手に使うね」


 監視するつもりは無いが、何か聞かれても良いようにと、泥棒にレベルアップされても困るので、目は離さない様にしている。


「うん。家では順番で料理を作っているからね♪」


「成る程」


「比叡君。土鍋って有る?」


「土鍋? 土鍋は残念ながら無い…」


「土鍋無いんだ……。なら、土鍋見たいな大きさの鍋は有る?」


「土鍋位の大きさか判らないけど、この鍋ならどう?」


 台所の上の棚から鍋を取り出す。

 カレーや豚汁を作る時に使っている鍋で有る。この鍋なら土鍋代わりに成るだろう。


「あっ、丁度良いかも。じゃあ、これ使うね!」


 稀子はその鍋に水を適当に張って、和風顆粒出汁を入れて、コンロに掛けて火を付ける。


「比叡君。もうすぐ出来るからね」


「そうなの。なら細かい準備しておく」


「うん、お願い~」


 料理は鍋だから小鉢等を準備しておく。

 稀子の箸なんて当然用意してないから、コンビニで貰う箸で代用する。俺は自分の箸を持っているが、今日は同じようにコンビニの箸で代用する。

 間もなく、稀子と初めての晩ご飯が始まる……

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