第6話 りんちゃん

 稀子を泊める事を決めた俺。

 そうと決まれば、次に何をすべきかを考えるが……


『うきうき、うきうき!』


 嬉しそうにしている稀子。やはり、俺の家に泊まる気満々だ。


「ねぇ、比叡君。この後はどうするの?」


『どうするの?』こっちが聞きたいや!


「えっと…」


 こう言う場合は、どう言った風に行動すれば良いのだろう?


(泊まりたいと言っているから、このまま家に行くか!)

(いや……でも、それでは下心丸出しで警戒されるか!?)

(しかし、この状態でデート見たいな行動は出来ないし…)


 色々、1人で考えていると、稀子はいきなり耳元で声を出す。


「こらぁ!!」


「うぉ!」


「何1人で考えているの? 私の聞いた事も答えないで!」


 稀子は少しご立腹だ。


「いや、この後どうしようかと…」


「えっ、比叡君の家に行くんじゃ無いの?」


 稀子はとした顔で聞いてくる。


「まぁ、そうだけど…」


「なら、早く行こうよ! ここに居てもどうしようも無いし!」


『ぴょん、ぴょん』と、ウサギが跳ねてそうな勢いで言う稀子。


(稀子が来たいと言っているんだ。いきなり連れ込んじゃえ!)

(しかし、何か忘れている気がする…)


「じゃ、じゃあ行こうか……あっ!」


「んっ、どうしたの?」


 俺が行動に移そうとした時に思い出す。


(まだ、稀子の親友(りんちゃん)に連絡入れていない!)

「稀子ちゃん。家行く前に、鈴ちゃんに連絡だけ入れておこうか?」


「え~~、そんなの比叡君の家に着いてからでも良いよ!」


 駄々をこね出す稀子。


(そんなに連絡を入れたく無いのかな?)

(しかし、こちらも予防線だけは張って置かないと)

「一応、連絡だけは入れよう。今日、友達の家に泊まるだけでも…」


 嘘は付いてない! 今日初めて会ったばかりだがもう友達だ!! 

きっと稀子もそう思っているだろう。


「ん~~、分かった…」


 渋々、そう言う稀子。

 コートのポケットからスマートフォンを取り出し、恐らく鈴ちゃんで有ろう人に電話を掛けようとする。


「……」

「……バッテリー切れてるね…」


 画面が真っ暗なスマートフォンを稀子は俺に見せる。


「電話、掛けられないね~~、ざんねん、ざんねん♪」


 稀子は嬉しそうに言うが、そうはさせない。


「稀子ちゃん、俺のスマートフォン使って!」


 俺のスマートフォンを稀子に手渡す。


「え~、ダメだよ。それ比叡君のだし」

「むやみに個人情報が入った機器を渡しちゃダメなんだよ!」


 稀子は両手で俺のスマートフォンを押し返しながら言う。生憎あいにく俺のスマートフォンには個人情報なんて入っていない。入っているのは、実家の電話番号とクビにされた仕事先位だ。


「大丈夫、大丈夫。全然、個人情報入って無いから…」


「あっ、比叡君。友達居ないんだ…」


 ジト目の表情で稀子は言ってくる。


「そっ、そんな事より、俺のスマートフォン使って。そんな訳だから」


「でも、やっぱり悪いよ。電話代も無料タダじゃ無いし」


「そこも大丈夫! 定額通話に入っているから、有る程度の時間までなら無料!!」


「友達も居ないのに、電話だけは定額なんだ…」


 稀子はジト目から、呆れ顔に成って言われる。たしかに言われればそうだが……


「と言う訳だから、使って、使って!」


 俺のスマートフォンを、稀子に再び押し付けるように渡す。


「あう~~。じゃあ、少し借りるね…」


 やっと、稀子は俺のスマートフォンを借りてくれた。

 そして、俺のスマートフォンで鈴ちゃんに電話を掛ける。しばらく経った頃、相手が出たのだろう稀子が話し出す。


「あっ、鈴ちゃん…。稀子だけど―――」


 稀子がその様に言った瞬間。こちら側にも聞えてくる位の声が響いてくる。


「もう、心配しましたよ!」

「こちらから掛けても『電源や電波が―――』で繋がらないし、稀子さんの親友に連絡しても『こっちには来て無い…』と言われるし、今、どこに居るんですか!?」


「あはは……ごめん鈴ちゃん」


「後少し連絡が無ければ、山本さんと探しに行く所でしたよ!」


「うっ…」


 山本さんの言葉で『ビクン』と体が跳ねる稀子。そして、顔が赤くなっている。


(山本さんが、稀子ちゃんの好きな人か……)


「もうすぐ、晩ご飯が出来ますから、早く帰って来て下さい!」


「あっ、鈴ちゃん。その事なんだけど……」


「はい?」


「今日、私。晩ご飯いらないや!」


「えっ、どうしたんですか?」

「まさか、何処かで体調でも崩して―――」


「いや、体調は崩していないよ。今日も、ご飯食べられるよ!」


「なら、なぜ?」


 電話向こうの鈴ちゃんの姿は分からないが、声の感じからして、かなり動揺している感じだ。


「うん……。実は今、友達と一緒に居るんだ」

「だから、晩ご飯は友達と一緒に食べるし、今日は友達の家で泊まる」

「あっ、それと……しばらくは、友達の家に泊まるから帰らない…」


「ちょ、ちょっと、稀子さん! 何言っているのですか!?」


 電話向こうの言葉口調から、鈴ちゃんがかなり慌てて居る様子が感じが取れる。


「私が知っている、稀子さんの親友には全員連絡入れましたよ!」


「うん。だから、鈴ちゃんの知らない友達」


「えっ、ええ~、どう言う事ですの??」


「だ~か~ら、新しい友達だよ!」

「今日と言うか、しばらくはその友達と遊んで、その子の家に泊まるから帰らない!」


「!!」


 聞いているこっちがハラハラする電話内容だ。

 いつの間にか、泊まるのが今日だけでは無く数日に成っているし。


「それって、危なくないんですか? 稀子さん!!」


「もう、鈴ちゃんは心配性なんだよ! 私が大丈夫だと思ったから大丈夫なの!!」


「でも、やっぱり……考え直して下さい稀子さん! こんな時間から―――」


『ピクッ』


『ピッ!』


 稀子の顔が一瞬、怒り顔に成ったと思ったら、通話は終了いや強制終了していた。

稀子は和やかな顔で俺に振り向く。


「はい、比叡君スマートフォンありがと!」

「……えへへ。今日だけじゃ無くて、しばらくご厄介になるね!」


 申し訳なさそうな表情はしているが、稀子の顔はにやついていた。


「はぁ~」


 俺はため息しか出なかった。

 泊めて上げると言った以上、稀子を泊めるしか無い。

 それも数日……。グチグチ思っても仕方無い。


「まぁ、一応伝えたし良いよね!」


「うん…」


 俺は頷くしか無かった。


「なら、そろそろ連れてってよ! 比叡君のおうちへ!!」


「じゃあ、行こうか…」


「うん。比叡君の家、どんな家なんだろ。楽しみ!」


 内心は嬉しいはずなのに、心は浮き浮きしてこない。

 それは自分が納得した答えでは無いからだ!

 心がモヤモヤしたまま、稀子と一緒に自分の家に向かうのだった。

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