第2話 電車旅

 家(アパート)から出た俺は行くあて先も無く、適当に道を歩き出す。

 平凡な住宅街を無意味にてくてく歩く。


(風も弱く、暖かい日だな)

(冬らしくない日だ…)


 世間では、3連休の最終日で普段なら平日で有る。

 休日だけど、すれ違う人は殆どおらず自由気ままに歩く。

 外に出たのは良いけど、何も目的を作らずに出て来てしまった。


(こんな良い日に、散歩だけって言うのも、勿体もったいないよな…)


 俺は気分的に駅の方に向かう事にした。駅に行けば何かに出会えるかもと感じたからだ。

 15分位歩くと駅に着く。お昼前の駅……人通りはさほど多くない。


(いつ来ても、何もない駅だな)

(よく、これで町が存在出来るな…)


 10年位前は、駅の1階部分にスーパーやレンタルショップが入っていた時期が有ったけど、今は全て撤退してコンビニが1軒有るぐらいだ。


(時間も有るし、久しぶりに電車でも乗ってみるか)


 そう考え改札の方に向かう。


(電車賃はICカードを使うとして、どこに行くべきか?)


 切符売り場の上に有る、路線図と運賃表を見上げる。


(う~ん。遠くになると運賃は当然高いな……)

(まあ、良いか。取りあえず電車に乗って、行ける所まで行ってみよう!)


 1人だから出来るノープランの行程。ICカードを改札機にタッチして、2階に有るホームに階段で上がる。

 ホームに上がり数分待っていると電車がやって来た。

行き先を見ると知らない方角だが『まぁ、良いや』の気持ちで乗ってしまう。


 乗り込んだ電車は俗に言う通勤電車で、座席は全てロングシートである。

 新幹線や特急電車みたいな2人がけの座席だったら、旅行気分を味わえるが、ロングシートだと味わいにくい。


(運がないのかな…)


 景色を楽しもうとしても、前に人が座っているので、景色を満足に見られないし、首を横にしても見にくいし首が疲れるだけだ。

 仕方が無いので、目を瞑りながら電車に揺れる。


 ……


(それにしても暇だな…)


 俺は改めて、周りの景色を見回す。

 左隣の人はスマホゲームに夢中になっている。いい大人が子ども見たいに夢中になっている。それで良いのか!?


 前の席は親子連れだが静かに座っている。しっかりした親子である。模範的だ!

 右隣の人は……化粧をしている。恥ずかしくないのかな?

 人間ウォッチングもあまり出来ないので、車内のつり広告を眺めるが、物の数分で飽きた。


(電車って、こんな暇なものだっけ…)

(子どもの時は、電車に乗れるだけで喜んだのに、つまらない大人に成ったな…)


 あいにく本は持って無いし、スマートフォンには音楽が入ってないので、適当に目を瞑り、時々、景色を見て時間を潰して行く……


 都市に近づくに連れて、車内も人が多くはなって来るが、大きな都市の駅に着くと、乗客が一気に降りて減る。

 そして、また人が多くなって減る……それを何回か繰り返す……。段々、車内の景色も、都市部の景色から田舎風景の景色が多く成って来た。


『本日も、太鉄たてつをご利用いただき、有り難う御座います』

『次は大石十色おおいしといろ。終点~、終点です~~』


 車内スピーカーから、次駅が終点を告げるアナウンスがされる。


(終点か……。だいぶ来たな)


 電車に乗ってから1時間余り、終着点の駅に着く。

俺は電車から降りて、改札を抜けて外に出る。


(あちゃ~、やっちまったな…)


 電車の終着点の駅だけど、物の見事に田舎の駅で有って何も無い!

 コンビニも付近には無さそうだし、無駄に広いロータリーと寂れた喫茶店が有る位だ。


(昼食を現地で食べようと思ったけど、これは無理だな……あそこの喫茶店は入りにくそうだし…)


 何も無い駅周辺。観光所では無い!

 バス停が有るので、バスに乗るべきかと考えるが……

 バスは何系統か出ているが、団地方面に向かうか、来た方向を戻る形になる路線しか無い。


(あっ、帰りの電車の時刻を確認しなくては…)


 田舎の駅だ。電車の本数だって限られてくる。俺は出た駅舎を戻り時刻表を見る。


(30分に1本か……。まあ、有るだけマシか…)


 帰りの電車の時刻も分かったので再び駅舎を出る。

 駅舎を出ると、観光案内の看板が目に付いたのでそれを見に行く。

 看板を見て、近くの観光場所を探して見る。


(…歩いて、直ぐに海に出られるのか)

(何も見ずに、このままUターンでは、電車賃が勿体ないから海でも見ていくか)


 俺はそう考え、海の方角に歩いて行った。

 10分位歩くと、海に出られた事は出られたが……


(うん。海と言うより河口だな!)


 空は綺麗な青空で、水面は太陽が反射して、キラキラ光っていて綺麗だが、面白みや珍しさが無い……普通の景色だ。

 砂浜も全く無くて、防潮堤が沿岸部をグルリと囲んでいる。

 おまけに人も全く居ない……。景色は最高だが、気持ちは晴れない。

 この地域での風は以外に強くて、のんびりと景色を眺めるのは難しいだろう。


(時間とお金を無駄にしたな……無職なのに)


 天気は晴天だが風が強く、冷たい風がパーカーを突き抜けて肌に刺さる。


(気分転換どころか、ドツボにはまった気分だ!)


『幸せを掴みに行ったら掴み損ねた!』

 自分の中ではそう言っても過言では無いだろう。


 事前に下調べをしていたら、行く場所を変更して、新しい幸せを掴んで居たかも知れない。

 後の祭りだ……。今から場所を変えても良いが、そうなると一度大きな町まで戻らなければ成らない。


(やっぱり、行き当たりばったりのでは駄目だな…)

(幸せを掴みたければ、下調べや段取りが必要なのかも知れないな)


 来た事には後悔していないが、何とも言えない気持ちで有る。

 時々、強風に近い風が強く吹く中、俺はしばらく無言で海を眺めた。

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