第九話 接近
「ぜぇ…ぜぇ…」
どれくらい経っただろうか。
あの後俺は決死隊と共に出発し、野営があるという森付近へとやってきた。
こっちの世界の道は舗装が甘い。
コンクリートで固められた平面な道が恋しくなるぜ、まったく。
朝方に出発したのに、もう日が暮れようとしている所だった。
道が荒れているのもそうだが、剣や鎧を着込んで移動したので、大した距離ではないのに相当な時間を要した。
「少し待て!斥候と合流する!」
王子は後ろを追従する決死隊に呼びかけた。
その辺の石に腰掛け、到着を待つとするか。
…装備の確認をしておこう、先程王子から支給された剣と、簡素な作りの胸当てと篭手、後は蒼い光を放つ謎のペンダント。
このペンダントはGPS的なものらしく、親機と子機が存在する。
王子が持っている赤い光を放つペンダント(親機)に、子機の位置が映るらしい。
原理はわからん。
ファンタジーの世界は何でもありだな…。
俺は当たり前だが剣なんて使えない。
試しにさっき振ってみたが、とてもじゃないが敵を倒せる様な剣筋ではなかった。
そもそも人を殺したくはない。
それがが民衆を捕まえて慰みものにする外道集団であろうと、厳しいものがある。
が、これはエゴでしかない。
ここは剣と魔法の世界で、外には平気で人の指を切り落とせる人間がゴロゴロいる危険な世界だ。
いざとなったら、その時は覚悟を決めるしかない。
元の世界に帰るまでに、いやそもそも帰れるかどうかもわからないが…それでもいつかは覚悟を決めなきゃいけない時がやってくるかもしれない。
「ふむ、中々集まりましたね。流石アルス殿」
いつの間にか目の前に女性が立っていた。
音も気配も何一つなく、本当にいつの間にかである。
「おお、ジュスティ!無事で良かった」
ジュスティと呼ばれた女は、褐色の肌に絹の様な白い髪、アラブ人の様なゆったりとした服の上から最低限の鎧を身につけ、頭には白い頭巾を被っており、いかにも女戦士、といった風貌であった。
彼女は地べたに直で座って、王子に色々な事を報告していた。
彼女が例の斥候だろう。
「して、見つかったか?」
王子がジュスティに問いかけた。
「はい、良さげな経路を確保しておきました。奴らはフラトラ村付近の川に野営を設置しております故、多少の物音であれば気付かれないでしょう」
横から聞いていたが、彼らの作戦はこうだった。
野営は川と森に挟まれた形になっている様で、川を渡り、兵が寝静まった所を奇襲する隊。
その隙に捕虜を助け出し、戦闘区域から無事に脱出する隊。
森側の見張り兼野営の注意を引く隊。
この三部隊にわけて作戦を実行するらしい。
俺は第二部隊、救出隊に配属された。
「では、次の夜更けを待とう」
王子が言う。
いつのまにか辺りはすっかり朝日が照っていた。
「隠蔽魔術が記されたスクロールを数枚都から持ってきている。ここで野営をしても問題ないだろう」
すぐ隣にいたマリアーノが、背中に背負った大きな鞄から円柱状に巻かれた羊皮紙?のような物を取り出し、開く。
そこには複雑怪奇な紋章や図形、理解出来ない文字等が大量に羅列されていた。
これが魔術式というやつだろうか。
規則性とかあるんだろうけど、サッパリわからんな。
「精霊よ、啓け」
マリアーノがスクロールに手を当て、そう呟くと紙面に描かれた式が光り輝いた。
「魔術は完成しました。敵の見張りに魔眼使いが居ない限りは、隠しとおせる事でしょう」
どうやらこれで終わりらしい。
もっと詠唱とか派手な演出があると思ったが、そんな事は無かったな。アッサリだ。
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