第八話 緑炎
あたり一面に煌めいた閃光の正体は炎だった、それもただの炎ではない。
緑色の炎だった。
緑炎の跡にはヒューゲルはいなかった。
跡形も無く消し飛ばされたのだろうか。
「ヒュ…ヒュ、ヒューゲルゥゥゥゥ!!!き、貴様ぁぁぁ…!!!」
アーダム少尉が泣き叫ぶ、この二人は友人同士だったのだろうか?
ダチの為に泣ける優しさがあるなら俺にももう少し優しくして欲しかったものだ。
「退けぃ!貴様も焼き殺すぞ!」
マリアーノが大きな声で吼える、アーダムはすっかり萎縮してしまい、すんなりと退いた。
俺の前にマリアーノが立つ、声が出ない。
お礼を言うべきなんだろうが、恐怖からか声帯が機能してくれない。
「ぁ…」
「いい、話さなくていい。東洋のお人よ、こんな時に来てしまうとは不運ですね…」
俺の頭を優しく撫でる。
何だよやめてくれよ、そんな歳じゃねぇよ、恥ずかしい。
が、なんだか安心した。
「マリアーノ!」
「アルス様!」
声の方向を向くと、そこには美少年がいた。
肩までの銀髪に蒼い目、少女と見間違う程に整った容姿
一目でわかった。この子がヒューゲルが言っていた子だ。
「ご無事で良かった…アルス王子…」
マリアーノが片膝をつき、頭を下げる。
彼が第七王子 アルス・チェインヴェルトだった。
「そこの者、両手を出せ」
言われた通りに出すと、王子は手を翳した。
先程も見た緑の光。回復魔術だった。
気がつくと俺の両手指は綺麗さっぱり元通りに回復していた。
その後、俺は難民キャンプの様な場所に連れられた。
住処を襲撃されたこの辺の人達を匿っている場所らしい。
あの妻子はいなかった、アルス王子ともう一人の側近が周辺にいた兵士を尋問した所、このあたりにある野営に連れ去られたという事がわかった。
支給されたパンを齧り、椅子に座る。
…どうしてこうなった?俺はなんでこんな場所でこんな目に遭っている?
帰る手立てもわからない、また指を切り落とされるかもしれない。
…次はないかもしれない。
そう考えるととても不安になった。
顔を膝に埋め、現実から目を背ける。
背けたって、何も変わらない事はわかってる。
「うぇぇぇ…ママ…」
いつの間にか眠っていたらしい。
もう少しで夜が明けそうだ。
顔を上げると、目の前で少女が泣いていた。
周囲に大人はいない。
逃げ遅れたのだろうか?彼女を慰める者は誰もいなかった。
酷く不安で、孤独なんだろう…俺にはあの子供の気持ちがわかるような気がした。
俺も独りだった。
「お嬢ちゃん」
声をかける。自分が出来る限りの「立派な大人」を演じて。
「…ひぐっ」
少女は咽び泣いており、会話もままならない。
そうだろう、いきなり親と離れ離れになって、こんな場所に連れて行かれたらそうなる。
少女の頭を優しく撫でる。しばらく硬直しこちらを不思議そうな目で見ていたが、徐々にリラックスしてくれた。
「よしよし…」
「リリ、お母さんとお父さんと一緒にいたの。そしたら急に兵隊さんがやってきて…それで…お母さんを連れて行って、お父さんを…うぅ…!」
かける言葉が見つからない。
優しく抱きしめ、頭を撫でる。
何やら入口付近が騒がしい。
見てみると、王子が高台に上がり演説をしようとしていた。
「これから野営を襲撃し、捕らえられた民を解放する。勇気と義憤に溢れた者を集う!共に来るものは前にでよ!」
王子は勇ましく呼びかける。
まだ10代前半といったところだろうに、立派な事だ。
「この国の民は皆私の家族だ!全員救い出し、再びこの国に平穏をもたらしてみせる!勇気あるものよ!前へ!」
…とりあえずは、目先の事を考えよう。
あの妻子と王子には命を救ってもらった恩がある。ならば報いなければならない。
それに、こうして避難所にいた所で脱出の糸口が掴める筈もない。出来るだけ王子に近付いて、情報を集めよう。
あの妻子だけじゃない。
この子の母親はまだ生きている。
…子供には親が必要なのだ。
「お嬢ちゃん、俺が行ってくる。必ずお母さんを連れて帰る」
「本当…?約束してくれる?」
少女は小指を差し出す。
なんだろう、失敗したらエンコでも詰められるのだろうか?
「指切りげんまん、知らない?」
知っている。
何故この世界にあるのかは知らないが、同じような文化がこちらにもあるのだろうか。
「知ってる知ってる。ウソついたらハリセンボンのーます、だろ?」
「ハリセンボンってなーに?"ウソついたらヘカトンケイル"のーます、だよっ!」
ヘカトンケイル!?
そんなもん飲みきれん…というかこの世界には存在するのか…。
「来るものは!まだいないか!?」
いつの間にかアルス王子の下に数十人の志願者が集まっていた。
急がねば。
少女との約束を取り付け、王子の下に向かう。
「い、行きます!俺行きます!」
「君は、先程の東洋人か…良いのか?ここは君の母国ではないが」
「そんな事関係ありません、命を助けて頂いたんです、恩を返します」
「わかった、ありがとう。感謝する」
王子は深々と頭を下げた。
よく見ると、彼の脚は小鹿の様に震えていた。
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