第七話 剣閃
坂崎は耳鳴りが酷く、頭が揺れてしまい何も出来ない。
「なぁんだぁ!?ナニが起こってる!」
「それを今から確認しに行くんだろ、この東洋人の仲間かもしれん、人質として連れて行く」
ヒューゲルは予想外の出来事に動揺し士官らしからぬ大慌てを見せたアーダム少尉を叱責し、憔悴しきった坂崎を人質として強引に連れ出し外へ出た。
外では見張りとして配置していた3人の下士官が地に伏せり絶命していた。その付近に、剣を持った一人の男が佇んでいる。
ヒューゲルは頬に冷や汗を垂らしつつも、ポーカーフェイスを崩さず目の前の男に問う。
「貴様、何者だ」
「貴様等こそ何をしている、自国の民に危害を加え、混乱をもたらすのが貴様等に与えられた責務か」
真っ白な長い癖っ毛を生やした男は、2人の屈強な軍人を目の前にしても全く動じず、質問を質問で返した。
「我々は反乱鎮圧の為この地域に来たのだ、混乱を終息させ、再びこの地を平和にする事が私達の役目だ」
アーダム少尉が白髪に向け叫んだ、白髪は一瞬顔を綻ばせると、先程よりも怒りに満ちた表情で言う。
「なにが平和だ!思ってもいない事を言うな!愚かな王子に与したそのまた愚かな"なまくら"共が!」
「言ってくれる!」
少尉が拳銃を発泡するも、白髪は飛んで来た弾丸を難なく剣を振るって撃ち落とす。
「なんと!?」
「下がってろアーダム少尉、お前が敵う相手ではない」
「むぅぅ…」
ヒューゲルは腰に下げた剣を抜き、構える。
──空気が変わる。
ただでさえ張り詰めていた空気がさらに緊迫し、両者の間に剣呑なオーラが立ち込めている。
「…貴様、やるな。もう一度問う、何者だ?」
ヒューゲルは構えを崩す事なく男に聞く。
「マリアーノ…"マリアーノ・セレーノ"
チェインヴェルト王国第七王子にして、未来の国王"アルス・チェインヴェルト"の忠実なる剣」
「"緑炎"…か、噂を耳にした事はある…相当な手練と聞くが、ここで討たせてもらう」
そういうとヒューゲルは自らの剣の刀身をへし折り、蒼い魔力で出来た刀身を新たに精製する。
「"メーア・ヒューゲル"少尉だ。いざ尋常に」
『勝負!』
──酷い頭痛だ。どうやら意識を失っていたらしい。
目の前ではヒューゲルと見知らぬ男がとんでもないスピードで戦っているが、目で追いきれねぇ。
なんつー速さだ…ウチの台所にいた黒いやつよりもずっと速いぞ。
剣と剣がぶつかりあった時に生ずる火花と紫閃が夜の暗がりを彩る。
両者共に達人であった為に勝負はかなり拮抗し、お互いに攻めあぐねる状況が続いていた。
もう何合目になるだろうか。それすらも覚えていない程に剣戟が続いた後、ヒューゲルが勝負に出た。
マリアーノが斬られ鮮血が飛び散る。
「ッ…!」
深手とまでは行かないが、それでも赤い血が彼の肩からポタポタと流れでていた。
「…仕込み刀か」
「正解だ。コイツは数カ月前政府直属の開発研究機関が発明したシロモノでな、魔力のコントロールで刀身の長さや硬さを自在に操作できる」
そういうと彼は刀身をムチの様にしならせて見せた。
「ただ魔力を使うので使い手が限られる。そこらの凡庸な士官では刀身を生成する事すら叶わんだろう…そして」
──ヒューゲルが踏み込む。先程よりも速く、反応すらままならない程のスピードでマリアーノに襲いかかる。
「私の魔術、"加速"と合わせる事で無敵に、なるッ!」
「…」
マリアーノは静かに掌を前方より襲い来るヒューゲルに翳す。
「灼熱よ燃え尽くせ…"ディオス・フィアンマ"」
──次の瞬間、緑の閃光が巻き起こる。
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