読めば読者が増える論文
夕日ゆうや
読者を増やすコツは……?
「おい。あの論文読んだか?」
「なんだ? あの変な論文か……」
私は鞄からその論文を取り出す。
「『絶対に読者が増える論文』。こんなの誰が信じるんだよ」
「ははは。そうでもないぞ。おれが読んでからプロの作家になれたし。……今は伏せているが永見賞、秋田川賞の受賞も決まっている」
「ホントか? ホントに読んだだけかな?」
「ああ。それで、こんなにも受けが良くなるなんてな。おれも驚きだ」
ゴクリと喉を鳴らす私。
「お前なら信頼できると思い、話しているんだ。後悔しないように読めよ」
「ああ。そんなにすごいなら、私も読んでみるよ。ありがたい」
これを読んで成功したら、私の小説仲間にも宣伝したいものだ。
「まあ、今日はこの研究で一日費やすがゆっくり読みよ」
「それじゃダメだ。論文の効果は一日で全文を読み切る必要がある。それが絶対条件だ」
「なんだ? それ……」
「おれにもよく分からないが、いくつかの条件をクリアしないと読者受けが良くならないらしい」
「ほう。それは興味深いな。研究のしがいがありそうだ」
「とにもかくにも、最初に条件があるから、そこだけでも読んでおけよ。未来の読者さん」
「分かった。そこまでしてくれるなんて、お前はいい奴だな」
「そう言ってもらえてありがたい限りだ。……なぁ。少しはあっちの話も考えてくれないか?」
「あなたと付き合う、っていう話? まあ、そこまでしてくれるなら、少し考えてみようかな?」
「おお! ありがたい! おれも頑張ったかいがあるというもの」
光太郎が手を振って帰っていくのを見届けると、私は研究に戻る。
今研究しているのは寿命の長寿化だ。ゾウリムシの接合と呼ばれる現象を参考にしている。簡単に言ってしまえば細胞が若返るのだ。
細胞の若返りができれば、等しく同じ細胞の塊である人間も若返りができるはずだ。
その論文をまとめていると、ふと思う。
《読むと読者が増える論文》を書いた人はどうして自分の中だけにとどめておかなかったのだろう。
私と同じように見聞を広め、人類の役に立つような――そんな人になりたかったのだろうか?
ぶんぶんと頭を振る。
考えても無駄だ。書いた人の気持ちは書いた本人にしか分からないのだから。
私は家に帰り、次の休日にその論文を読むことにした。
条件はみっつ。
ひとつ目は、最初から最後まで全文を読み切ること。
ふたつ目は、疑問に思ってはいけないこと。
みっつ目は、読み終えたあとすぐに文章を書くこと。
のみっつだ。
私はそのままの勢いで全文を読み切る。ページ数にしておおよそ7枚。難しい漢字や心象もあったが、なんとか読み切った。
その手で小説を書き終える。
わずか四日で書き終えたWEB小説は確実に人気がでた。編集部から書籍化の打診があるほどだ。
それを小説仲間にも、伝えた。最初は「ホントかよ?」と思っていた仲間も、それを読んで書籍化した。
その熱が冷めないまま、「ゾウリムシの接合」の論文も書き終えた。これも読者が増えるのだろうか。
私と読者と仲間たちはこれからも小説や論文を書いていく。
小説も論文も、読まれて初めてちゃんとした小説・論文になるのだろう。
私も、読者も、仲間たちも、みんなが協力しないと初めて完成したとは言えないのだろう。
だからこれからも、
私と読者と仲間たちを大切にしていこう。
~Fin~
読めば読者が増える論文 夕日ゆうや @PT03wing
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