■7//ヤクザVSゾンビヤクザ(3)
「さて、どっから訊いたもんかってところだが……」
結束バンドで腕を縛られて広間の片隅に転がされた宮代の周りを舎弟たちに囲ませながら、東郷は質問を始めた。
「まず、そうだな。手始めに――宮代くんよ。俺にあの写真送ってきたのは、てめぇだよな」
直截のその問いかけに、宮代は引きつったような笑みを浮かべる。
「誰が、答え……」
だが言い終わる前に、東郷は何の容赦もなく彼の横っ面を平手で叩く。
涙目になって何か抗弁しようとする宮代に、東郷は無表情でこう続けた。
「俺らに喧嘩売って、ついでに月無組にあの死体どもをけしかけたのはてめぇだよな。……そこまでコケにされたらよ、ヤクザってのは堪忍できねぇんだわ。なあ、金堂さん」
そう言って話を振った東郷に、金堂は一瞬きょとんとした後すぐににんまりと笑って頷く。
「そりゃあ、もちろんですわぁ。どういうからくりかは知りませんが、そこの坊主がうちに喧嘩売ってきたらしいってのは十分わかりましたからなぁ――はっきり言って、今ここにいる連中、東郷さんがそうしてなきゃすぐ坊主のことをタコ殴りにしてやりたいって思ってるんですわ」
顔こそ笑っているが、ドスが籠もったその声に震え上がる宮代。
脅しもあるだろうが、金堂の言葉は正真正銘本当だろう――周りの組員たちからも、隠しきれないほどの殺気が感じられてきた。
「そういうわけだからな、お前が何も喋る気ねえってんなら、俺はさっさとこいつらにお前を引き渡す。後はどうとでもしてくれってな」
「っひっ……分かった、喋る、喋るからッ」
ここまで来てまだ口を閉ざすほどの根性はなかったらしく、慌てた様子でそう言うと彼はそのまま喋り出す。
「そうだよ、俺だっ……。けど、やったのは俺じゃなくてっ、井境さんだ! だから俺はっ、あの女がどこにいるかも知らないっ……」
「……井境だぁ?」
まさかここでその名前が出てくるとは思わず、思わず訊ね返す東郷。
「てめぇ、井境を知っているのか。……いや、だとすりゃ井境って野郎がこの件に絡んでるのか。おい、どういうことだ」
「……こ、答えられないっ……! 井境さんのことをバラしたら、俺もあの人に殺されるかもっ……」
「だったら今すぐ、ここで死にてえか?」
ドスの効いた金堂の言葉で「ひぃっ!」と震える宮代。それでもなかなか喋りだそうとしない彼を見て、金堂は近くに立っていた組員に向かって言う。
「お前、拷問は得意だったでござんしょ。あの坊主の爪軽く剥いでみてくださいな」
「うす」
「喋るっ! 喋るからっ!」
ここ数年非合法な荒事とはほぼ無縁だった経極組とは違い、現在もばりばり真っ黒な暴力団であるところの月無組。どうやらその手のことも現在進行系でやっているらしかった。
ともあれおかげであっさりと宮代も口を割ってくれそうなので、ありがたい限りである。
「……井境さんは、俺が親父を殺した時に――うちに急にふらっと来たんだ。親父の古い知り合いだって言って」
「やっぱりお前が例の殺しもやってたのか」
気が動転していたのだろう、訊いてもいないのにその事実まで白状してしまった宮代――「まずい」とばかりに顔をしかめた彼に、東郷は問いを投げる。
「なんで、殺した」
「っ……金、だよ。仮想通貨で有り金全部溶かして……親父が大切にしてたあの刀をどっかで売ればいい金になるんじゃないかと思って。そうしたら親父に見つかって――」
「で、殺したと。……本当にしょうもねえクズだな、おい。俺たちといい勝負じゃねえか」
東郷の煽りに顔を引きつらせながらも、これまでの脅しが十分に効いていたらしく何も言い返してはこない。
すっかり大人しくなったところで、東郷は両手をぱん、と打ち合わせながら促す。
「で? お前が神主を殺して、そこに井境が現れて……井境ってのは、どういう奴なんだ」
「……背が高くて、喪服みたいなスーツ来たおっさんだったよ。んで……えっと、あれ? どんな顔だったっけ……」
「んだよ、そこまで来てまだしらばっくれるつもりか?」
苛立ち混じりに凄む東郷に「違うんだよ!」と首を振って、困惑したように彼は呟く。
「顔が、思い出せないんだ……顔も、声も、髪型も……何度も会ってるのに、全然……」
「なんだそりゃ」
怪訝な顔をしつつも、しかし宮代の様子からは嘘をついているようには思えない。
呪術師であるという井境。ともすれば何らかの超常的な力によって彼から自身についての記憶を薄れさせるような真似も可能なのかもしれなかった。
「……まあ、外見はいい。んで? なんでお前は井境とつるむことになったんだ」
その質問に、宮代は奇妙に弛緩した笑みを浮かべてみせる。
「……あの人は俺のこと、褒めてくれたんだ。俺が親父を殺したのを見て、『よくやった』って……しかも俺が逃げるのも手伝ってくれるって言って。すげえんだ、あの人は。頭の回転早いし、俺の悩みとかもばちっと言い当ててくれるし……ヤクザの抗争を起こすやり方も、あの人が考えたんだ」
「井境が、俺たちを潰し合わせようとした……」
いよいよもって妙な話である。
死んだと言われていた呪術師、井境。その人物が今になって暗躍していて――半グレに拳銃を渡したり、殺人犯を子飼いにしたり。挙句の果てにはヤクザ同士の抗争を起こして、潰し合わせようとしたというわけだ。
だが……一体、何のために。
「金堂さん。あんた、井境って名前のヤクザに心当たりはないか」
試しにそう訊ねてみるが、彼もまた首を横に振るのみ。となると月無組と因縁があるというわけでもないらしい。
考えを巡らせていると、その時誰かの携帯から着信音が聞こえてきた。
音の源を探ると――それは宮代のパーカーから出ている。
ポケットを探って携帯を取り上げたところ、画面にはただ番号だけが表示されていた。
「悪いが、今ぁ取り込み中だ。後に――」
『へえ、いいのかい。あんたのところにいた女子高生ちゃん、取り返したくないんだ?』
知らない男の声。だが、その発言の内容で東郷ははっと目を見開く。
「……てめぇ、井境か」
『そそ。お初のご挨拶が電話ですまないね、経極組の東郷さん』
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