■7//ヤクザVSゾンビヤクザ(2)

「おっかしいなあ。組同士をぶつければ、ヤクザってバカだから簡単に抗争始めて共倒れするって聞いたのに……なんで共闘とかしちゃってるわけ? しかも死なないはずのこいつらまで、なぜか死んでるし」


 残っていたゾンビを率いながら、若干苛立ちまじりにそう呟いた宮代。刀の背で肩をとんとんと叩きながら、彼はヤクザたちをぐるりと見回して。


「おかしいよね。こいつら頭撃たれようがなんだろうが死なないはずだぜ? なのにさぁ、昨日だってそうだけど――なんであんたら、こいつらを殺せるわけ?」


……そう呟いた彼の視線は、東郷へと向いていた。


「経極組の東郷、だっけ? こいつらを見ちゃった以上、あんたにゃ死んでほしいんだけど――いや、違うな。そんなこと関係なく、死んでほしいんだよね。あんたらヤクザには」


「……人の恨みはビル一棟分くらいは買ってるが、お前から恨まれる覚えはねえぞ」


 そう返した東郷に、宮代は小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら「いやいや」と呟く。


「恨みとかそういうんじゃないから。俺はね、正義の味方なの」


「あぁ?」


「正義の味方って、悪いやつをぶっ殺すじゃん? だから斬られて死んでもらうための悪い奴がいてくれないと困るんだけど――その点あんたらは丁度いいわけよ。社会の鼻つまみ者、誰にとっても迷惑なゴミクズども」


 焦点の定まらない目。そこに浮かんでいるのは、ありありとした狂気。


「あんたらみたいなヤクザを掃除すれば、きっと皆俺を褒めてくれる。クラスのクソどもだって、学校のクソ教師だって、親父だって・・・・・……もう俺のことをバカにしない。正義の味方を、バカになんてするわけないんだ」


 上半身を揺らしながらうわ言のように語る彼を見て、東郷は面倒くさそうに首を振る。


「ったく、何の事情があるかは知ったこっちゃねえが――どうあれてめえが、うちの若衆やらここの警官やらを殺したのか」


「ん? ああ、そうだよ。……警察の人には悪いことをしたけどね、だけど邪魔だったから、仕方ないよ」


 あっさりと悪びれもなく言ってのける宮代を前に、東郷は深く息を吐いた。


「……そうかい。よく分かった」


「え? 何が?」


「てめぇが心底どうにもならねえ、クソ外道だってことがさ」


 吐き捨てるようにそう告げると、東郷は白鞘の切っ先を宮代に向ける。


「俺にあの写真送りつけたのは、てめえだな」


「うん、そうだけど?」


「あの子はどこにいる」


「え、教えるわけないじゃん」


「そうかい。なら――てめえをしばき倒して、たっぷりと色々訊くしかねえな」


 そう言って東郷が白鞘を構え直したのを合図とするように、動きを止めていたゾンビたちが一斉に東郷たち目がけて群がってゆく。

 だが――


「クソが、経極組の連中にばっかりいい格好させてちゃあ代紋が泣くわ! チャカ使ってもかまいません、蹴散らしぃや!」


 そんな金堂の威勢のいい号令とともに、月無組の組員たちがこぞってゾンビたちに拳銃を向ける。

 無数の銃声が弾け、ばたばたと倒れていくゾンビたち。それによって宮代までの道が拓けたのを見て取って、東郷は一気に走っていく。


「っらぁ!」


 勢い任せに振り抜いた斬撃を刀で受けると、その勢いのままに後ろに跳びながら宮代は刀を構え直し、東郷に向かって突き込む。

 だが東郷はそれをわずかに身をひねりながらかわし、上段からもう一撃。前進しながらそれを回避した宮代とすれ違うようにして、再び二人は刀を構えなおして対峙する。

 東郷の攻めをしのぎきる動き。ただの大学生にこんな芸当ができるものだろうか。

 そんな疑問に応えるように、宮代がにやりと笑う。


「この刀さ、すげぇんだ。持ってるだけで、こんな達人みたいな動きまでできる。……そのおかげであんたんとこのヤクザだって、簡単に殺せたよ」


 人の殺意を高める妖刀。ともすれば高められたその闘争本能が所有者の技量にすら及んでいるのかもしれない。

 だが――そんな考察は、東郷にとってはどうでもよかった。

 ややこしい理屈など関係なく、今の彼にとって重要なことは……調子に乗って道を踏み外したこの外道をぶん殴る、ただそれだけだった。

 白鞘を構え、再び斬りかかる東郷。だがそれを軽々いなしながら、宮代は小馬鹿にするように鼻を鳴らす。


「無駄、無駄! これを持ってれば誰にも負けないって、あの人・・・だって言ってたんだ! だから――」


 東郷の振るった刀と打ち合った刹那、そこを軸に軽業師のようにぐるりと飛び、一気に東郷の背後をとった宮代。


「――死ねよ、社会のゴミが!」


「うるせえよ」


宮代の振るった横薙ぎの一撃を、しかし予測していたように刃で受け止める東郷。

 斬撃の重みを筋力だけでしのぎ切ると、弾いた流れで後ろを振り向き、東郷はそのままさらに前に出る。


「うっ、わ!?」


 まさかそこで接近してくるとは思わなかったらしい。驚いた声とともにたたらを踏みながらも一撃を返そうとする宮代。

 だが勝敗を分けたのは――踏んできた場数と、何より死をも恐れぬ極道根性。

怯えとともに放たれた宮代の一打より、東郷の剣の方が速かった。

 ごん、という鈍い音とともに宮代の右肩を刃の峰が打ち据えて、その傷みで宮代は呻きながら刀を落とす。

 それをすかさず踏みつけながら、東郷は左手を柄から離すと尻もちをつこうとする宮代の襟首を掴んだ。

 助けを求めようと周りを見回す宮代だったが、残っていたゾンビどももあらかたリュウジたちによって消し飛ばされた後。

 ゾンビによって怪我を負わされた月無組組員たちの殺意に満ちた視線を受けて短い悲鳴を上げる宮代に、東郷は禍々しい笑みを浮かべながら告げた。


「さぁて、勝負ありだ。知ってること洗いざらい、喋ってもらおうか。……俺たちは社会のクズなんでな、正直に言わねえと何するか分からねえぞ」


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