■7//ヤクザVSゾンビヤクザ(1)
「……おいおい、どういうこった、こりゃあ」
若衆の顔をした動く屍――東郷に殴られて首の角度を変形させたまま、そいつはゆっくりと立ち上がると再び東郷へと向かってくる。
「ちっ」
あいにくと今日は除霊グッズの類の持ち合わせがない。何度か殴りつけて距離を取っていると、横合いから金堂の振るった長ドスがゾンビの首を切り飛ばした。
「なんかご存知でいらっしゃるようですなぁ、東郷さん。なんでござんすか、この冗談みたいな連中は」
「行方不明になってたうちの若衆だ。ただ、もうすでに死んでる」
「そら首チョンパしたら、生きてはいないでしょうが」
「そういう意味じゃねえよ」
東郷の言葉に怪訝な顔をする金堂。すると彼に首を落とされて倒れていたゾンビが再び、ゆっくりとその身を起こし始めた。
それを見て、さすがの彼も言葉を失う。
「……はぁ、なんでござんすかね、こりゃ。クスリとかはやってねぇんですが」
「言ったろ、とっくに死んでるんだ。だから斬ろうが殴ろうが撃とうが関係ねえ」
言っているうちに他の組員たちもゾンビの群れに圧され始め、自然と東郷たちは広間の片隅へと追いやられていく。
腕を斬ったり足を折ったりして足止めすることはできるが――しかし決定打がないために倒しきれない。
対する月無組の組員たちは疲弊し、一人、また一人とゾンビに殴られて行動不能になっている。……死人が出ているかまでは分からないが。
「おい、誰か一人くらい塩とか持ち歩いてる奴ぁいねえのか、あんたの組には!」
「そんなトンチキな輩、いるわけないでござんしょう!?」
それもそうだった。
舌打ちしながら打開策を探る東郷たちに、ゾンビたちが再び押し寄せようとして――だが、その時のことだった。
突如広場に響いたのは、重々しい散弾銃の銃声。
外周を囲んでいたゾンビたちが何体からなぎ倒されたそこに、彼らが立っていた。
「すいませんカシラ、遅くなりました!」
――そう言ったのは、散弾銃を腰だめに構えたリュウジ。そしてその後ろには、無数の御札を貼り付けた金属バットを構えたコイカワと、塩の袋を抱えたヤスもいた。
「うわわ、なんかめちゃくちゃB級映画みたいな絵面になってるッス!?」
「ンなのいつものことだろうが! オラオラ、どけやてめェらァ‼」
そう声を上げるヤスとコイカワに反応してか、ゾンビたちがターゲットを変えて彼らへと向かっていく。
その隙を見て、リュウジは腰に差していた白鞘を取り出すと東郷に向かって投げた。
「カシラ! これを!」
「おう!」
まるで手に吸い付くように飛んできた白鞘の柄を握りしめると、そのままの勢いで東郷は抜刀。
するとその刹那……鯉口から一瞬、おびただしいほどのドス黒い殺気が吹き出したように思えた。
殺す、殺す、殺す。頭の中で直接怒鳴り散らしてくるような凶気の塊。この刀に染み付いた、ヤクザどもの怨念だ。
気を抜けば一瞬で気が狂いそうなほどのその殺意の濁流に包まれながら――東郷はしかしにたりと笑って、
「……はっ。すっかり元気になったみてえじゃねえか」
むしろ喜びすら感じながらその怨嗟を握りつぶすと、そのまま刃を一閃する。
死んだヤクザたちの純然たる殺意が呪詛となり、まとわりついたその刃。その一撃は埒外のものすら問答無用で斬り殺す、暴力の塊に等しい。
ゆえにゾンビどももまた例外ではなく、白鞘によって斬られた端から灰になって崩れ去ってゆく。
白鞘の切れ味に満足したところで、東郷はゾンビたちの向こう側にいるリュウジたちへと声を掛けた。
「おい、お前ら! まずぁこのクソったれな死体どもを蹴散らすぞ!」
「「「了解!」」ッス!」
応えるとともにリュウジが散弾銃をぶっ放し、それによって足や腕を吹き飛ばされて行動不能に陥ったゾンビに向かってヤスが塩を撒く。
撃ち漏らして接近してきたゾンビにはコイカワが御札付きバットの一撃を食らわせて、そのまま灰に。
この手の存在を相手取ることにはすっかり慣れた彼らである。その完璧な連携を前に、月無組の組員たちは唖然としながら見守って――その時、此方でもまた暴風のような暴力が吹き荒れていた。
「っらァ!」
白鞘を握った東郷である。片手に刃、片手には鞘を握りながら、向かってくるゾンビを次々に斬って捨てる彼――その顔に浮かぶのは、禍々しいほどの笑み。
その様子を目の当たりにして、ゾンビと対峙していた時よりも震え上がる月無組組員たち。
金堂もまた、唖然としたまま、
「……はぁ。こりゃあの人がいる間は、あっちに手ぇ出せませんなぁ」
もはや気の抜けた声でそんなことを呟いていた。
東郷たちの応戦で、あっという間に数を減らしていくゾンビたち。このままいけば押し切れる、そう思い始めた東郷であったがしかし、どうやらことはそう単純にはいかないようだった。というのも――
「……っ!」
不意に感じた濃厚な殺気に反応して窓の方を見たその刹那、窓を叩き割って何者かが広間へと乱入してくる。
「あーあ、なんだよこれ。なんでまだヤクザどもが生きてるんだ?」
それは――片手に剥き身の長刀を携えたパーカー姿。
間違いない、宮代栄斗であった。
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