■3//窓辺から睨むもの(3)
事務所に戻ってあらましを説明すると、ひとしきり聞いたところでリュウジは腕を組んで小さく唸った。
「カシラ相手にメンチ切るたぁ、とんだクソガキですね」
「ホント、見てて気が気じゃなかったッス」
「その場に居合わせたくねェなァ……」
舎弟たちの評価は全体的にむしろ半グレの方を心配するような色合いだったが、それはさておき。次に東郷が指示したのは、改めてこの廃ホテルが営業していた頃のことについて経営者に当たることだった。
話を持ってきた組員は何も聞いていないと言っていたが、とはいえ実際に経営者に確認してみなければわからないこともある。
そういうわけで組員から経営者の連絡先に繋いでもらい、話を聞き出した東郷であったが――結果は変わらず、シロ。
経営中に殺人事件などのような大きな揉め事はなかったようで、閉鎖した理由も単純に金銭面の問題だけだったという。
ただ、完全に空振りだったかというとそうでもなかった。と言うのも、噂話が出始めた時期について、もう少しばかり細かい話を聞き出せたからだ。
『ええ、本当に最近になってからでね。そう、ほんのひと月前くらいですよ。私の耳に入ってきたのは』
というのが経営者の言。ソノベも最近とは言っていたが、まさかここまで急に湧いて出た話だったとはいささか驚きだった。
そんな情報を得たところで、東郷たちは事務所で額を突き合わせて改めて例の写真を眺めていた。
印刷した紙面に写る、窓辺の女性。顔はそうはっきりと写っているわけではないが――ただ目だけが、確かな存在感を持ってこちらを見下ろしているのが分かる。
そしてそこにありありと浮かんでいたのは……明らかな憎悪だった。
「……気味悪ィなァ。サ◯コみてェ」
「呪いのビデオは前回やったッスよ」
「そうだけどよォ」
汚いものに触るみたいに写真をつまみ上げながら、コイカワは顔をしかめたまま東郷を見た。
「んでカシラァ、こいつの正体突き止めるなんて、可能なんで?」
「それを今、リュウジにやってもらってんだ。……どうだ、そっちの調子は」
そう言って東郷が話を振ると、黙々とノートパソコンと向き合っていたリュウジが静かに頷いた。
「経営者の話で期間を絞れたおかげで、アテは見つかりました。……見てください」
そう言って差し向けられたノートパソコンの画面を覗き込む、他三人。そこに映し出されていたニュース記事を見て、東郷は眉間のしわを深くした。
「こいつぁ……昼のニュースで見た、行方不明事件か」
この近辺で起きている、連続行方不明事件。記事を読んでみると、ちょうど最初の一件目が発生したのが一ヶ月ほど前のことだという。
そして――その被害者の写真を見て、東郷たちはコイカワの手元の写真と見比べて唸る。
長めの黒髪の、二十代の女性。さすがに似ているかどうかまでは分かりかねるが……特徴としては一致しているように思えた。
「でかした、リュウジ。ビンゴかもしれん」
「ありがとうございます。ですが……だとすれば、行方不明の被害者がなんで潰れたラブホの廃墟なんぞに?」
リュウジの疑問に、東郷は「さあな」と肩をすくめる。
「……半グレがたむろしてる廃墟に、行方不明者かもしれねぇ幽霊。どうも臭い話になってきたな――ったく、神主殺しのガキの件もまるで片付いてねえってのに」
呟く東郷の横で、コイカワもまた嫌そうな表情で呻いた。
「あのォ、カシラ……やっぱ乗り込む感じだったり?」
「当たり前だろ。単なる幽霊騒動だけならまだしも、半グレが絡んでるかもしれねえ妙な事件まで関わってきたとなりゃあ――無視するわけにもいかねえよ」
そう言ってソファから立ち上がると、三人を見回して東郷は続ける。
「組のシマで半グレに好き放題させてたとあっちゃあ、極道の名折れだ。……クソッタレなガキどもに、しっかりと俺らの流儀を教えてやるぞ」
「やっぱそうなるッスね……」
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