ヤクザVS呪いノAV編
■0//第一の犠牲者
とある未明のアパートの一室。
狭く散らかったその室内で、居住者であろう一人の男がその部屋の片隅で縮こまり、ぶるぶると震えていた。
食べっぱなしのカップラーメンの容器、ビールの空き缶……そういったゴミが片付けられることもなく散乱し、畳にも染みのようなものが点々としている。
電灯はついておらず、窓にはびっしりとアルミホイルが張られていて、月の光すら入ってこない。光源と言えば部屋の片隅に置かれたテレビモニターの明かりだけ。
そんな真っ暗な室内で、震えているその男は――見るからに一般人ではなかった。
腕には刺青が入り、頭は丸刈り、いかつい顔には傷跡が入っている。
シャツにトランクス姿でひどく情けない格好でこそあれ、見るからに彼はその筋の人間であった。
本来であれば暴力によって他者を恫喝し、怯えさせることの方が多いであろう男。
だが今の彼はまるで追い立てられた草食獣のように情けなく肩を震わせ、顔を真っ青にして涙を浮かべている。
まるで、何かに怯えているような――いや、確かに何かに、怯えているのだ。
「……いやだ、いやだ、くそ、何だよ、やめろよ――」
頭を抱えながらその巨体を縮こまらせ、震える声で呟く男。だがしかし、薄暗い部屋には彼以外に人はいない。
四畳半の居間からそのまま続く台所にも玄関にも、誰もいない。だが彼は――ただ一点を見つめ続けて、身をこわばらせる。
一点……部屋の片隅でぼんやりと明かりを照らす、テレビ画面を見つめて。
今どき珍しい、VHS機材が繋がれたテレビだ。真っ暗な室内において唯一の光源となっているその画面に映っているのは、砂嵐だった。
地上デジタル放送に移行して久しい昨今、見ることのほうが珍しい画面。
否応なく心をかき乱してくるようなザーザーという音を垂れ流し続けるその画面を見つめながら、男はしかし、まるでそこに何かが見えているかのように「ひぃ!」と悲鳴を漏らす。
「やめろ……やめろ、こっちに、ああ、こっちに来るなっ……」
すでに部屋の壁を背にしながら、なおも後ずさりしようとする男。無論、何もない。
何もないのに、彼はただひたすら、何かから逃げるように身悶えして――すると、その時だった。
テレビの画面がぷつりと切れて、部屋から一切の明かりが失われ。
闇だけがその場を支配した後……数秒か、数分後か。再びテレビの画面に明かりが灯り、今度は砂嵐ではなくひとつの映像を表示する。
映し出されたのはなにもない、真っ白な部屋。画質はひどく荒く、VHS時代のもののように見える。
映像の中に、人はいない。代わりにそこに唯一あるのは、壁に赤で描かれた奇妙な文様。
「井」の字を無数に組み合わせたような、大きな「四角」――そしてその文様と同じものが、いつの間にかこの部屋の壁にもあった。
使われている塗料は映像と同じ、血のような赤色。
いつの間に描かれたのか、どうやって描かれたのか。それを知るものは、すでにこの部屋にはいない。
この部屋にいた唯一の人間であった男は――首筋からおびただしい量の血を垂れ流して、絶命していたのだから。
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