■14-合わせ鏡と花子さん-II
「「――――きゃゃああぁぁああぁぁぁ!!??」
「「ウワーーーーーっ!!」ッス!!??」
響き渡った絶叫は、四人分。美月と六花、そして二人の悲鳴に反応したコイカワとヤスの二人のものであった。
ちなみにサラウンドで聞こえた悲鳴に、水守の姿をしたものもまたその表情にわずかに戸惑いを浮かべている。しかしそんな彼女の頭上を飛び越えて、美月はチンピラたちに向かって言葉を投げかけていた。
「あっ、あんたたち、何いきなり立ってるのよ! 暗いとこでそんな顔見たらびっくりするじゃない!」
「あっ、美月ちゃん酷いッス! コイカワさんはともかく俺はそんなに怖くないッスよ!?」
「俺はともかくってどういうことだヤスゥ!! てめェコラ俺の激シブフェイスにイチャモンつける気か、あァ!?」
本場の怒号を轟かせるコイカワに反射的に怯え上がる六花と、ついでに水守(のようなもの)。
その様子を見て思い出した様子で、ヤスが「そうだったッス!」と声を上げた。
「そんなことより、その子ッス!」
「そういえば! ちょっと水守、貴方――」
そう美月が声をかけようとすると、水守の顔のそれは急に踵を返し、今度はトイレから駆け出していってしまう。
それを追いかける美月と六花、そしてコイカワたちもそんな美月の態度に何かを感じたのか、彼女の後を追いかけながら話を続けた。
「美月ちゃんが急にいなくなっちまったから、探してたんだ! そうしたらよォ、その……なんだ、歩き回ってるうちにちょいと、催してきたっつーかよォ」
「コイカワさん、ビビるとおしっこ近くなるッス」
「うっせェ!」
「――なんでそれで女子トイレに来てるのよ?」
「使われてない校舎なら女子トイレ入っても怒られないって言ってたッス。コイカワさん、前々から思ってたけどちょっとその性癖は犯罪的じゃないッスか――あいた!」
「仕方ねえだろ、男子トイレが打ち付けられてて入れなかったんだからよォ!」
走りながらなので、突っ込んだ後に盛大にげほげほと咳き込むコイカワ。そんな彼を横目に見て、ヤスが悲しげに目を細める。
「コイカワさん、その歳で走りながら叫ぶのはキツイっスよ」
「まだ三十代だっての! クソがよォ――元野球部の体力、舐めてんじゃねェぞ!」
言いながらコイカワが、ペースを上げる。床が踏み抜かれそうな勢いで足音を立て、目を血走らせながら走る彼の気迫に――美月と六花は若干引き気味になってペースを落とした。
「待てゴラァ! ひひひ、絶対にとっ捕まえてやるからなァ――」
「セリフが完全に犯罪者のそれじゃない」
「顔も犯罪者じみてるッス」
勝手なことを口々に言う美月とヤス、おろおろする六花など眼中にもなく凄まじいスピードで走るコイカワ。すると「水守」との距離はだんだん縮まっていき――「水守」は後ろをちらりと一瞥すると同時、その顔に驚愕の色を浮かべた。
「――っ!?」
「捕まえ、たァ!!」
獲物に飛びかかる肉食獣、あるいは婦女暴行犯めいた飛び込みで水守へと抱きつくコイカワ。しかしそれと同時……進行方向からよろよろと姿を現した影があった。
「……うわ!? 何だ!?」
両前だ。美月の一撃からやっと立ち直って追いかけてきたのだろう、彼は目の前から掛けてくる「水守」とコイカワに完全に圧倒された顔で立ちすくんでいて――するとコイカワに抱きつかれた「水守」、彼女の体から何かが飛び出し、目前にいた両前へと入り込んだ。
「むっ、ぐ、がっ……!?」
一瞬だったが、見えたのは――少女のようだった。
おかっぱ頭の、和人形めいた少女。それが怯えたような顔で両前の体に飛び込んで、そのまますっと吸い込まれていく。
しばらく苦しんでいた両前はやがてぴたりと動きを止めると、その場でばったりとひっくり返って動かなくなる。
そんな彼をしばらく皆、凝視していたが……やがて美月は、コイカワに抱きしめられたままの水守へと駆け寄っていった。
「大丈夫!? 水守ちゃん!」
「……ん……ぅ、あれ、美月ちゃん、六花ちゃんも――」
寝ぼけ眼でぼんやりと呟く彼女。そのふわふわした小動物めいた雰囲気は、間違いなくいつもの水守だった。
「みーちゃん、大丈夫!? 怪我とかない!?」
「うん……なんか変な匂いするけど、大丈夫……」
「加齢臭ッスね、それ」
「うっせェぞヤス!」
やいのやいのと喚く外野は捨て置きながら、六花は水守をぎゅっと抱きしめて涙を流す。
「よかった、みーちゃんが無事で……! ねえみーちゃん、一体何があったの? なんで旧校舎なんかに……」
そう問いかける六花に、水守は困惑しながら首を傾げていた。
「わからない……家に帰って、部屋に戻ったところまでは覚えてるんだけど――その後、部屋にある鏡を見て……それから、よく覚えてなくて」
「鏡……」
鏡。合わせ鏡の七不思議。……無関係とは思えないが、とはいえ今は、彼女を無事に確保できたことを喜ぶべきだろう。
そう美月が思案していたその時、不意に床の軋む音が響いて、一同は音の方へと視線を向ける。
すると――先ほど気を失って倒れた、両前。
だらりと腕を垂らした奇妙な姿勢。生気のない目で彼がこちらを、じっと睨みつけていた。
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