ヤクザVS学校ノ怪談編

■0-十三階段

 午後五時を回って、下校のチャイムが遠くに響く黄昏時。

 木造の旧校舎の廊下を、一人の女子生徒が息を切らせて走っていた。

 ぎしり、ぎしりと軋む床板。もう十年以上も昔に閉鎖されたまま取り壊されもせず放置された旧校舎だ、少し歩くだけでも足音はよく響く。

 だからこそ。


 ぎしり、ぎしり、ぎしり。

   ぎしり、ぎしり、ぎしり、ぎしり。


 走る少女のそれと少しずれて聞こえる、もうひとつの足音。

 それもまた――鮮明に、よく響いて届いた。


「はっ、はっ、はっ……はぁっ……!」


 女子生徒がペースを早めると、もうひとつの足音もまた同様にペースを上げてくる。

 まるで、逃げる女子生徒をおちょくっているかのように。それは決して離れもせず、近づきすぎることもなく、ただ一定の距離を――まるで影のように付きまとってついてくる。


「だれかっ……」


 かすれた声で叫ぶ女子生徒。だがそれに返事などない。あるはずもない、この旧校舎は本来封鎖されていて、立入禁止になっているのだ。


「なんでっ」


 張り裂けそうな肺でそう呟いて、女子生徒は暗い廊下をひた走る。


「なんでっ」


 軋む、軋む、軋む足音。


「なんでっ、こんな……ことにっ……」


 転がるようにして廊下の突き当り階段を降りて。

 その時はっとして、彼女は――振り返った。

 今しがた下った階段、その段差を見つめて。

 彼女は信じられないといった顔で首を横に振って……震える足で数歩、後ずさった。


「嘘――どう、して」


 刹那。踏みしめたはずの彼女の足が虚空を踏んで、バランスを崩してそのまま後ろ向きに倒れ込む。

 背中と頭を打ち付けて激痛が苛む中、女子生徒は涙目になりながら体を起こそうとして……けれどそこで、その表情を歪ませたまま、硬直する。


「……あ、ああ」


 軋む。

 軋む。

 軋む、軋む、軋む。

 音を立てて、何かが近づいている。けど、一体何が――そう思ったところで、女子生徒はやがて気付く。


「ああ、そっか」


 この音は。

 私が、

    軋んで、

            折れる、音――――

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