DAY3-18:15-<4>
そうして木造の古びた階段を降りてゆき、先に落ちていたヤスと合流すると……彼は東郷たちを見て涙目になってへたり込んだ。
「ひぇえ……いきなり落っこちたッス。ヘルメットがなければ死んでたッス」
「安全メット様様だな。だが……よくやった、ヤス。お前のお陰でとりあえずは逃げ切れた」
東郷がそう告げるとヤスは「へへ」と頭をかいて照れくさそうに笑っていた。
他の二人を見ても、返り血塗れではあるが怪我などはなさそうだ。それを確認して――東郷は改めて、今いる空間を見回す。
懐中電灯に照らし出された壁は、むき出しの土を坑木で補強しただけの簡素なもの。階段の造りの古さに違わず、恐らく相当昔からあったもの……この屋敷が建てられた時から掘られていた場所なのだろう。
辺りには木箱などが乱雑に散らばっていて、よくよく天井を見てみると、古い吊り下げ灯がある。
階段付近を探って触れたスイッチを押してみるが――とはいえ流石に電球が生きてはいないらしい。諦めてコイカワとヤスの灯りを頼りにして、東郷は奥へと踏み込むことを決めた。
「なんなんスかね、さっきの奴ら。なんかゾンビ映画って感じだったッスけど」
「俺に聞かれても分かんねえよ。だが、とりあえずぶん殴って倒せたし、銃でも倒せた。それさえ分かれば十分だろ」
「そういうもんッスかね……」
東郷の返答に微妙な表情を浮かべて沈黙するヤス。代わりに、この空間での沈黙に耐えられなかったのか今度はコイカワが口を開いた。
「さっきのゾンビどももそうだけどよォ、ここも一体なんなんだろうな。見取り図には全然書かれてねェし……」
「方向的には多分、屋敷の真ん中に向かってるッス。……ってか奥行っちゃって大丈夫なんスかね……」
怯えながら呟いたヤスに、東郷は「馬鹿野郎」と返した。
「こんないかにもな地下室があるんだ、どう考えてもここに触媒とやらも隠されてるに決まってるだろ。殺すぞ」
「そういうもんッスか……確かにホラー映画とかだとだいたい地下室はキーポイントッスけど」
「その分、だいたいやべェことが起こるのも地下室だけどな」
後ろを振り向いてけらけらと笑いながらコイカワがそう言った、その矢先。
進行方向、懐中電灯で照らされたその奥に、きらりと何かが反射するのを見て取って――東郷が反射的に叫ぶ。
「コイカワ、伏せろ!」
「へ?」
とっさに彼が頭を下げた、その瞬間。
――奥から飛んできた包丁が、彼のパンチパーマをかすめて頭上を通り過ぎていった。
「…………ひ、ひぃ、俺の自慢の“
「似合ってもいねえから別にいいだろンなもん――リュウジ!」
「うす」
東郷が呼ぶと同時、リュウジが前に進み出ながら暗闇の奥めがけて散弾銃をぶっ放す。銃声が轟くと同時にマズルフラッシュが一瞬奥を照らし出し――するとその暗がりの中に一瞬、人のような姿が見えた。
「今のは――」
コイカワが落とした懐中電灯を拾って東郷が改めて奥を照らすが、そこには誰もいない。だが、他の三人の表情を見る限り……見間違いとも思えなかった。
体つきからして、女性。
しかもその顔立ちには、見覚えがある。あれは――
「……美月、ちゃん?」
流石に目を疑って呟く東郷。するとちょうどその時、ヤスの携帯電話に着信が入り、表示を見た彼は怪訝な顔をした。
「……クソジジイからッス。なんだってこんな時に……?」
「出ろ」
何か嫌な予感がしてそう促すと、ヤスは電話に出て――ややあって東郷に手渡してくる。
「カシラに代わって欲しいみたいッス」
他の連中にも聞こえるようにスピーカーモードにしながら「もしもし」と告げると、電話口から聞こえたのは、荒い息混じりの神主の声だった。
『東郷さんですか、すみません、私としたことがしくじりました――』
「神主さんか? なんだそりゃ、どういう意味だ? 今例の屋敷で、美月ちゃんを見たんだが……そっちで何かあったのか?」
東郷のそんな言葉に、神主は一瞬息を呑んだ後、ためらいがちにこう続けた。
『申し訳ない……八幡さんの娘さんを、拐われてしまいました……』
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