第19話 悩めるモニカ

 一ヶ月が経ちました。

 もう完全に慣れました。いつもの日常です。料理の腕も上がったとクラウス様に褒められるほどです。


 一つ大きな心配事がありますが、それを何とかする為の見当がつかないので日々を過ごすしかありません。


 クラウス様のおっしゃっていた人は中々集まらず今もメイドは私一人です。


 先月の事件のせいで自分の娘をメイドにしてあわよくば妻に、という考えの者が完全にいなくなったのはいいことだとは思いますが。

 奴隷を買おうにも、前回の失敗があるのでクラウス様も考えているみたいです。

 男の子ならと思いますが、女性に迫られて処分したのを周りに知られているのでそんな時に奴隷の男の子を買ったとなれば、そちらの趣味かとあらぬ噂が立ってしまいます。


 そんなある日、クライス様が子供を連れて帰って来ました。


 しかも双子。


 仕事先で見つけた、売られそうになっていた子供達だそうです。

 身元ははっきりしていませんが、奴隷を買ったのではなく身寄りのない子供を保護。

 周りを抑える為の口実は十分。

 他にも怪我をした女性がいましたがそちらは要治療。


 まずは双子ですね。


 クラウス様は密偵を疑っていましたがようやく来た人員。

 たとえ密偵であろうとハーヴィーさんと協力してこちら側の人間になってもらいます。


 ハーヴィーさん。

 お茶会をする仲になってから様づけは止めてほしいと言われました。


「クラウス様の側近からも恐れ……いえ、一目置かれている貴女から様づけで呼ばれるのはちょっと……私の胃の為にもお願いします」


 胃は大事ですからね。


 そして双子のエルさん、アールさん。

 素晴らしい。

 体力バッチリ、文字の読み書き計算問題なし。

 私も安泰です。


 え?

 主な仕事は掃除と洗濯?

 各自でさせていた掃除を元に戻すだけ?

 料理は? 変わらず私?

 いえ、文句はありません。

 洗濯だけでも大助かりです。


 庭の手入れは? したことないから出来ない? 私もないのですが……一気に増やすのはやめましょう。

 アールさんが余ったクライス様のお食事を全く気にせず全て食べていただけるだけで満足です。

 エルさんは流石に戸惑っていましたが。


 とにかく、人が来たことで先程言っていた大きな心配事が解決出来ます。一ヶ月の短期とはいえハーヴィーさんがいるのも心強いです。


 心配事とは、魔石設置型魔道具全般の魔石交換。


 クラウス様は筋金入りと思う程に魔法嫌いです。とにかく魔法全般を嫌い、この屋敷にあるトイレお風呂など全てが魔石設置型。

 魔石設置型も嫌っているみたいでしたがクライス様の説得で設置されました。


 その時私はまだ屋敷にいませんでしたが、本当に本当にありがとうございます。


 魔石設置型は文字通り設置された魔石に込められた魔力の量だけ動くので、中の魔力がなくなれば交換しなければいけません。

 大体一ヶ月ぐらいでしょうか。


 前は週に一回魔石交換の日を作り一ヶ月で屋敷全ての交換が周るようにしていましたが人がいなくなりどうしようもなかったのですが、双子のおかげでギリギリ間に合いそうです。


 そうそう、怪我をした女性。

 シスターさんと言いましたか。私と同じメイド服を着ていたのですがメイドではないと言われました。

 文字ダメ、計算ダメ、日常生活ダメ。

 人ではなく野良の犬猫と思えとクラウス様に言われました。


 それならメイド服を着せるのはやめてほしいです。

 私の胃と心の為に。

 違うと分かっていても、期待してしまうので。


 そう言ったらアールさんが嬉々としてメイド服を修道女の服に改造していました。

 え、案を出したのはアールさんで、繕ったのはエルさん?

 失礼しました。

 もう深くは突っ込みません。


 とにかく、待望の人が来ました。

 クラウス様の疑いも晴れて正式雇用です。

 余裕があるというのは素晴らしいですね。


 更にはクライス様の食生活が激変しました。

 シスターさんに食事を食べさせる為に毎日帰宅されるようになったのです。

 流石に昼はおられませんが、朝晩しっかり食べるようになりクラウス様も一安心です。


 クラウス様が「アニマルセラピー」と呟いていましたが……私には聞こえませんでした。


 ところで、新しい料理人は雇われないのでしょうか。

 庭師は。


 私がいるから必要ない?


 そこらのシェフより美味い?


 ありがとうございます、ですがまだ圧倒的人不足……いえ、確かに余裕は出来ましたけど……。


 ……私はメイド長を名乗っていいのでしょうか。

 というよりメイドですか?


 最近の悩みです。

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