第10話 シスターと再会
ヒールハイは非常に発展している街なのでその名物だという闘技場はさぞかし立派なのだろうと双子は考えていたが、実際はそれ以上だった。
「え、ここ全部闘技場?」
「こっちは鍛錬場であっちが闘技場の戦士専用の宿らしいよ。他にも色々施設が揃っているみたいだし、もう一つの街みたいだよね」
闘技場の目印になっている門をくぐるとそこは今までの雰囲気とガラリと変わり、石畳で出来た道以外の場所には短い芝が植えられている。
あちこちでは壁のない小さな試合場みたいな所で練習試合なのか打ち合いをしている人がいたり、それを眺めている人達がいたりとそれだけでもかなり賑わっている。
双子はとりあえず石畳を真っ直ぐ歩き、門をくぐる前から目立っていた一番大きな建物を目指した。
「流石街で一番名物の闘技場だね、人の出入りすごいよ。どうする、ちょっとだけ中覗いてみる?」
エルがそう話しけるも、アールは何故か前方を見たまま動かずにいる。
「アール?」
「ねえ、あそこにいるのもしかしてシスターじゃない?」
「え?」
「絶対シスターだって! シスター!!」
「えええええ! アール!? 何でこんな荷物持っててまだ走れるの……」
また走りだしたアールに、少しバテはじめていたエルは遅れながらも必死に後を追った。
「シスター!!」
「……ん?」
遠目からでも目立つ真っ黒な修道女の服を着た女性はやはりシスターだった。
シスターは闘技場を見上げたまま動かずにいたが、アールに呼びかけられゆっくり振り返り不思議そうな顔をしていたが、遅れて追いついたエルを見てようやく思い出した。
「ああ、あの時の双子か。何、まだ何かあるの」
「はい! あの時のお礼、ちゃんと言えなかったので来たんです。シスター、僕達のこと助けてくれてありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
「……。何だかなぁ……」
「え?」
ペコリと頭を下げるが、シスターの面倒くさそうな嫌がっているような言い方に不安になり双子は頭をあげた。
「『ありがとう』って、言うのも、言われるのも、久しぶりで……ちょっと、懐かしい」
そう言うシスターの顔は少し赤く、恥ずかしそうにぎこちなく微笑んだ。
今まで無表情だったり面倒くさそうだったりと、あまり好意的ではなかったシスターの初めて笑顔に双子はどこかむず痒い気持ちになりモゾモゾと体を動かす。
「そうだ! シスター、僕達がお世話になっている屋敷に来てくれませんか?」
「え?」
「アール、そんな勝手なことはダメだよ。あそこはボスと神父様の屋敷なんだから、僕達の都合で人を呼んだりしたら怒られるよ」
「でもシスターだし……せめて何かこう、何かしたいし……あ、じゃあとりあえず屋敷まで行ってボスに許可もらおうよ。それでもしダメなら、僕がもらったお金でご飯食べに行きましょう。それぐらいなら大丈夫ですよね」
そう聞きながらもアールの中では既に決定事項なのか、シスターの返事を待たず手を掴んで屋敷へと歩いて行く。
シスターは最初に会った時と同じく「待って」とか「離して」と言っているが、振り払うことはせずされるがままになっている。
「あ。アール、屋敷そっちじゃないよこっち」
「あれ、エルって道分かるの?」
「最初屋敷から出た時の街並み見てたから。服飾品のお店多かったから多分ボスの屋敷は北にあるんじゃないかなって」
「そっか、じゃあボスがさっきおばさんの言ってた四大貴族の一人かな」
「あー、かもね。あの屋敷、普通の貴族にしては内装豪華すぎるもん。……調べないよね」
「うん、おばさんは調べない方がいいって言ってたし、僕もあんまり興味ないかな」
アールの返事にエルは安心して先へと進み、シスターは完全に諦めた表情になって大人しく着いて行った。
******
屋敷の門に着くと、そのままシスターを中に入れようするアールをエルが止めた。
「アール、待って。門の中はもうボスの屋敷だから。念の為許可取ってからにしよう、お願い」
「あー、そっか。シスター、ここで少し待っててもらえますか? すぐに戻ってきますから」
「いいよ、アール。僕が行くから荷物頂戴」
「いいの?」
「うん。だから大人しく待っててね、本当」
エルはそう言うとアールの荷物を受け取り屋敷へと入った。
厨房には丁度モニカがいたので荷物を渡し、ボスを探しに二階へ上がったところで廊下にいたのを見つけエルは急いで近づいた。
「ボス! すみません、屋敷に呼びたい方がいるのですが中に入れてもいいでしょうか」
「……それは、お前の後ろにいる奴か?」
「え!?」
ボスの睨んでいるような目つきと低い声に驚いて振り返ると、そこには今も手を繋いでいるアールとシスターがいた。そしてその隣には神父がいる。
「アール!? ボスの許可無しに人入れちゃダメって言ったじゃん!!」
「え、許可はもらったよ? ねえ神父様」
「この女なら特に問題はないだろう。俺も屋敷に来るよう言っていたからな」
「ほら、神父様もシスターのこと探してたみたいだしさ」
「ええっ、だからって……」
「はああああああ。もう、好きにしろ……」
額をおさえ、ため息のような脱力した声を出しながら許可を出したボスにアールは素直に喜んでいるが、エルはそんなボスの姿に思わず同情してしまった。
「……(ボスって意外と苦労人、なのかな)」
その日、ボスのことが少し怖くなくなったエルだった。
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